今月1日の当ブログ「パンデミックで喘ぐ欧米の新聞業界」では、ロックダウンの拡大で、新聞広告が激減したためにレイオフ、サラリーカット、無給休暇の強制などが横行していることを紹介しました。
その後も、連日のようにそうした動きが報じられていて、10日のNYタイムズの記事では、「コロナウィルス が国全体に広がり始めてから、ニュースメディア業界全体で2万8000人に悪影響が出ている」と分析していました。
それからも、様々な動きがあったわけですが、とても追い切れません。ところが、ジャーナリズム研究組織Poynter Instituteが運営するサイトでは、3月13日から昨日までの米国新聞業界における解雇、レイオフ、サラリーカット、無給休暇に加え、印刷停止、廃刊などの動きを逐一記録しているのを数日前に発見しました。(記事は6日に初出で、その後、毎日アップデートしています)
個々の項目にそれぞれ情報源のリンクが付いていますから、情報量は膨大になります。なので、ためらっていましたが、昨日、思い立ってリンク先も含めて読み通しました。
読み終えて暗澹としました。先に挙げた1日のブログ記事では大手新聞チェーンのGanettや中堅紙、フリーペーパーなどのケースをいくつか紹介しましたが、74項目に及ぶ様々なケースから受ける印象は、米国新聞業界の断末魔の様相です。
リンク先に登場する中小新聞の発行人は口を揃えて「広告収入がなくなった!助けてくれ!救援資金を寄付してくれ!」と叫んでいます。
例えば、紙の新聞の発行を停止し、ウェブのみへの移行、または印刷日の削減という動きは、74項目(登場する新聞タイトルはその倍以上)中、およそ半分にも達してる感じです。
米国の新聞業界の苦境が伝えられて久しいですが、つい先日までは、そうした動きはニュースになっていました。しかし、”コロナ以後”ではありふれたことになったようです。
「紙」をやめたのは、お金にならないから。有代紙、無代紙を問わず、米国のローカルな中小新聞は、地元の商店やレストラン、映画館などのイベント施設等々からの広告出稿に頼ってきました。
しかし今や国民の95%がstay at home状態にあっては、広告を出しても、誰も客としてきてくれない。それ以前に多くの店や施設は営業していないので広告を出す意味がない。かくて、中小新聞の広告収入は壊滅的な状態になったわけです。
では、デジタル広告は集まるのか?今月8日に「暫定的に」紙の印刷をやめたカンサス州のHeven市のRural Messenger 紙のサイトを覗いてみました。これがトップページです。
左上はPickens Auctionsという会社のオンラインオークションのお誘い広告。その下はMessenger紙の主催する写真コンテストの募集という自社広告。広告はこれだけです。
右上は、印刷されない新聞のレプリカの一面のイメージ。これをクリックすると新聞の体裁をした19ページにわたるPDF”紙面”が読めます。不動産や求人などのclassified広告(いわゆる3行広告)が合計すると4ページ分はあって、そこそこかな、と思ったらこんな表示が。classified adはタダですって。
同紙は、コロナ収束後に、紙の印刷の再開を視野に入れているので、こうした形で広告出稿者を繋ぎ止めているのかもしれません。だとすれば、涙ぐましい努力です。
何れにしても、こんな状態では、中小の新聞社は人減らしをしたり、サラリーを削減したりするか、あるいは廃刊にするかの選択を日々迫られているという話が延々と74項目も続くので、改めて新聞の置かれた状況が胸に迫ったのです。
ちなみに、このPoynterの記事では、コロナウィルス拡散によるネガティブな影響について他のニュースメディアについても言及していますが、「テレビ」は2項目、「ラジオ」は10項目、「デジタルメディア」は9項目、「雑誌・シティマガジン」9項目と、74項目の新聞とは比較にならない少なさです。
その一方、デジタル有料購読者の獲得に成功したNYタイムズ、ワシントンポスト、ウォール・ストリートジャーナルの三大紙は、コロナ禍の中で微塵も影響を受けず、かえってアクセスを急増させていますから、その成功を讃える記事をよく目にします。
しかし、デジタルメディアBuzzFeedの編集長からNYタイムズのコラムニストに転じたBen Smith氏が、3月1日のNYタイムズデビュー作に付けた見出しは「NYタイムズの成功がジャーナリズムにとって悪い理由」という、日本の新聞ではありえない、自社の行き方に批判的なものでした。
彼は、BuzzFeedの前に所属した政治メディアPoliticoの創設者で、最近注目されているAXIOSの創設者でもある元ワシントンポスト政治記者Jim VandeHei 氏の言葉を引用しています。
「タイムズはもっと大きくなるだろう。ニッチはもっとニッチになるだろう。そして他は一つも生き残れない」
「それは民主主義にとって好ましくない」それがSmith氏の一貫した考えです。
その意味で、米国の今の状況は、個々の新聞の経営危機を超えて深刻なことでもあるのでしょう。1昨日の16日に緊急事態宣言が全国に拡大された日本がそうなりませんように。
2020 年 4 月 18 日 at 15:46 PM
中国政府がウオールストリートジャーナルの記事に対し、特派員を国外退去にしたのが、この2月。言論の自由を制限している中国の正しい現状を把握するのは外国のジャーナリズムなくしては無理。
次世代を予測できるぬかりない政治家と勇気あるジャーナリストがいないと人類の明るい未来はない。
良識ある島田氏の戦いが民主主義の光。
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