今朝の新聞は、新型コロナウィルス の拡大で日本のGDP(国内総生産)が大幅にマイナスになることを大々的に報じていますが、米国大手のコンサルティング会社マッキンゼーアンドカンパニーの報告書によると、コロナで学校閉鎖となり教室での対面授業の機会を奪われた生徒・学生にも累が及び、学力が下がることで生涯賃金が6.1~8.2万ドルも減り、これがひいては米国の将来のGDPにも悪影響が及ぶと指摘しています。
日本でも同じことと思い、興味深く読みました。理解の及ぶ限りで記録します。
まず、学校閉鎖で生徒らが、「学び」をどの位、失うかは「オンラインでの遠隔学習へのアクセス」「その遠隔学習の質」「家庭でのサポート」などによって大きく変わるとします。
シンプルにするために高校生を3つにグループ化して考えたそう。それは①平均的な質の遠隔授業を受けた:学力は進歩はするが、学校にいるより進歩のペースは遅い②低品質な遠隔授業を受けた:学力は停滞する③遠隔授業を受けない:学生という地盤を失い、一部はドロップアウト(高校中退)する。
また、疫学的に3つのシナリオをモデル化しました。①ウィルスは残っているが、9月に教室での授業再開②ウィルス復活で、教室での授業は来年1月まで完全には再開できないがパートタイムでは対面授業あり③パンデミックがエスカレーションし、ワクチンが利用可能になるまでウィルスを制御できないため、2020−2021年遠隔授業のみ。
この中間的なシナリオ②で、グループ①の平均的遠隔授業グループがどの位、教室での授業に比べて「学び」が奪われるかの可能性はこのグラフにあるように3~4ヶ月分です。
グループ②の低品質遠隔授業なら7~11ヶ月分、グループ③の遠隔授業なしならなんと一年分以上にもなります。来年も学校が再開しないシナリオ③なら、当然、もっとひどいことが想定されるのは当然です。
これは日本でもそうですが、オンラインでの授業は、急いで組み立てられたものが多いでしょうから、当然、教室での対面授業より効果が低い可能性が高いのです。
さらに、低所得世帯の黒人・ヒスパニック系の生徒には一段と深刻な問題があります。それは、高品質な遠隔授業、授業に打ち込める静かな住環境、共有する必要のないデバイス、高速インターネット回線、保護者の監督など有益な学習環境に恵まれない可能性が高いということです。
例えば、マッキンゼーの調べでは、「平均またはそれ以上の遠隔授業」を受けている白人生徒は38%なのに対し、黒人は14%、ヒスパニック系は21%で、年収2万5千ドル以下の低所得世帯に限るとゼロです。
平均以上の遠隔授業の機会が少なければ、対面授業に比べて「学び」が失われるのは当然。来年1月、対面授業完全再開のシナリオ②で、その失われた期間を示したのがこの図表。ここでも人種間格差が歴然。
この人種間格差が既存の学力格差をさらに拡大し、マッキンゼーは「15–20%悪化する」と推定しています。学校閉鎖が長引けば、高校中退率も高まるとも。
こうしたことの結果として、教室での対面授業の完全復活が来年1月のシナリオ②のケースで平均的な生徒が失う生涯賃金は40年働くとして2020年のドル価値で6.1~8.2万ドルで、これはフルタイムでの1年分にあたるとしています。
かくて、現在のK-12(幼稚園から高校3年まで)世代全員が社会に出る2040年までに、学業成績低下や高校中退者増加によるスキルの低下はGDPに影響を及ぼすという結論です。どうやって弾き出したかはわかりませんが、シナリオ②でその額は1730~2710億ドルで、率にして0.8〜1.3%に及ぶとしています。
なお、世界銀行のプレスリリースによると、効果的な代替措置がないまま学校閉鎖が5ヶ月続くとして、現在の小、中学生は社会に出て年間872ドル減少し、生涯賃金では現在価値で1万6千ドルに相当するとしています。
そして、「時間の経過とともに世界経済の10兆ドルの損失につながる可能性がある」とも警告し、各国政府が効果的な措置に取り組むことを求めています。
幸い、日本では小中高校の学校閉鎖は比較的早めに解かれたようですが、大学の多くはまだのよう。このマッキンゼーの報告は大学生にも当てはまるように思います。今の大学生は学園生活が楽しめないというだけでなく、オンライン授業があったとしても、その効果は限定的なのですから、「学び」が身につく割合は低い。かくて将来にわたっての不利益を蒙るわけで、個人として不幸の極みなだけでなく、日本にとっても同様だと言えるでしょう。
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