2.ICT市場の動向

◆AI(人工知能/ロボット)の本格活用

 AI(Artificial Intelligence:人工知能)とは、知能をコンピューターや機械に持たせようとする試み、あるいはその技術を指す。AIは、1950年代に米国を中心に研究開発が開始されたものの、壁にぶつかり一時は研究が停滞。2012年以降から再び注目を集めており、主な要因として、ディープ・ラーニング(深層学習)と呼ばれる技術がAIに活用されることで、能力が飛躍的に進化したことが挙げられる。
 近年では、ディープ・ラーニングの開発ツールが一般に公開されたため、AIの活用が多くの領域で本格化している。例えば、市場変化の予測まで織り込まれた自動株取引、製造や物流の高度な自動化、通信会社や金融機関などのシステム障害の予兆検知といった企業向けのサービスにAIが活用されている。
 さらに、コールセンターの自動応答や、Appleの「Siri」、Microsoftの「りんな」などの対話システム、自動翻訳など、一般家庭向けのサービスにも普及しつつある。政策動向としても、「日本再興戦略2016」において、AIはIoT、ビッグデータとともに第4次産業革命の中心として位置付けられ、「人工知能技術戦略会議」でAIの産業利用のロードマップが作成されるなど、政策の動きも目立ち、今後もさまざまな領域でAIが普及していくとみられる。

 

◆自動運転・コネクティッドカー

 自動車がネットにつながる「コネクティッドカー」の普及により、自動車側で集められた速度、加速度、位置、急ブレーキなどの走行情報をクラウドにアップロードしたり、反対に、クラウド側にあるリアルタイムの渋滞や危険箇所をオンラインで表示するなど、自動車情報の集合知を活用することで、より安全で快適な運転環境の実現に向けた取り組みが進められている。
 さらに、自動車へのソフトウエア技術の開発・活用と無線通信技術の取り込みにより、自動停止などの先進運転支援システム(Advanced Driver Assistance Systems:ADAS)、その先にある自動運転を目指して各社の開発競争が繰り広げられている。
 トヨタ自動車は、2020年頃の高速道路等における自動運転実用化に向け研究開発を進めており、2016年1月には人工知能技術開発の新会社「TOYOTA RESEARCH INSTITUTE, INC.」(TRI)を、米国カリフォルニア州に設立、5年間で約10億ドルを投入する。2016年6月には、トヨタ自動車とKDDIはコネクティッドカー分野での協業を発表した。本協業では、KDDIが中心となり、グローバル通信プラットフォームを構築し、要望があれば他の事業者にも開放する予定としている。また、2017年3月に、トヨタ自動車は、コネクティッドカー分野での技術開発・技術検証などで、NTTとの協業を発表している。
 一方、異業種ながら、2010年から自動運転開発を開始し、自動車業界に大きなインパクトを与えてきたGoogleは、2016年にフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)、本田技術研究所と相次ぎ共同研究への合意を発表しており、開発競争の激化に備えた合従連衡が進んでいる。

 

◆ドローン(無人航空機)

 2015年12月に改正航空法が施行され、3次元測量、インフラ点検、観光空撮等にドローンの活用が広がっている。農林水産省は2016年3月にマルチローター式小型無人機による農薬散布の暫定運行基準取りまとめを発表。農薬散布への利用も進んでいる。航空法の範囲外である200グラム未満のドローンは「自撮り」用途に広がっている。
 通信事業者各社もドローンのビジネス活用を進めている。NTTドコモは「ドコモ・ドローンプロジェクト」を2016年10月19日から開始。ドローンを活用した多様なソリューションの検討を行っている。
 ソフトバンクは、総務省北海道総合通信局の「携帯・スマホ等を活用した遭難者の位置特定に関する調査検討会」において、係留気球とドローンを活用してセルラー電波の中継を行い、積雪に埋もれた端末の位置を特定する実証実験を、2016年12月19日、北海道虻田郡倶知安町で実施。
 KDDIは、2017年2月24日、災害で携帯電話が不通になった地域で小型基地局を積んだドローンを飛ばし、半径約1キロの範囲で通話や通信を可能にする訓練を東京都内で公開した。今後は、さらに用途が広がるものと期待されている。

 

