米国の健康関連情報サイトSTATは<landmark decision>、画期的決定、と書き立てました。FDA(連邦食品医薬品局)が先週、発達障害の一種というADHD(注意欠陥・多動性障害)の子供の治療に、医師があるビデオゲームを処方してよいと決定したというのです。健康保険に入っていれば、ビデオゲーム代もカバーされることになります。この面でも画期的です。
まずは認可を決めたFDAのプレスリリース。表題に「ADHD児童の注意機能を改善する初めてのゲームベースの治療のマーケティングを認める」とあります。そして本文では「EndeavorRx」というデジタル治療装置を医師の処方限定で8~12歳を対象に販売を初めて許可すると記します。またADHDの児童は6~11歳で400万人に達するとも書いています。
さて、EndeavorRxとはどういうゲームなのか?CNNの記事の冒頭に1分ほどの紹介ビデオがありますので、関心のある方は、まず、そちらをご覧ください。その一部をキャプチャーしたのがこれ。アプリをAppストアから自前のタブレットにダウンロードして使用します。
CNNの記事では「障害物が点在するコースをアバターを操作して通り抜け、標的を集めて報酬を得る」とあります。冒頭に紹介したSTATの記事では、その障害物は「溶け出した溶岩の流れや凍てつく冬の荒野の風景」に現れるとのこと。
作ったのはボストンの Akili Interactive Labsという会社。製薬会社が新薬開発にあたって臨床試験を繰り返して有効性や安全性を高めるのと同じ手法で、デジタル治療法を追求するベンチャー企業です。
ビデオゲームはそもそも注意力を維持しないと続けられないのでしょうが、STATによれば「ADHAの子供の脳の神経ネットワークを強化するアルゴリズム」が組み込まれているとのこと。その詳細はAkiliのこのページに詳しいようです。
使用法は、1日30分のプレイを週5日、4週間続けます。それが一回の治療。EndeavorRxがFDAに認可された直後のAkiliの声明文によると、この一回の治療で、子供の3分の1 が、客観的な注意の測定基準で、少なくとも一つで注意欠陥がなくなっていたとし、約半数の親が子供の日常的な障害に意味のある変化を認め、2ヶ月後にはそれが68%に達した、とあります。(その、全貌は今年2月に、世界的に有名な医学雑誌ランセットに掲載されていますが、私にはとても歯が立ちません)
日本でもコロナ禍のなかで、遠隔診療が事実上の解禁になるなど、デジタルを基礎にした医療の姿が垣間見えてきましたが、この件を報じたAXIOSの記事では「米国ではロックダウンにより、FDAは一連のメンタルヘルスと遠隔医療のアプリに関する規制を緩和するようになり、パンデミックはデジタル医療業界を後押ししている」と指摘しました。
事実、FDAは、コロナによるパンデミックが始まっていた今年4月に「コロナウィルス 疾患による公衆衛生緊急事態下に於ける精神障害を治療するためのデジタル医療機器の施行方針」という長ったらしい表題の文書を、業界とFDA職員向けのガイダンスとして発表、積極的に認める姿勢を窺わせていました。
その、第一弾が、AkiliのEndeavorRxだったわけで、AkiliのCEOは、先の声明文によれば「FDAの決定で我々が歴史を作ったことを誇りに思う」と述べています。そして日本の「ビジネス+IT」の記事によれば「ほかにもうつ病・自閉症・多発性硬化症の改善に向けたゲームも臨床試験を開始した」そうです。デジタル治療が当たり前になる日が近づいているのでしょうか。Akiliは大化けするベンチャーかもしれません。
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