昨年来、米国のデジタルネイティブのニュースメディアの不調が表面化し、今年に入ってからはコロナウィルス の蔓延で全米的にロックダウン状態になったこともあって、広告が激減、人減らしや賃金カットが当たり前のようになっています。

そのことについては、このブログでも何回か取り上げましたが、その流れの中で「デジタルメディアはやり方次第で儲かる」と力強く語っているビデオに遭遇しました。

なかなか中味のあるスピーチと感じましたので、その中で成功例として取り上げられたサイトを、全てチェックしてみて、納得できたので記録しておきます。

語ったのはオンラインメディアDigidayの社長兼編集長のブライアン・モリッシー(Brian Morrissey)氏。今のポジションについたのは9年前ですが、それ以前の10年間もジャーナリストとしてインターネット業界を取材してきました。

そうした経験から、就任時から「収益性が高く、持続可能なメディアを目指し、築いてきた」という自負があるようです。

彼の考えを端的に言うと「自分たちの会社の未来は、自分たちでコントロールすること」です。

どういうことか。一つは「収入源をネット広告頼みにしない」。つまり収入源の多様化を図ることです。二つ目は「巨大プラットフォーマー頼みにならない」。プラットフォーマーにコンテンツを提供すれば、見た目のオーディエンスは増えるけれど、熱量の高いロイヤリティのある読者の集団=コミュニティが作れない、ということです。コミュニティがあれば、そこに集うファンにモノが直販できるからです。

今、ニュースメディアで最強、最大なのはニューヨークタイムズ(NYT)ですが、この考えに添っています。紙の新聞からの購読料収入、広告収入に加えて、有料電子版からの購読料収入、広告収入だけでなく、「ポッドキャスティングには200万人のリスナーがいて、少なくとも1200万ドル以上の広告収入がある」といい、収入の多様化が図られています。

もちろん、有料ですからグーグルで探して読むことは出来ない。ロイヤリティの高い読者集団があるので、ポッドキャストにも人が集まるという循環です。

NYTのような最強、最大メディアじゃなくても、同じようにやれるはずだというのがモリッシー氏の考え。それはニッチを狙うということ。

その例として最初にあげたのがBarstool Sportsというサイト。初めて聞く名前ですが、アクセスしてみて驚きました。

ここは2003年、紙媒体として始まり、2007年にネットに進出した、「若い男性向けのスポーツに関するコメディコンテンツを提供するサイト」という説明でしたが、スポーツ関連のニュースに加え、著名スポーツ関係者によるブログが満載。ブロガーは95人。訪問した時点で、24時間以内に投稿されたブログは12本で、それぞれが長く、充実しているようです。

さらに、ポッドキャストも充実、元ヤンキースの名選手、アレックス・ロドリゲスなど著名人が多数、出演。Wikipedia(英語版)によれば、「世界最大のPodcast publisherの一つ」とあります。

このほか24時間放送のラジオ番組を持ち、AppleTVなどのストリーミングサービスにビデオを提供するなどファンの幅は広く、そのファン向けのウェア類も多数、販売しています。あまりに種類が多くて目が回りそうです。

かくて、このサイトの収入は、モリッシー氏によれば、ネット広告、ポッドキャスト広告、ダイレクトコマースがそれぞれ3分の1づつになっているそう。

3年前に始まったばかりのスポーツ情報サイトAthleticのことは、以前、NYTが取り上げた(2度も!)ので名前は知っていました。全米各地で記者を大量採用して、ローカル紙のスポーツ面に取って代わろうという狙いで始まったのです。

有料で年60ドル(月ごとだと10ドル)。モリッシー氏は「有料購読者50万人を獲得した」ということですから、全員が年契約だとして、購読料収入だけで3千万ドル。ここでも12種類のポッドキャストをやってます。

ほぼスニーカーに特化したサイトを運営するのはComplex。記事の見出しは「マイケル・ジョーダンとナイキのJordanブランドが人種差別撤廃に向け今後10年で1億ドルを寄付」とか「アディダス従業員、ブランドの人種差別的労働環境に抗議」「略奪されたスニーカーは中古店でどう扱うか」など、ハードな内容も含めてスニーカー関連一色。

しかし、ここも、ショップを持ち、カシオG-Shockはじめ、AMBUSHの高級Tシャツ、サングラスなど若者に人気の商品を揃えています。

さらにHotonesという人気の映像番組を持っていて、ゲストの著名人に辛いチキンを食べさせて、彼らが飛び上がるなどの様子を流しているようで、これもモリッシー氏によれば、この激辛ソースの売り上げは、昨年「1000万ドル」だったそうです。

元ESPNの有名コメンテーターだったビル・シモンズ(Bill Simmons) 氏が4年前に始めたスポーツ中心のポッドキャストネットワークがThe Ringerです。なんと、サイモンズ氏自身のものも含め45チャンネルもあります。

今年はじめ、Spotifyに2億5000万ドルで買収されましたが、おそらく、ポッドキャストに付く広告が大きいからでしょう。もともと、借金なしで始めたようなので、シモンズ氏には巨額の収入になったようです。

このほか、デジタル業界について突っ込んだ記事を提供することで評判になったThe Informationについては、有名になったせいか簡単にしか触れていませんが、年399ドルの高額な購読料にも関わらず、着実に契約を伸ばし、2000万ドルになったそうです。「さらにコミュニティを持ち、強固な繋がりを持つ熱量のある読者が存在する」とありました。

そして、「ブランド力はウェブサイトより優れている」と言います。「Facebookなどのプラットフォーマーから大量のトランザクションを得ていても、利用者にとって習慣的なものやロイヤリティを築けていなかった多くのサイトが廃業したのだ」。それがあってこそ、ここに挙げられたサイトが成功しているのだというわけです。

なお、これは今年2月の会合での講演です。なぜかさる8日に出た記事で紹介されていたのです。このスピーチから4ヶ月、コロナ禍の下でも、Digidayを含め、ここで紹介したサイトでレイオフや賃金カットがあったというニュースは目にしていません。