米国のAmazonの荷物を配送するパートナー企業をDSP(Delivery Service Provider)と呼び、その数は2000社に及び、11万5千人の配送ドライバーがいるそうですが、そのドライバーは毎週末、”通信簿”を受け取るシステムになっているそうです。
「今週はたくさん配達して、よくできました」というものではありません。運転マナーについての4段階評価に基づくスコアカードです。Vice MediaグループのMother Boardの取材によるとこういうことです。
ドライバーが乗る配送バンの過半数にAI(人工知能)搭載のカメラが今年初めから取り付けられ始め、今は半分以上に達しているそうですが、そのAIカメラが一挙手一投足を監視、Telematicsを使ってリアルタイムでデータを送っているのです。インド系企業Netradyne社が開発したDriveriというもの。AmazonがCC(クリエイティブ・コモンズ)マーク付きでVimeoで公開しているビデオからコピーします。
ご覧のように、前向きに一つ、両側面に一つづつ、そしてドライバーに向けたのが一つ、計4つのレンズがあるとのこと。
これで、車間距離が十分か、一時停止を守ったか、赤信号無視はなかったか、停止線の位置は正しかったか、急ブレーキをかけたか、急発進したか、シートベルトは閉めたかなど16項目について、常時、チェックし、ルールから外れたら、ビープ音を鳴らしたり、ロボット音声で注意を促す、という仕掛けです。
これがNetradyneのシステムを経由してAmazonの担当部署に送られ、その集積で悪い(poor)、まあまあ(fair)、良い(good)、素晴らしい(fantastic)に査定されて各ドライバーとその全体評価がDSPに通知されるという仕組み。
Amazonの担当者に言わせると、事故が48%も減ったほか、一時停止違反や信号無視が大幅に減り、車間距離の維持、シートベルトの着用も向上、注意力散漫運転も少なくなった、とのことなので、一見、何も問題はなさそうどころか、素晴らしいとも言えます。
しかし、Mother Boardの取材によれば、ドライバーににもDSPにも悪評サクサクだというのです。なぜか。
例えば、車間距離に関しては、都会では割り込み運転は日常茶飯事、途端にAIカメラは「車間距離不足」と判断してビープ音を鳴らし、車線変更のためにサイドミラーを見るためや、ラジオをいじるために顔を動かすと「注意力散漫運転」と判断するという具合。また誤った停止線違反をしばしば検出したりもします。これで、頻繁にビープ音や警告メッセージが流れて、かえって注意力が削がれるという指摘も。
さらに、狭い範囲で荷物の配送先が立て込んでいる場合、一々、シートベルトを着けたり外したりしていては能率が落ちるし、安全にも関係ないと思われる場合も、AIカメラは容赦なく減点するようです。
ドライバーにとって何より問題なのは、この査定が、ボーナスや特別手当、例えば雨天用のレインジャケットなど賞品獲得などに影響し、DSPにとっても「素晴らしい」の領域に入らないと、配送バンの修理、損害賠償、消耗品などにあてるボーナスが得られないことになるそう。
しかも、査定が伝えられるだけで、何が悪かったかをAmazonにメールで問い合わせても返事はくれないとか。そこであるドライバーは「カメラのデータがクリーンでないことについて議論の余地はない」と言い、DSPの経営者たちには「Amazonはより安全なドライバー確保のためにこのカメラを使ってるというが、実際にはDSPに払うお金を減らすために使ってるのでは」という疑念も生じているとか。
Amazonが安全性向上にために良かれと思って(多分)導入したシステムが、一部の現場では裏目に出ているということでしょう。それにしても、いい大人になっても、毎週毎週、通信簿を貰うってのも、気づまりですね。子供だって嫌なはずだし、配送ドライバーは運転のプロなんですから。
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