ちょっと旧聞になってしまいましたが、コロナの蔓延で、「密」を避けるため大幅に出席者を制限していた米ホワイトハウスの記者会見、今週から全49席が使えるようになりました。AP通信によると449日ぶり、とのことです。

この49席は、日本の首相官邸記者記者会見場のように、早い者勝ちで好きな場所に座るシステムではなく、毎年、ホワイトハウス記者会がメディア各社に割り当てます。

席がもらえなかったメディアのホワイトハウス担当記者は、会見場の両脇や後ろに立って参加します。7日のロイター配信の画像を見ると両脇、後方にも記者がいて、すっかり往時に戻った感があります。

ワクチン接種が進み、感染状況が収まりかけていることを反映したものといえ、米国メディアだけでなく、日本にも共同通信の配信で伝えられました。まずはメデタイというところです。

しかし、同じ7日に、ワシントン近郊の月刊情報誌Washingtonianのデジタル版が報じた、もう一つのホワイトハウス記者会見に関わるニュースは日本はもちろん、米国でも追随情報がないので記録しておきます。

それは、今、米国で大ブームになりかけている個人が書く有料ニューズレターの執筆者の一人、Hunter Walker氏に、記者会見に出席できるプレスパスが発行されたという話です。

Washingtonianによれば、個人に発行されたプレスパスは、これが初めてということです。というのも、プレスパスはちゃんとした報道機関に所属する記者にだけ発行されるからです。(ですから、日本の全国紙の記者がワシントン駐在になって、申請すれば、米国での実績がなくても発行されるようです)

そうした原則を破っての発行ですからニュースのはずですが、実はWalker氏はこの4月までYahooNewsのホワイトハウス担当でした。ですから改めてホワイトハウスに出入りできるようになっても新鮮味がない、ということで多くのメディアから無視されたのかもしれません。

しかし、彼はニューズレターブームの先駆けプラットフォームSubstackから「The Uprising(反乱)」という政治ニューズレターを発行している個人にすぎません。その料金は年70ドル、月7ドルです。

そのニューズレターにかける意気込みをTwitterに記しています。

<一般的に、独立系のサブスタック・ニューズレターは、オリジナルのレポートではなく、自分の意見記事で埋め尽くされていると思われています。私はそれを変えようとしています。また、国の政治メディアではあまり議論されていないようなタイプのストーリーを取り上げようと思う>

つまり、政治の現場が好きなんですね。政治ジャーナリストとして不可欠な資質でしょう。そして、プレスパスを受け取った際にはこうツィートしました。

<私は独立ニューズレターとして初めてホワイトハウス記者団入りした。とてもクールなことだ>

「クール」という単語は幅広いニュアンスがあるようですが、ここでは「画期的に素晴らしい」と受け止めましょう。

なぜなら、会見に出席し、座席のある記者の所属するメディアは元々、国民に広く知られた報道機関だけでした。それはこの会見室の座席表からも窺えます。

ググってみて2021年版、2020年版は見つかりませんでしたが、2019年版がありました。

一列目、二列目には誰でも知ってる報道機関が並びます。そして注目は三列目のPOLITICO。オンラインメディアでは最高の待遇ですが、残るオンラインメディアは最後列のBuzzFeedとDaily Beastの共有席のみ。ホワイトハウス記者会にはHuffingtonPostやVox、Viceなどの有力オンラインメディアも入っているようですが、まだ席を獲得するに至っていません。

しかし、オンラインメディアの記者が質問を許されたのは、2009年のこと。当時、HuffingtonPostのSam Stein記者がバラク大統領から指名を受けてのことだったそう。それ以後、オンラインメディアもポツポツと席を確保するようになったのです。(席を決めるのは記者会という建前ですが、時の政権の意向も働くようです)

その意味で、Walker氏が個人としてホワイトハウスの会見場に臨む資格を得た意味は、12年前のStein記者の初質問に近い意味があるのかもしれません。バイデン大統領の意向が秘められているのかも知れず、それをWalker氏が「クール」と表現したのかもというわけです。

ちょっと大袈裟に受け取ったかも知れませんが、実は私にはSubstackの創業者二人が創業にあたって記したマニフェストA better future for news で、書いていたことが印象に強く残っていることが影響したようです。

「購入ベースのニュース業界が成熟すれば、サンフランシスコの配車サービス業界がLYFTやUber以前のタクシー業界より大きくなったように、新聞業界より遥かに大きくなる可能性がある。私たちはニュースビジネスの新たな革命の頂点にいるのだ」

5年ごとのNHK生活時間調査でも、テレビの視聴はインターネットに押されて減少する一方。時代は変わるのです。