ちょっと驚きです。一応、「社会的公器」を自認する新聞社(例えばこれ)がオンラインとは言え、カジノ経営に乗り出すと言うのですから。

いえ、日本のことではありません。カナダ最大の新聞とされるトロントスター(TorontoStar)の親会社トースター(Torstar)がそれです。

それを報じた最近の同紙の記事では、同社の最高事業開発責任者のCorey Goodman氏がこう言ったとあります。

<トースターはオンラインカジノの賭博ブランドを、オンタリオ州のアルコール・賭博委員会の承認を待って2021年中に発足させる。128年以上の歴史を持つ信頼されているブランドのトースターは、新しい雇用を生み、オンタリオ経済を成長させ、州の重要な課題をサポートする税収を生み出す>

現在、オンタリオ州で賭博を認められているのは公的な性格を持つOntario Lottery and Gaming Corporationのみだそうですが、最近の法改正で先のアルコール・賭博委員会が民間企業にライセンスを与える権限が認められたそう。

で、早速、トースターが名乗りを挙げたというわけですが、トースターの共同オーナーの一人Paul Rivett氏は、先のGoodman氏のキレイごとに加えてこう本音を明かしています。

「トースターがこれを行うことは質の高いジャーナリズムの成長と拡大をサポートするのに役立つ」

これを報じたCBCによると、組織されたカジノ準備チームの一員になったコンサルティング会社代表のJim Warren氏は「私たちが知っていることは、トースターが収入の多様化を図り、記者、コラムニスト、編集者に資金提供することだ」と本音をバッサリ。

実は、トースターは昨年11月に、同社の配送のための契約ドライバーネットワークを活用して宅配サービスMetroland Parcel Services)を始めたり、今年1月には、カナダ最大のゴルフ雑誌SCOREGolfの買収に動くなど、収入の多様化を図ってきました。

旧カナダ新聞協会、現在のNews Media Canadaは近年、各紙の発行部数を公開しなくなったので、個々の部数は分かりませんが、トロントスターの最近の記事によると、日刊紙の年間収入は2007年の27億ドルから2019年には9億ドルとなり、3分の1になっているのですから、最大紙といえども経営は厳しくなってるに違いありません。

で、実はトースターはトロントスターの他、有力日刊紙2 紙や70あまりものコミュニティ紙を擁しているのですが、昨年5月に経営難から買収されていました

その買い主がNordstarとういうベンチャーキャピタルでした。その共同オーナーが先のPaul Rivett氏とJordan Bitlove氏で、その二人がそのままトースターの共同オーナーに座ったのです。で、先の最高事業開発責任者のGoodman氏も昨年11月に入社しました。こちらも専門はジャーナリズムじゃなく、「買収、売却、再編」とLinkeInに記しています

投資会社が新聞社の投資して悪いとは一概に言えませんが、米国の新聞社買収で猛威を奮っているヘッジファンドAlden Global Capitalの先例を見ると、どうにも不安です。

最近もワシントンポストのMargaret Sullivan女史がAldenによる大手新聞チェーンTribune買収に関して強烈な一文を書いていました。

見出しからして凄い。「The ‘audacious lie’ behind a hedge fund’s promise to sustain local journalism」(ローカルジャーナリズムを維持するというヘッジファンドの約束の背後にある「厚かましい嘘」)

買収時には「ローカル紙の持続可能性を確保する」と言いながら、その実Aldenのやっていることは不動産売却や記者減らしで利益を最大化する”焼畑農業”なのだ、とこき下ろしました。

NordStarの最高幹部2人によるトースター買収時には「Starの名高い歴史にふさわしい世界クラスのジャーナリズムを生み出す」とBitove氏は格調高い約束をしたそうですが、なんだかその言い方はAldenに似ています。そしてその方向性はジャーナリズムにふさわしいのか。

宅配サービスや雑誌社の買収は日本の大新聞も行ってることではありますが、さすがにカジノ経営とは日本の新聞人には及びもつかないでしょう。

CBCの記事では、オンタリオ州のある市会議員はこうCBCにメールを送ってきたそうです。

「6ヶ月前に、カジノがコミュニティに出現したとしたら、Torstarが所有する多くの新聞が、懸念する記事を書いていたろう」「カジノでメディアを支えたとしたら、強力な独立系ニュースとメディア産業をどう保証できるだろうか?」

その通りだと思います。で、今、思い出しましたが、スターは5年前に読者にHeadline coffeeというサービスを始めたことをこのブログで紹介しました。読者に34杯分のコーヒー豆を20ドルでウンチク文を添えて毎月品種を変えて配達するというサービスでした。

で、当時の記事にあったリンク先をクリックしたんですが、繋がりませんでした。読者に不評でもう廃れたんでしょう。オンラインカジノもそうならないかな。