「言論の自由の絶対主義者」と称される、あのイーロン・マスク氏が買収したTwitter。株式の公開もやめ、従来の重役全員の首も切り、マスク氏の絶対王国の様相を強めています。

しかし、NYTimesのこの記事によると、Twitterが非公開企業になることで四半期ごとの事業内容の公開をしなくて済み、マスク氏の自由度は上がるものの、今回の買収に当たっては、銀行から125億ドルの融資を受け、投資家から71 億ドルを受け取っているので、その返済圧力があるはずだ、ということです。

ということは、Twitterを集客力があり、かつ広告主が嫌がるなんでもありのスペースにしないことが求められるわけで、Wall Street Journalによれば、マスク氏は27日の広告主向けのメッセージで「法律を守ることに加えて、全ての人を温かく迎え入れるものにする。自由で地獄のような場所にはなり得ない」と述べたそう。

それがマスク氏が計画するcontent moderation council (コンテンツ適正化評議会?)の設置ということなのでしょうが、一方で、マスク氏は7500人に及ぶTwitter従業員が多すぎだとして、その4分の3を削減、2000人規模にしたいとも伝えられており(第一弾は25%削減とか)、そんな体制で、content moderationができるのかという問題も浮上します。

コンテンツ モデレーションの新興企業である Surge AI の CEO である Edwin Chen 氏は「マスク氏が提案する人員削減は想像を絶するものであり、Twitter のユーザーをハッキングや児童ポルノなどの不快な素材にさらす危険にさらすだろう」とWashington Postに語っています

Chen氏の言うように児童ポルノや生々しい暴力などのコンテンツは、どのソーシャルメディアプラットフォームも、ユーザーの目に触れないように気を遣っています。それはまた、そうしたものを嫌う広告主向けに欠かせないことでもあります。

現在、Twitter社が、どんな人員配置でコンテンツの監視を行なっているかはわかりませんが、大幅な人員削減があれば、その「監視」をアウトソーシングせざるを得なくなるのは当然でしょう。

そのマーケットリーダーがパリに本拠を置くTeleperformance社で、世界中に拠点があり42万人が働いているそう。また「貧しい人々の知性が世界で最大の未開拓の資源であるとして、アフリカとインドで何千人も雇用している」とNYTでも紹介されたレイラ・ジャナー(Leila Janah)さんが作ったSama。

それぞれで働く南米・コロンビアと南アフリカの若者のケースについて報告したのを、最近、たまたま目にしていたのでTwitterの先行きが気になりました。

一つは英国のThe Bureau of Investigative Journalism(TBOJ)の記事で、例えばTikTok担当のモデレーターは朝6時から午後3時までの勤務(休憩2時間)で毎日900本の動画をチェックして基本給は120万ペソ(約3万6千円)。コロンビアの最低賃金をわずかに上回る水準とか。またノルマを達成できれば30万ペソが得られるが、常時、自分が映る監視カメラの元で働き、少しでもミスがあればボーナスなしだそう。

TBOJは、 この待遇は米ドルにすれば時給1,8ドルに過ぎず、もしコンテンツモデレーションAIを開発すれば、それでは済まない。だからAIより人間の方が安いのだと指摘します。

もうひとつは、Business Insiderによるもので、南アの一流大学を出てケニアで働いている青年の時給は1,5ドル。Facebookの”問題コンテンツ”を見続けて、PTSDになったものの、社の提供する治療は貧弱で、時給1,5ドルでは外部の専門家にも見てもらえない。組合を作って会社と交渉しようとしたら脅迫、いじめ・・・

つまり、マスク氏の人員大幅削減、経営合理化の行き着く先は、こんなケースと大同小異になる可能性が高い。月に人類を移住させるという壮大なビジョンを持つマスク氏の新たな事業が、こんな惨めな結果になるのはいかにも残念。それとも、何か奇策を繰り出して、このロゴの鳥のように羽ばたかせてくれるんでしょうか。