“we will stop printing the New York Times sometime in the future, date TBD.”

「NYTはいつかの時点で紙の印刷を止める」

こう言って、世界の新聞関係者の注目を集めたのはNYタイムズの先代CEO アーサー・サルツバーガーJR氏です。2010年9月、ロンドンで開かれた世界新聞協会の会合でのことでした。

この時、NYTはまだデジタルの有料化に踏み切っていません。実行されたのは翌年のことでした。しかし、彼の頭の中にはデジタル版有料化の構想が出来上がっていたということになります。

それから11年、デジタル有料化から10年。NYTがプリント版を止めるという話は全くありません。日本の識者がひと頃、「紙の新聞の時代は終わった」と声高に叫んでいましたが、NYTのように、この第3四半期にデジタル版のみの購読者が758万人を超え、世界で最もデジタルに舵を切って成功した新聞でも、そうなのです。

そして、先日公表のNYTの第3四半期決算についてのプレスリリースを眺めていて、前CEOの意に反して、NYTはプリント版を止めない、いや、止められないのだということを実感しました。

間違ってるかもしれませんが、どうしてそう思ったかを数字から検証します。

まず、第3四半期時点でのそれぞれ有料のデジタル購読者とプリント購読者の合計は838万3千です。このうちプリント購読者は75万8千。全体の1割にも満たない9.5%に過ぎません。

しかし、購読料収入全体の3億4260万ドルのうち、プリント購読料収入は1億4397万ドルで全体の42%を占めます。

広告収入はどうか。全体で1億1088万ドルで、プリントからは4390万ドルが入り、全体の40%になります。

購読料収入と広告収入をトータルすると4億5349万ドルです。このうちデジタル購読料とデジタル広告収入は合わせて2億6561万ドル。

一方のプリント版からの購読料と広告収入は1億8788万ドル。

比率はデジタルからの収入が58.6%でプリント版からのそれは41.4%です。

つまり、契約部数からすればたった9.5%に過ぎない有料プリント版がその他収入を除けばなんと4割以上も貢献しているのです。

プレスリリースにはこんな二つのグラフがありました。数字だらけが普通の決算報告書には珍しい。

こうは有料購読者数です。グレーはプリントで数字を丸めて0.8million、つまり80万部、その上の淡いグレーは主力のニュースの購読者、濃いめのブルーは料理、クロスワードなどの単体アプリ商品です。で、下のグラフは収入にそれぞれがどう貢献しているかを示しています。グレーがグッと伸びているのが一目瞭然。

そして、こんなコメントがわざわざ添えられていました。

「2011年にデジタル有料モデルを開始して以来のプリント版の国内宅配購読商品の相対的な安定性を示すものだ」

この記事の前半に記した「NYTはプリント版を止めない、いや、止められない」とはこういうことです。その意味で、紙の新聞を将来止めると強く示唆したサルツバーガー氏の予言は、今のところ実現しそうにありません。

すでにプリント版を止めてオンライン版のみの移行した新聞も少なくありませんが、多くは弱小、少部数の新聞だったように思います。ある程度のプリント読者を持つ新聞は、NYTと似たような状況にあるかもしれません。

これをもって日本の新聞もプリント版を止めないと言い切る勇気は持ち合わせませんが、米国以上の紙の新聞購読料収入に頼る構造だけに、有料デジタル版で先行するいくつかの新聞も、多少のデジタル版有料読者が増えても、紙の新聞の廃止は当分、先のことになるのは間違いないように思います。

勝手に名付けた「紙の新聞大好き」な絶滅危惧種「紙本主義者」の一人として、今は安心しています。