ネットを介して単発の仕事を受発注してビジネスを回すというのが「ギグエコノミー」。その代表例がライドシェアのUberやLyft。(他に商品などを宅配するDoorDash、Instacart、Postmatesなどが有名です)

そこで働くドライバーは米国内で数十万人に達しているようですが、彼らは労働条件・待遇の改善を求めて何年も前から裁判などで闘ってきました。

そうした中で、ドライバーの生活を守り、ギグエコノミー事業を展開するハイテク企業を規制し、ダメージを与えるとみられる法案AB5(Assembly Bill)が、カリフォルニア州議会の下院で、次いで先週に上院で可決されています。

日本ではUberもLyftもないせいか、日本の大手メディアで報じたのは日経が夕刊で一度だけですから、ほとんど知られていません。私も英文記事の見出しを見た程度でした。

ところが、最近のNYタイムズの記事で、カリフォルニアじゅうの新聞が、この法案に反対していることを知りました。ギグエコノミー会社、なかんづくUberやLyftなどで働くドライバーを守る法案なのに何故、アナログの新聞が?

その前に、法案の内容をざっと説明しておきます。UberやLyftは、ドライバーを「独立した請負労働者」としてきました。会社側は福利厚生も退職金の心配もない。それを、医療保険も有給休暇もあるような「従業員」にすべしということです。そして組合の結成にも道を開く、と。

企業が「独立した請負労働者」として雇うには、その労働者がa)会社のコントロールを受けないb)会社のビジネスの中核でない仕事をするc)その業界で独立したビジネスを持っていることの証明ーーがすべて満たされなければ、会社は「従業員」として雇うべし、というキツイものです。

これだと、Uberなどは必要な数のドライバー全員を従業員として雇い入れなければビジネスが続けられません。それによる追加コストについてWired日本版の記事では「年間8億ドル(865億円)に上る」という専門家の数字をあげています。(一方、州の収入増は70億ドルになるかも、と書いてるのはVoxの記事

そして、英フィナンシャルタイムズ(FT)は「公正な雇用基準を損なう危険性のあるビジネスモデルはイノベーションのラベルの下で継続することは許されない」と、カッコよくバッサリ。新法案断固支持の立場です。

ところが、米国の新聞は違います。LAタイムズは「すでに新聞業界は苦闘している。議会は我々の業界にさらなる打撃を与える」と嘆き節です。

何故なら、アルバイトの新聞配達員に宅配を託し、編集局の縮小でフリーランスに記事面での依存割合が増えている新聞社にも、法案の規定で、彼らを「従業員」としての採用を迫られることになりそうだからです。(日本同様、もう新聞少年、新聞少女の時代ではありません)

必死のロビー活動で、フリーランスの記者やカメラマンについては、「年間」で寄稿数が「35」までのフリーランス記者なら、「従業員」にしなくてもいいという譲歩を得たそうですが、それでも、不自由なことでしょう。月にたった3本までですから。

それより深刻なのが、配達員の問題。先のa)b)c)の規定に照らせば、どう見ても「採用すべき」人たちになっちゃいそうです。でも部数減と紙の広告激減が続く中で、そんな余裕は全くない。

それを、カリフォルニア州の新聞人たちはこぞって危惧しているのです。「ギグエコノミーを制御する議会の努力のはずが、思わぬ副次的な悪影響を新聞業界に及ぼす」と。

これもロビー活動で、新聞だけは適用が先送りとなったそうですが、それもたった1年だけ。

自分の新聞だけでなく、NYタイムズやWSJなどの全国紙も宅配して経営の一助にしている部数5万台のSanta Rosa Press DemocratのCOOは「新法は新聞の配達の終焉を5年か7年に加速する」と嘆き、「(地元紙がなく、地元ニュースが何も得られない)News Desert(ニュース砂漠)が広がる」とも。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校のまとめた「The Expanding News Desert」では、「この15年に20%以上の新聞が廃刊になり、数千のコミュニティがNews Desertになるリスクを抱えている。2004年当時、独自の新聞を持っていた1300から1400のコミュニティは、現在、全くニュースが報道されていない。他の多くのコミュニテイをカバーしているのはほとんどが零細な週刊紙1紙だ」と述べています。

おそらくは、カリフォルニアの動きは、他州、とりわけ民主党主導の州では、同じようなことになるだろうとVoxは指摘します。そうなればNews Desertが全米に広がりかねない。

議会を通過したこのAB5法案はGavin Newsom知事の署名で来年1 月1日に発効します。知事は9月2日のレイバーデイに Sacramento Bee 紙への寄稿で「私はこの法案を支持できることを誇りに思う」と書きましたが、まだ、何らかの落とし所を探っているようで、まだ署名に至っていません。