調理食品のデリバリーサービスのUber Eats、都会だけのものかと勝手に思っていたら、ついに二日前に全都道府県制覇だそうです。日本での先陣を切ってスタートしたのが2016年9月ですから、5年で達成ですね。

Uber Eats上陸後、次々に同様のサービスが登場、今年6月には米国でUber Eatsと鎬を削るDoorDashも日本上陸「フードデリバリー戦国時代」なんていう人もいるようですが、確かに最近では街を歩いていても、すごい勢いで駆け抜けるUber Eatsの配達員に出会うのも珍しくなくなりました。

どうやら、コロナウィルスによるパンデミックで、みなさん、外出を控えて外食の機会も減った一方、レストランなどは持ち帰りや配達に力を入れたということで、普及が進んでいるのでしょう。

社によってシステムは違うのでしょうが、パートやアルバイトで時間給を得る働き方に対して、好きな時間に仕事をして出来高払いの報酬を得るギグワーカー的な働き方が、この分野で先進的な米国では殆どのようですから、日本もいずれ、そうなるかもしれません。Uber EatsもDoorDashもそうです。

が、日本ではまだ大きな問題になっていませんが、全米最大のフードデリバリー市場の本拠、ともいうべきニューヨーク市(NYC)には、8万人もの人々が食品の配達に携わっているそうです。その人たちが「このサービスに従事する我々はエッセンシャルな存在なのに、何も保護されていない」と声を上げ、それを支援する労働者団体が、デブラシオ市長や市議会に働きかけ、大きな成果を上げました。

New York Timesはじめ、多くのメディアが、全米に影響を及ぼしそうだとしていますが、それは、”戦国時代”に入った日本にも、やがて及ぶことでしょうから、その成果を簡単に記録しておきます。

The Vergeの記事によると、NYCの配達員たちの多くはメキシコやグアテマラ出身の移民たちで、NYCの危険地帯に配達に行った際に、商売道具のカナメの自転車(多くは電動)を奪われたり、盗まれたりする被害が相次ぐことに、配達員の一部が、危険地帯を通過する際、団体で行動するという自警隊のような行動をとったことが始まりだそう。それがおよそ3年前。

自転車が強奪されても、警察はちっとも頼りにならないとして、Facebookのページを開き、盗難記録を出したり、ストリーミングで協力を呼びかけるなどの活動を始めたそう。それがLes Deliveristas Unidosという名称のグループ結成につながります。そして、低賃金の移民労働者を支援するWorkers Justice Project(WSP)と連携して、公正な賃金、発注元のレストランでのトイレへのアクセス、寒い日のシェルター設置などを市議会に求め、何度も集会やデモを行ったのです。

WSPがコーネル大と共同で行った配達員500人余りを対象にした調査では、配達員の収入はチップを含め月2345ドル。実労働時間で計算すると時給は12.21ドルで、チップを除くとわずか7.87ドルで、NYCの法定最低賃金15ドルを大きく下回っていました。これは共同調査のカバー。

また54%が電動自転車や原付バイクの盗難を経験、うち30%が強盗によるものでした。でも、警察に届けたのは44%に止まり、その中で解決して取り返せたのは2件、7%だったそうです。

そして、”生理現象”を解消するためのトイレ使用を、レストランに断られたことがあるか、との問いに83%が「yes」と回答しました。アプリで動いていて、トイレを備えた営業拠点に所属しないだけに深刻です。Viceの記事では、「配達員はしばしば、茂みやボトル、バッグの中にした」とあります。

事故に遭った人は49%にも上りますが、身を守るヘルメットやベスト、グローブなどをアプリのプラットフォームから支給された人は18%しかいませんでした。事故で負った怪我の治療も自費で賄ったのは75%に及びました。

こうしたことを踏まえて、NYC情報に特化したThe Cityの記事によると、マンハッタン選出のCarlina Rivera市議(民主党)(母親がプエルトリコ出身)がDeliveristasやWSPと協議して法案をまとめ、提出したのが今年4月29日のこと。デブラシオ市長も賛意を示したこともあり、6月8日には消費者問題/営業免許委員会にかかり、一週間前の9月23日に、他の議員の提出法案とともに、全て可決採決されたのです。

これで、配達員にトイレの使用を拒否すると、初回は50ドル、2回目以降は100ドルの罰金がレストランやバーに課されることになりました。給与については、NYCの労働者保護局が調査した上で、チップを含まない配達一回あたりの最低支払額を定めた規則を作ることになりました。

ただし、三大アプリの一つGrubHubは、今回の提案を支持するとしていましたが、他の アプリ企業との法的対決の可能性も残っている、とThe Cityは指摘しています。争点の一つは配達のための移動距離を制限できるようにすることなどだそう。

問題は残っているにせよ、Deriveristasの動きとサポートする人々、そして短期間に法案を通してしまった一連のダイナミックな草の根運動のパワーとその成果に驚かされました。

そして、The Cityの記事の末尾にあった、Deliveristasのリーダーの一人の発言も感動的、かつ示唆的です。

<私たちのビジョンは、この運動が多くの国の国旗を含むものであり、人種や肌の色は関係ない。私たちの運動に賛同してくれる全ての配達員のためのものです>

全米、そして日本にも普及しますように。ビジネスモデルは同じなのですから。