このブログで最初にPodcastに言及したのは7年前のことでした。女性記者が15年前の女子高校生殺人事件を掘り起こし、裁判のやり直しまで漕ぎつけた調査報道の全容を12回のシリーズで配信し、総計1億回以上も聴かれたという一件を紹介しました。

当時はこのような力の入った犯罪ミステリーや著名人のロングインタビューとか政治的な議論など、どちらかといえば”硬派”な内容が話題になったような気がしますが、その後は、どんどん内容の幅が広がってきているようです。

新聞社としては比較的早くにPodcastに取り組んだNYTimesは、一番人気の「The Daily」ほか8種類の番組を発信していますが、ライフスタイル、ブックレビュー、ポップカルチャーなどの番組まで幅を広げています。

そんな中で、Bloombergが、新しいジャンルとして取り上げたのが、おしゃべりが一切無いノイズだけのPodcastです。ノイズといっても、たとえば工事現場のような騒々しいものじゃなく、聞いてるだけで心が休まり、眠りに誘われるような単調なノイズです。

この種の番組を制作して配信する人が増えてきたとのことで、Bloombergの記事の見出しには、「white noise以外、何もなしで月に1万8千ドルも稼ぐpodcaster」とあります。(記事ではしきりに「white noise」という単語が出てきますが、この方面は全く疎いのでwikipediaにリンクを貼っておきます)

この手のpodcasterはあまり表舞台に出てこないようなのですが、Bloombergは、2人のwhite noise番組制作者から話を聞いています。

その1人、フロリダ在住のTodd Moore氏はサイバーセキュリティの専門家だったようですが、2009年に仕事を辞めて、「White Noise」と名付けたアプリに集中、10年後から、音楽配信Spotifyのpodcast配信ソフトAnchorを使ってTmsoft’s White Noise Sleep Soundsを始めました。早速、そのWebページとSpotifyのページを覗いてみました。Tmsoftのページにはおすすめの4つしか音源の案内がありませんが、Spotifyのページには作品が網羅されていて、ランキングもあります。

そのトップが「Box Fan Sound」で、1億1千万回以上も再生されています。9時間49分、ひたすら四角いカバーの中で回転する扇風機の羽根の風切り音だけです。単調です。私もしばらく聞いていて眠気を誘われるほど。「Sleep Sounds Podcast」と謳うだけのことはあります。

ランキング2位以下は、エアコンのファンの音、エアコン、首を振る扇風機、テントを叩く雨、夜のカエル、降りしきる雨、飛行機、迸るシャワー、子猫の鳴き声、コオロギ、セミなどです。これを毎日5万人ほどが聞いてるそう。無料ですので、是非、試しに聞いてください。

で、Bloombergの計算では、Anchorは、1000配信あたり12.25ドルをMoore氏に払うそう。(文中には言及がありませんが広告でしょうか?)一日5万人なら600ドル強、30日で1万8千ドルというわけです。彼は5人の従業員と請負業者を使って音源採取や編集をしてるそうなので、これでも結構、大変かもしれません。

もう1人のpodcasterはBrandon Reed氏。同じくAnchorを使って、赤ん坊が寝るプログラムから始まった「12 Hour Sound Machine」を配信しています。こちらはwhite noiseだけでなく、pinkやbrownと呼ばれるnoiseも入ってるとのこと。なんだかピーとかザーとかいう雑音の連続です。

これには世界中から毎日10万人がアクセスしていて、いっときは、先にあげたNYTのThe Dailyに匹敵するほどだったそう。より多くの音源を聴くには月2.99ドルかかりますが、新しい音源のリクエストもできるとか。この月間料金だけで1万ドル以上になりますが、どうやら広告は入れていなようです。

こちらは1人で運営、「こんな馬鹿げたノイズがSpotifyのトップ100に入るなんてクレイジーだと思う」と醒めています。ですから今の勤め先を辞めるつもりもないそう。ノイズのpodcast制作者も色々です。

このような雑音での成功事例を見て、今後、追随するケースが増えるかもしれません。米国で流行り出してまだ10年にも満たないpodcastは、日本では流行る気配はないけれど、こうした”実用的”な面で広がる可能性がありそうです。なにせ、世の中には心を安静にするCDとか赤ちゃんが眠るCDとかありますが、こっちはアプリを入れたスマホをそばに置いておくだけでいい手軽さが特徴でもありますから。