「Black Lives Matter」ムーブメントの源になったビデオを撮影した米国の黒人少女にピューリツァー賞の特別賞が授与されることになりました。

ダニエラ・フレイザー(Darnella Fraizer)さん。1年前、ミネソタ州ミネアポリスで起きた警官によるジョージ・フロイド(George Floyd)氏殺害現場に遭遇し、その一部始終をスマホで撮影しました。

ピューリツァー賞理事会はこう記しています

「ジョージ・フロイド氏の殺害を勇気を持って記録したこのビデオは、世界中で警察の残虐行為に対する抗議運動を引き起こし、ジャーナリストが真実と正義を追求する上で市民が果たすべき重要な役割を浮き彫りにした」

彼女のFacebookページInstagramページYouTubeページには、まだ受賞の喜びや感想を綴った彼女の投稿はありません。

しかし、これまでの投稿のいくつかを目にすると、彼女が慎ましやかながら、正義感に溢れていることを実感します。

例えばこうです。「私は<ジョージ・フロイドさんの死を撮影した少女>として知られたくない。他の人たちと同じように暮らしたいと思ってる17歳の女の子だと思われたい」(YouTube)と述べる一方、「我々の住む世界は病んでいる。物事は100%変わる必要がある」(Instagram)とも力強く語ります。

そして事件1周年を機にFacebookに載せた3800ワードに及ぶ長文で、<アメリカで黒人でいることがいかに危険かを思い知らされた>と述べた後、こう言い切ります。

ーーー私のビデオはジョージ・フロイドさんを助けたわけではないが、彼を殺した犯人を街から追放した。警官が人の生き死にを決めるべきではない。そろそろ、警官が責任を負うべき時です。人を殺し、権力を乱用することは、仕事をしているとは言えないのです。

その願いも虚しく、米国の警官による民間人の殺害事件はちっとも減少していません。ワシントンポストの6月11日現在の集計によると、警官に銃で撃たれて死亡した民間人は400人に達しているそうです。近年のペースとほぼ変わりません。

 

日本だと、警官が発砲しただけで、死に至らなくてもニュースになりますが、米国では、警官の発砲で民間人が毎日、毎日2、3人が死亡していて、Mapping Police Violentceによると、それがゼロだったのは今年1月から4月まででたったの6日間だけでした。

殺害件数に変化がなければ、警官に撃たれて死亡した黒人が白人に比べて不当に多い実態にも変化は生まれていないでしょう。グラフは人口100万人あたりの数字で、黒人の36人は白人の15人の2.4倍です。

警官側にも言い分はあるでしょう。しかし、フレイザーさんの言うように、警官に生殺与奪の権利を与えるべきでないのは当然です。しかもオハイオ州のBowling Green州立大のPhilip Stinson教授の研究によれば、民間人を殺害して、「殺人罪」や「過失致死罪」で起訴された警官は1.1%に過ぎないとNew York Timesが報じています。

こう見てくると、フレイザーさんの勇気ある行動ーー周りには4人の警官がいて、フレイザーさんの撮影を止めるために暴力的な実力行使をする可能性もあったわけですからーーは誰にも取れるものではなかったでしょう。

でも彼女にはスマホとFacebookという”武器”があった。警官が撮影阻止の実力行使をすれば、それも撮られて発信されてしまったことでしょう。そして社会を動かした。スマホとソーシャルメディアが強固な銃社会アメリカに一撃を加えた事件として記憶されることでしょう。今は目に見える変化がないとしても。それがピュリツァー賞に選ばれた理由の一つなのでしょう。