犯罪事件が起きたとき、その犯人逮捕にコンビニなどの監視カメラの録画映像が役に立ったという話がよくニュースになります。
有名なケースは2013年のボストンマラソン爆破テロ事件でしょう。3人が死亡、240人以上が怪我をしましたが、犯人2人は周辺のコンビニ監視カメラなどから特定され、追い詰められ、逮捕されました。
そのアメリカで、地域住民が自宅に取り付けているアマゾンのスマートドアベル「Ring」などに、警察がアクセス出来るようにする実験プロジェクトが始まります。
ミシシッピ州の州都ジャクソン市のことで、45日間の限定で、強制的にではなく、オプトインした住民や会社のドアベルのみで行われるそう。
同市は、過去最悪のペースで殺人事件が起きており、業を煮やしたルムンバ市長が市警の捜査能力を上げるために取り組んだようです。
何しろ過去には100件を超えたことはなかったのに、今年はすでに115件に達しているのです。空前の殺人ラッシュ。
そこで、市長が考えたのは、事件が起きたら、その現場周辺に円を描き、その円内にあるカメラを抽出して、市警のリアルタイム犯罪センターが、ドアベルのカメラに映った映像から、逃走した車や、家屋から走り出てきた人物などを特定し、逃走経路を追うーーというもの。
アマゾンのRingがいかに高性能か、そして全米各地の自治体が設置に補助したり、警察が関心を持っていることについては昨年7月の拙ブログ「ピンポンダッシュを許さないデジタル呼び鈴」で紹介しました。
その機能についてはこう書きました。
<ベルボタンを押した時はもちろん、人間が近づくのを感知すると、スマホやタブレットにアラートと共に、玄関先の様子がストリーム映像で映し出され、その様子が録画されて残るのです。
一般家庭でも当たり前になったWiFiを利用するので、家のどこにいても来客(時には不審者!)を確認できます。所用で家にいなくても同様です。たとえ、地球の裏側にいても、です。お値段は99ドルからあります。>
さらに、録画映像を2ヶ月遡って見られるRing Protectというクラウドサービスが月3ドル、年間30ドルで用意されています。
ご近所地域を指定しておくと、その地域内の犯罪・安全情報が得られたり、地域内で同じアプリを使っている人同士でビデオが共有できたりするNeighborsという無料アプリもあります。
これだけ、揃ってれば、警察が目をつけない方がおかしい、と思えるほどです。そこでMotherboardがすっぱ抜いたように、アマゾンは警察に”拡販”を手伝ってもらう代わりに、映像を提供するというような秘密協定を結ぶケースも少なくないようです。
その意味では、ジャクソン市のやり方は逆に真っ当にも思えますが、早速、デジタル社会のプライバシー団体の老舗EFF(Electric Frontier Foundation:電子フロンティア財団)が警告を発しました。
「我々はRingが評判になって以来、市民の自由を損なう可能性があると警告してきた」「今やRingは全米1000以上の警察とパートナーシップを結んでいる」「これにより、令状の取得なしにユーザーから大量の映像を取得出来る」「人々がRingを玄関に置くことは近所全体を覆うCCTV(Closed Circuit Terevision)ネットワークを構築することだ」「警察のメリットは監視機器購入コストを回避し、監視カメラ設置による住民の恐怖と不安を回避できることだ」
こうした反応を予期してか、ジャクソン市は、市警が直接、プロジェクトへの参加を承認した家庭のRingなどのスマートドアベルにアクセスするのではなく、情報技術コンサルのPILEUM社と、ビデオ情報を抽出できるようにするクラウドサービスを提供するFUSUSの二社と提携し、二社が作るプラットフォームにアクセスするという構造になるとのことです。
プロジェクトに市の支出はない、とのこと。二社は、この実験が成功し、本格事業になることを見越しているんでしょうね。まあ、殺人事件の抑制になれば、それはそれでいいのでしょうが、なんだかアマゾンが中国並みの監視国家形成を手助けしてるような・・・。
もっとも、EFFには「パイロットプログラムに関連して、どの企業や都市とも一切関与していません」と弁明してるようですが。
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