ウィークデイの毎朝8時に配信され、10年目に入っている政治ニュースレター(メルマガ)Wake Up to Politicsの読者にはPoliticoやAXIOSの創立者として名高いJim VandeHeiはじめ、CBSNewsのホワイトハウス担当チーフ、MSNBCのアンカー、NYタイムズやワシントンポストなど有力紙の政治記者連、さらにはTwitterのCEO、Jack Dorseyも、と書くと、どんなベテラン政治ジャーナリストが発信してるかと思います。

でも、実際はつい先日まで高校に在学していたGabe Fleisherという若者が発信していたのです。

そのことを、本人がCJR(Columbia Journalism Review)に寄稿した一文で知り、早速、そのメーリングリストに申し込みました。

先週後半から実物が届き出しましたが、さすがにプロの政治ジャーナリストが愛読するもののように思えました。そこで、ますます当人Gabe君のことが知りたくなり、彼を取り上げたNYタイムズワシントンポストその他の記事も漁ってみました。

それらから、彼の早熟ぶりや驚くべき仕事ぶりの輪郭が浮かんできましたので、かいつまんで紹介します。

本人の弁によれば、幼い頃から政治に興味を持っていた、普通の感覚で言えば”特殊”な子供だったようです。バラク・オバマが大統領選を戦っていた6歳の時に、選挙運動のガイド本を読み、数ヶ月後には1000ページ近い、リンカーン大統領の戦時内閣の研究書を読んでいたというのですから。

そして、年明けの2009年1月、彼は父親と姉と共に自宅のあるセントルイスから、大統領に当選したオバマの就任式を見るためにワシントンに旅します。これで、彼の政治熱は加速します。まだ7歳です。

そこから、彼は政治がらみのニュースをネットで読み耽ります。その中には、ワシントン政治に強いことで知られるPoliticoのメルマガ Playbookもありました。そして、彼は得られた情報を自分でもオンラインニュース形式で書き出します。まだ小学校3年、9歳です。

その最初の宛先は靴会社の営業部長を務める母親でした。その母親が夫だけでなく同僚や取引先に広め、徐々に受信者が増え、それが地元紙St.Louis Post-Dispatchの一面を飾ったのにそれほど時間はかかりませんでした。2012年の大統領候補を決めるスーパーチューズディに合わせて掲載された大特集でした。

この時Gabeは小学校4年生、10歳です。当時の受信者は140人でした。それから8年、現在の購読者は5万人です。

彼の1日は5時55分の目覚ましのアラームと共に始まります。すぐにノートパソコンを開き、NYタイムズ、ワシントンポスト、AP、Politico、CNN、Forbesなどの主要ニュースをチェック、次々と要約して打ち込んでいきます。

そして、「その日の最も重要な出来事を選び出し、簡潔に分かりやすく説明して読者に届ける」作業をします。トップ記事ですね。先週金曜日のそれは「分析:アメリカの二つの物語」と題し、民主、共和の全国党大会でのバイデンとトランプの今のアメリカに関する発言が極端に異なることを整理したもので、とても分かり易く、参考になりました。(メルマガは、配信と同時にアーカイブに収容されるので、ブラウザーでも読めます)

学校に通う時間を勘案すると使える時間は7時半までの1時間半。いくらタイピングが早くても、容易なことではありません。TeenVogueのインタビューに答えています。「朝は1時間半しかないので、忙しい。なので毎晩、明日は何を書くかを把握するためのある程度の勉強が必要だ」

ただし、Gabeはパソコンの前だけにいるわけではありません。新聞、テレビで取り上げられたこともあって、セントルイスを訪れる大物連邦議会議員を取材するための記者証を取得して取材の現場にたびたび出向いてきたそうです。

そして、昨年5月、去就が注目されていたニューヨーク市のデブラシオ市長の大統領選出馬を、大手メディアを出し抜いてスクープします。その経緯もTeenVogueに明らかにしていますが、彼のこまめな情報探索で、アイオワ州のある民主党郡支部のFacebook投稿を偶然発見したことでした。

そこには、「参加しよう。デブラシオ市長、出馬声明ツァーの最初の訪問地」などとあったのです。すぐに削除されたのですが、その前にGabeは、コピペしすかさずツィートします。そして、翌日、デブラシオは予定を早めて出馬声明したのです。

そこで、Twitter上でNYタイムズのMichael Gynbaum記者は「高校生に抜かれた!」と、脱帽し、ワシントンポストのFelicia Sonmez記者は「単なる高校生ジャーナリストじゃない。唯一無二のWakeUp2Politics」と絶賛します。

こうしてプロの政治ジャーナリストにも広く知られて、活躍の場はさらに広がったというわけです。

始めて10年。秋にはワシントンDCのジョージタウン大に進むGabeですが、入学前から注目される存在で、著名なテレビ番組「Meet the Pressで、日の出の勢いの新入生がコロナ禍のもとでいかに秋以降の大学教育を進めるべきかの議論に参加した」と同大学の学生新聞The HOYAが伝えています。

当人はCJRの寄稿文では「秋からの大学生活がどうなるかわからない。将来は不確実だ」と、若干の不安を滲ませています。しかし「読者にとって、これ以上、大事な時間はないのだと信じて毎朝、ニューズレターを送り続けてきた」「始めて10年経っても、政治とジャーナリズへの愛情は失われていない。願わくば決して失われないことを」

私もそう願います。ちなみに大学での専攻は「政治学」で、副専攻は「ジャーナリズム」だそうです。(なお、このメルマガは広告一切無しなのに無料で、寄付をささやかに募ってるだけです)