インターネット時代に於けるジャーナリズムの将来を理解する助けになる活動を標榜するハーバード大学のNieman Labのページに、「NYタイムズは、記者がTwitterをスクロールすることをやめ、離れることを本当に望んでいる」という見出しの記事が載ったのは4月7日のことでした。
正確な日付は分かりませんが、その直前に編集局長のDean Baque氏、局次長のCliff Levy氏が、それぞれ局員へのメモを出して、その趣旨を伝えています。それを受けて、Nieman Labの創設者で初代所長だったJoshua Benton氏がBaque氏にインタビューして、その真意を尋ねた内容でした。
同時に掲載されたメモやFAQも含めると長大な内容ですが、理解の及ぶ限りで要約すると、NYTはこれまでTwitterの使用を奨励してきたが、これをリセットする。何故なら、Twitterは記者の時間を取りすぎで、外に出て取材するという記者の本分にもとる。そしてTwitterに現れるフィードバックを気にしすぎている。これは幅広い読者の一部のフィードバックでしかないのに、それに影響されて報道が歪められることがあるーーーということのよう。
NYTの編集局長が繰り返し言うほど、米国のジャーナリストの多くはTwitterのヘビーユーザーなのか、と思いました。が、記事にはその現象だけで、具体的なデータはありませんでした。しかし、ジャーナリズム関係のPR企業Muck Rackが5年ぶりに調査したState of Journalism 2022のスライドと、Twitterについてのまとめ記事で、その具体像が明らかになりました。
2500人の記者を対象に調査した50枚に及ぶスライドでは質問は多岐にわたりますが、「ジャーナリストとして、あなたに最も価値のあるSNSは?」の問いに、「Twitter」を挙げた記者は77%に及び、ダントツの1位でした。
そして、今年、もっとTwitterに時間を費やすと言う人も39%でこれも最も割合が高く、減らすは12%に過ぎません。
このジャーナリストに人気のTwitterについてまとめたState of Journalism 2022 on Twitterでは、tweetするジャーナリストが多いメディアをランキングしていますが、NYTは1267人で3位です。
そのNYTの記者数は1700人ということですから、その割合は75%。Twitter使用のリセットを宣言しているBaque局長はじめ、幹部クラスを除くとすると、兵隊クラスの利用者はほぼ全員近くかもしれません。
ちなみに1位はBBCの1783人。5年前の494人から大幅に増えました。2位はブルームバーグの1314人ですが、同社のジャーナリストは2700人以上だということなので、利用率ではNYTを大きく下回ります。
また、各メディアの公式アカウントのフォロワー数のランキングでは、NYTは3位の4400万人に達します。新聞でランキング入りしたのは5位のWashington Postと9位のGurdianだけ。あとはテレビニュース関係のみです。
ということで、NYTのTwitter熱が新聞界では有数のものであることが、数字から窺えたわけですが、日本の新聞界はどうかというと、フォロワー数は、朝日が130万人、毎日が96万人、読売が82万人です。日経が350万人と健闘していますが、まあ欧米メディアに比べればケタ違いには違いありません。これだと、日本の記者が、Twitterでの反応に目が皿のようになることも少なそうです。
日本にもこの種のランキングがないかと探したらありました。meyouというサイトで、30のジャンル別にTwitterのフォロワー数のランキングが見られます。リアルタイムで更新されているようです。この中に「メディア・ニュースポータル」とか「ジャーナリスト・ライター」などの項目がありましたので、ご興味があればどうぞ。
なお、State of Journalism 2022スライドにはTwitter関連以外にも興味深い数字がありましたので、ついでに箇条書きで記録しておきます。
①、自分の記事がSNSで何回シェアされたかを追跡する記者は64%。(スライド15枚目)
②、1日に外部から売り込まれる記事テーマの数は、5本以下50%、6~10本19%、11~20本10%、(中略)51本以上4%。ファッション、美容関係が多い。(34枚目)
③、週あたりの執筆記事数。ゼロが3%、1本16%、2~4本29%、5~7本18%、8~10本10%、11本以上23%。気象担当が最も多い。(35枚目)
④、執筆した記事のうち、売り込みから生まれた記事の割合。4分の1程度59%、半分15%、4分の3程度5%。無しは19%止まり。(36枚目)
⑤、自分の記事が最初に掲載されるメディアは、紙媒体を持つオンライン41%、紙なしのオンライン33%、テレビ9%、メルマガ、ポッドキャスト各1%。その他が6%で、その中ではオンラインを持つ「紙」が最も多いとか。つまり新聞雑誌に載ったものが、その後にネットに載るということは極小になってるってことですね。(48枚目)
記者の仕事も多様化してるってわけですが、とりわけこの⑤のオンラインファーストが日本でどのくらい進んでいるのかのデータを知りたいものです。
2022 年 5 月 23 日 at 17:10 PM
最終段落の貴社は記者の誤変換ですよね。