TechCrunch(TC)やEveningStandard(ES)の記事で、英国 Farewill(FW)という会社の存在を知り、そのサイトを隅から隅まで読み耽りました。

名称は「お別れ」を意味するfarewellをもじったもので、willは遺言の意味もあるので、この会社は遺言作成サービス会社として2016年にスタートしました。

そしてたった1年半後には英国最大となり、昨年12月から(ESは今年2月と記述)火葬と遺言検認事業も手掛けていて、TCに語ったCEOのDan Garrett氏によれば、たちまち英国で3位か4位の存在になっているそう。

消費者の評価を5つ星で公表しているTrustpilotでの結果は6204人の評価は4.9という超高評価。

98%もの人が絶賛する遺言サービスや火葬サービスってどういうことか?このコロナ禍で、罹患すれば死亡率の高い高齢の当方だけに、興味を惹かれ、その人気の秘密を知りたくてサイト内を探索した次第。

結果は牛丼のCMではありませんが「早い、安い、簡単」という印象を強く受けました。

遺言作成サービスを例に取ると、ユーザーは自宅のパソコンでサイトの指示通りに書き込んでいきます。所要時間は「15分ほど」だとあります。それをFWのスペシャリストがチェックして24時間以内にフィードバックします。曖昧な部分を明瞭にして最長5日以内に完成させます。

それが90ポンド(12,000円)で、書き換えを何回でも出来るオプションは年にプラス10ポンド(1300円)。初年度は無料。あとは、プリントアウトした書面に、証人2人同席のもと、万年筆で署名すれば、正式な遺言書が完成します。

なお、コロナ禍で2月に英国の医療を担うNHS(National Health Service)のメルアドのある遺言作成が激増したそう。医師たちが決死の思いで戦っていたことが偲ばれます。そこで、FWはNHS関係者は無料にしたとか。「我々の出来る最小限のことだ」とESにカッコよく語ったのはGarrett氏。

安さが際立つのが火葬です。英国では埋葬が一般的だと思っていたので、この火葬サービスというのはちょっと意外でしたが、FWのホームページ情報では2016年には2%だったものが昨年は8%まで増えているそう。

FWの火葬サービスの手順は、遺体を取りに来て、お棺に入れて火葬場に運び、セレモニーなしで火葬し、遺灰を1~2週間後に骨壺に入れて配達します。これで980ポンド(13万円)。一般的な埋葬だと宗教的セレモニー込みで5000ポンド(67.5万円)だそうですから、5分の1という安さ。

FWが今年のEuropasベストソーシャルイノベーション部門で表彰されたことを伝えるEu Startupsによれば、英国での死亡に関わる総費用は11,000ユーロ(133万円)を超え、8世帯に1世帯が貧困に追い込まれるそうですから、お金持ちでない家族にはありがたいサービスには違いないでしょう。

遺産相続に関わる遺言検認も社員弁護士が処理にあたり、英国の相場という1400ポンド(19万円)の半分以下の595ポンド(8万円)。複雑なケースへの対応は1045ポンド(14万円)のそれぞれ固定価格です。電話で全てが済むのも魅力です。

各サービスの説明も、それぞれ、痒いところに手が届くようなわかりやすい補足ページが準備されていて、なんだか私も英国の遺言や葬儀に詳しくなった気分。

このように「早い、安い、簡単」に加えて「親切」なサービスで遺言作成と葬儀業界に風穴を開けたGarrett氏はオックスフォード大でエンジニアリングを学んだあと、インペリアルカレッジ、ロイヤルカレッジの共同学位であるデザインイノベーションを学んでいたそうで、業界にはズブの素人でした。

ですから、学んだことと現在のビジネスとがどう結びつくのか?実は、そのコースは「高齢化とサービス」というコンセプトを考えることだったそうで、そのコースの一環として彼は「高齢者と死のプロセスに明確な尊敬を持つ」と考えた日本に来て、東京の高齢者施設で半年も過ごしたことが契機になったそう。LinkedInによれば、慶應大学にも学んだそう。

死に直面する高齢者を見て、高齢者向けの道具などを刷新するデザイナーの道を捨て、「死」と向き合うビジネスの探究を始めたよう。

そのキッカケとなった日本にもいずれ進出してくるでしょう。何せ日本は火葬の本場ですから。先週も2回目の資金調達で2210万ユーロ(27億円)を集めたことだし、業績順調のようですから、海外進出も間近なはず。

ちなみに遺言作成を含まない死亡に関わるビジネスの経済規模は全世界で今年、1020億ドル(11兆円)に達するそうです。Farewillの前途は洋々かな。早く日本に来てください。