◆ビッグデータ

 スマートフォンやIoT(Internet of Things)/M2M(Machine to Machine)デバイス等から生成される多様で膨大なデジタルデータをビッグデータと呼ぶ。ビッグデータは企業・組織が保有するサーバで収集され、そのデータを可視化・分析することで、事業に役立つ新たな知見導出につながると考えられている。最近では、AIによる分析技術の高度化などを背景に、多様なデータを組み合わせる事例が出始めている。
 例えば、日本航空と日本IBMは機体に設置したセンサーから得た膨大な情報を機体の整備記録と組み合わせて分析することで、機材故障を事前に予測して欠航や遅延の防止につなげている。また、NTTデータは、AIを活用して過去の気象電文とニュース原稿をセットで事前学習させ、新たな気象電文からニュース原稿を自動で作成する試みを進めている。さらに、KDDIとアクセンチュアは、2017年3月に共同出資による新会社「ARISE analytics」を設立することに合意し、ビッグデータ分析を軸にした企業向けマーケティング支援サービスなどの提供を予定している。
 ビッグデータの活用領域は企業内にとどまらない。総務省は、官民が持つデータを開放し合い、自由に活用できる環境(オープンデータ流通環境)を整備している。また、法制度面でも、ビッグデータのビジネス利用と個人のプライバシー保護を両立できるよう、2017年5月に改正個人情報保護法が全面施行された。本人の同意がない場合、ビッグデータ利用者は個人を識別できないようにデータを加工してから利用すること、かつ加工されたデータは復元できないことが求められるようになった。ビッグデータ活用のさらなる進展に向けて、これまで以上に官民一体となった取り組みが必要となる。

 

◆IoT/M2Mの拡大

 近年、あらゆるデバイス(モノ)がネットにつながる「IoT(Internet of Things、モノのインターネット)」を取り巻く動きが加速している。米IDCの調査によれば、2016年の全世界の対IoT支出は7,370億ドル(前年比17.9%増)であり、2020年には1兆2,900億ドルに達すると推定されている。
 IoTの目的は、ネットワークにつながっているデバイス(IoTデバイス)を通じて、人、モノ、環境等に関するあらゆるデータを収集・分析し、新たな価値創造に活用することにある。米ガートナーの予測によれば、このようなIoTデバイスは2020年には全世界で204億個(2016年の約3.2倍)に達するとされている。IoTはAI技術とも親和性が高く、デバイス増によるさらなるビッグデータ化とAI技術による高度データ分析によってさらに進化していくことが期待されている。
 IoTを支える通信技術としては、携帯電話と同じセルラー通信(2G、3G、4G/LTE、5G)に加え、LPWA(Low Power Wide Area)等の商用化が進んでいる。
 また、リモートで書き換え可能なSIMカード「eSIM(Embedded SIM:埋め込み型SIM)」は、デバイスに組み込むことで物理的なカードの差し替えが不要であり、複数の通信事業者・国で利用可能となるため、車両や産業機器等を主対象としてグローバルなIoT市場における活用が進んでいる。
 IoTはインダストリー4.0(製造業)やスマートホーム、スマートシティ等への活用を通じて、産業・社会・生活にさまざまな価値・効用をもたらすことが期待されており、各国の政府や企業、業界団体等が実用化を推し進めている。日本においても、2015年10月に経済産業省・総務省によって設立された「IoT推進コンソーシアム」が中心となり、産・官・学が連携して技術開発や実証、標準化、企業間のデータ流通の促進、セキュリティー確保、プライバシー保護、新たなビジネスモデルの創出等の取り組みを加速させている。

 

◆IoT向け通信規格「LPWA」(Low Power Wide Area)

 IoTの無線ネットワークには、①端末や通信コストが安い、②通信エリアが広い、③デバイスの長期の電池駆動、といった条件が要求される。Wi-FiやBLE、LTEといった従来の無線に比べ、これらの条件をより実現できる無線規格を総称して、LPWA(Low Power Wide Area)と呼ぶ。LPWAは免許の要否で2つに分類される。
 免許が必要なのが、標準化団体の3GPPで策定されているLCat.M1やCat.NB1で、商用化に向けた実験が行われている。セキュアで、双方向かつ連続通信が可能といった従来の携帯電話向け無線の利点を持ちながら、LPWAの特徴も備えている。センサーのログ、音声といったデータを集め、クラウド側で解析処理を行うような用途、ネットワーク側からセンサー側への指示など、リアルタイムな下り通信が必要な、監視・制御などの用途での利用が想定されている。
 他方、免許不要なのが、既に商用化が相次いでいる、920MHz帯の免許不要帯を用いる「SIGFOX」や「LoRaWAN」と呼ばれる無線規格である。通信はMACレイヤーで行い、下り通信は必ずしも必須ではないセンサーデータの収集用途が想定されている。
 SIGFOXは、日本の基地局からSIGFOXコア網への接続を、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)が独占的に行っている。一方、LoRaWANはオープン規格なので、ソラコムとKDDIが「LoRaPoCキット」の提供を始めているほか、NTT西日本、NTTドコモ、ソフトバンクなどさまざまな事業者が実証実験を行ったり、参入を表明している。
 920MHz帯の利用にあたっては、電波産業会(ARIB)の標準規格「ARIBSTD-T108」で利用ルールが定められており、通信機器は「技術適合証明」の認証を取得する必要がある。また、通信前に他の人が通信中でないか毎度確認する「キャリアセンス」が義務付けられる。送信時間は最長でも連続2秒までに制限されるため、1回に送信できるデータは10数バイト〜120バイト程度のバイナリデータに限られる。そのため、端末側に搭載したマイコンでデータ処理を行い、解析結果やイベントの有無のみをサーバに通知するといった工夫が必要となる。

