新型コロナウィルス のパンデミックがデジタルメディアに及ぼす影響で明らかになったのは、広告収入頼みの経営は脆弱だということです。

前回の拙ブログでは、生き残るには収入源の多様化が大事だという主張を紹介しました。その柱の一つはまあ、当たり前ですが有料購読者の獲得です。

それをどうやって実現するか?テキサス州ダラスの日刊紙ダラス・モーニング・ニュース(Dallas Morning News=DMN)は、自社の記者を「インフルエンサー」に見立てて、有料電子版への加入を勧誘するというユニークな実験に取り組んでいます。

DMNでは、多くの記者がツィッターで発信しているようで、各自にはそれなりのフォロワーがいます。そして記者は自分の”守備範囲”については詳しいはずだから、インフルエンサーに見立てて、マーケティングに協力してもらう、という考えです。4月21日にスタートしました。

その一人、コロナウィルス 関連の記事を書いているMallorie Sullivan記者の投稿はこれ。

<DMNをサポートし、私をローカルニュースのインフルエンサーの形になれるよう助けてくれますか?リンク先に行って、プロモーションコード「MALLORIE」と入れたら、デジタル版が1ヶ月無料になります>

試しに私もリンク先に行ってみました。すると、まずこんなページが出ます。

<本当のローカルジャーナリズム>「コミュニティの信頼できる情報を得るために訪れる場所は少ない。その信頼できる情報を北テキサスの市民に提供するのが我々の使命だ。(中略)あなたがメンバーとなり、我々の重要な使命を支持してくれることを望みます。1ヶ月無料のコードを必ず使ってください。1ヶ月終了後は3ヶ月で25.87ドルです」

ということで、名前、住所、メルアド、支払いカードの選択、最後に例のコード<MALLORIE>と記入して終了。(ですが、カード情報をパスしたのでメンバーにはなっていません)

これを報じたNiemanLabの記事によると、この記者を”インフルエンサー”にというアイディアはデジタル関連のアイディアや実験を議論する「digital cabinet」という社内横断的なグループが発案したとのこと。

運動部長がこう言ったそう。「運動記者は読者と(ソーシャルメディアで)ユニークな関係を持っているので、これを試すには完璧な場所になりうる」

誰もが”インフルエンサー”になることを強制されないし、有料読者を何人獲得したかは記者の評価にはしないということだそうですが、これまで112のプロモーションコードが使われ、その3分の2が、最初の1 ヶ月後に「有料会員」になったとDMNのデジタル戦略部長が語ったとあります。計算上は75人。

Nieman Labのディレクターを務めるJoshua Benton氏がこの春、ツイッターで公開した、米国の新聞発行部数ランキングによれば、DMNの発行部数は14万9千部。2011年の数字は40万5千部ですから、落ち込みは激しい。

でも、デジタル版の有料読者は今年3月末で「39,359」に止まっています。その中で、有料会員になった「75人」という数字をどう評価するか、難しいところです。ちなみに先に揚げたSullivan記者のツィッターをフォローしている人は4520人です。

また、何人の記者が”インフルエンサー”に名乗りを上げたかは記事では不明です。そこで今日のDMN電子版のトップ記事「ダラス郡で新たに306人のコロナ患者」を書いたAria Jones記者のツイッターを見ましたが、それに関する記述はないようです。

もしかしたら、「読者の勧誘をするのは記者の仕事じゃない」という編集と営業を隔てるfirewallを尊重する記者が相当数いるのかもしれません。

というのも、多分、30年ほども前のことですが、当時、勤めていた新聞社で「社員増紙運動」(だったかな?)の号令が掛かったことを思い出したからです。その時、少なからぬ編集局の記者はこれを無視しました。fire wallが意識されていたのですね。(一部獲得ごとに奨励金も付いていたのが逆効果だったのかも)

米国の新聞社の置かれた状況は、NYTやWSJなど一部の著名紙以外はとんでもなく厳しい。その中で、記者の意識改革を迫るかに見える実験の推移が気になります。