 

◆スマートデバイスの動向

 スマートデバイスは、狭義ではスマートフォンとタブレットの総称として用いられるが、広義ではネットワークに接続可能なデバイスのうち、高性能で情報処理機能を有するものを指す。具体的にはウェアラブルデバイスやスマート家電、さらにはスマートメーターやコネクティッドカー、スマートロボットなどが挙げられ、製品・サービスは多様化しつつある。
 米調査会社IDCの発表によれば、2016年のウェアラブルデバイス世界出荷台数は1億240万台であり、前年比25%の成長となった。個人向けはヘルスケア系製品が中心となっており、従来のランニング、フィットネス等の運動の計測に加え、睡眠を計測、改善することを目的とした製品も注目を集めている。2017年1月にラスベガスで開催された家電見本市「CES2017」には睡眠関連製品が多数展示され、睡眠の時間や質を可視化する睡眠計のほか、能動的に良質な睡眠を作り出す製品群が新ジャンルを形成しつつあることがうかがえた。
 一方、スマート家電としてはさまざまな製品が各メーカーから発売されており、中でもAmazonの「Echo」が注目を集めている。これは人工知能を備えた円筒形のスピーカーであり、音声コントロールによって他スマート家電のコントロールやニュース・天気などの情報検索が可能となっており、また、Echoと連携できる製品やサービスの発表も相次いでいる。同様のジャンルではGoogleの「Google Home」や、Appleの「Home Pod」なども発表されている。今後、各製品の低価格化やスマート家電同士の連携が進むことで、人々の生活を大きく変えていく可能性があると期待されている。

 

◆FinTechの拡大

 「FinTech(フィンテック)」とは、「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語であり、一般的には「IT技術による金融サービスの付加価値向上や新規ビジネス創出」を総括して用いられる。FinTechを象徴する技術としては、大きく①ブロックチェーン、②AI(Artificial Intelligence:人工知能)、③API(Application Programming Interface)の3点が挙げられる。
 1点目のブロックチェーンは、データの改ざんを困難にした分散型の記録管理技術であり、ビットコイン等の仮想通貨における中核技術となっている。ブロックチェーンにより、国や銀行等の大規模中央集権的な管理体制がなくても、取引履歴や口座残高の信頼性を担保できる。ビットコインは日本でも支払い手段として導入され始めており、例えば、銀座の回転寿司「沼津港」にはビットコイン用のATMが設置され、支払いも可能となっている。
 2点目のAIは、元々は知能をコンピューターや機械に持たせようとする試み、あるいはその技術を指すが、金融においては、主に従来人手で行っていた分析・予測業務に活用することで、迅速・安価に大量のデータを処理する技術として利用されている。AIの活用により「ロボットアドバイザー」が実用化され、一般利用者でもパソコンやスマートフォンから最適な資産運用のアドバイスを受けられるようになった。
 3点目のAPIは、自社の機能を外部のシステムが利用できるようにする仕組みである。例えば、マネーフォワードやZaimは、スマートフォンでの統合的な財務管理サービスを提供するが、利用者が複数の口座のID・パスワード情報を預ける必要があり、情報漏えいのリスクが内在している。金融機関のAPIが整備されれば、利用者がID・パスワードを他社に預ける必要がなくなり、安全性の大幅な向上につながる。これまで金融機関によるAPIの提供は限定的であったが、2017年5月に成立した改正銀行法で提供が努力義務とされたことを受け、金融業界トップグループである三菱UFJフィナンシャル・グループからAPIの提供が発表されている。
 今後、FinTech分野における技術革新と規制緩和はますます進み、安心・安全で便利な金融サービスが数多く出現することが期待される。

 

◆サイバーセキュリティ

 サイバー空間が経済や社会の基盤を構成している現在、サイバーセキュリティの確保は国民生活や社会経済活動、国家の安全保障に関する重要な課題である。日本では「サイバーセキュリティ基本法」(2014年11月12日施行)に基づき、2015年1月9日、内閣に「サイバーセキュリティ戦略本部」が設置された。内閣官房組織令に基づき、情報セキュリティセンターを改組し、同日、内閣官房に「内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)」が設置され、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を見据えたサイバーセキュリティの実現に向けて動いている。
 一方、家電や自動車等のあらゆるモノがネットワークに接続されるIoTの時代においては、モノが不正に操作され、攻撃に利用されることが極めて大きな脅威となる。
 2016年9月20日、米国の情報セキュリティサイト「Krebson Security」が、史上最大規模のDDoS(分散型サービス拒否)攻撃を受けた。この攻撃は、「Mirai(ミライ)」と呼ばれるマルウェアに感染した防犯カメラやルータなど14万台以上のIoT機器によるもので、総トラフィック量は600Gbpsを超えた。
 今後は、サーバ、PC、スマートフォンに加えて、各種IoT機器へのセキュリティ対策が喫緊の課題となる。

 

◆シェアリング・エコノミーの広がり

 経済成長の鈍化、エコ意識の高まり、インターネット・SNSの普及などを背景に、モノや空間などを誰かと共有するシェアリング・エコノミーが広がりを見せている。
 企業が商品を調達・貸し出しを行うレンタルサービスに対し、シェアリング・エコノミーでは主にインターネット上で個人と個人がつながり、モノの貸し借りを行う。
 シェアリング・エコノミーの代表的なサービスの1つである「Uber(ウーバー)」は2009年に米国でサービスを開始した配車アプリで、タクシーに加え、一般人が運転する自家用車も配車の対象になっている。車のオーナーは、アプリ上で簡単な登録を行えば、ドライバーとして収入が得られる。乗客は、スマートフォンのGPS機能を使って、指定した場所から乗車できる。日本では、有償で自家用車での送迎行為を行うことは、道路運送法により白タク行為として禁止されており、Uberの配車もタクシーに限定されている。しかし、公共交通が廃止された過疎地における生活の足として、ライドシェアが期待されており、2016年5月には京都府京丹後市でUberのシステムを用いたライドシェアが導入された他、同年8月には北海道中頓別町で実証実験が始まった。政府の規制改革推進会議はライドシェアの全面解禁に向けた検討を始めており、今後の動向が注目される。
 2008年に米国でスタートした「Airbnb(エアビーアンドビー)」は、個人の所有する空き部屋・空き家を短期間、旅行者等に貸し出すサービスである。日本では2014年からサービスが開始され、2017年3月現在の国内登録件数は約46,500件に上る。個人が住宅に旅行者を有料で泊める行為は「民泊」と呼ばれ、現段階では東京都大田区や大阪府などの国家戦略特区で認定を受けた地域や、旅館業法上の簡易宿所として許可を得た際に営業が可能である。訪日外国人客の増加など民泊ニーズの高まりに応え、政府は民泊のルールを定める住宅宿泊事業法(民泊新法)案を第193回通常国会に提出した。法案が成立すれば、一定の規則のもとで民泊が正式に認められることになる。その他、遊休スペースや利用時間外の施設を貸し借りする「スペースマーケット」や、個人のスキルをシェアする「クラウドワークス」など、シェアリング・エコノミーの裾野は広がっている。

 

◆MVNOの広がりと今後の動向

 MVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)は、基地局などの無線通信インフラ設備を設置・運用せず、無線通信インフラ設備を保持するMNO(Mobile Network Operator:移動体通信事業者)から設備を借りて移動通信サービスを提供する事業者である。
 総務省は家計における移動通信サービス料金の負担軽減を目指し、MVNOによる市場競争を促進している。具体的には、MNOに対するSIMロック解除の義務化や携帯端末の販売奨励金の規制などが挙げられる。総務省の報道資料によると、MNOを除くMVNOの契約者数は2016年12月末時点で1,485万に達し、前年同期比で27.7%増加している。MNOを含む全体の契約数に占める割合は8.9%となり、MVNOの市場シェアは順調に広がっている。
 一方、MNOから直接回線の提供を受ける一次MVNOの事業者数は200社を超え、MVNO間の競争が激化している。各MVNOは、生き残りをかけてサービス面での差別化を図っている。例として、FREETELなどの実店舗の出店、LINEモバイルなどのSNSアプリの一部機能による通信料無料化などが挙げられる。事業者数の増加により、ユーザーは各事業者が提供する通信速度などの品質の違いを判断しにくくなっており、役務提供に関する情報開示の整備も課題となっている。
 MVNOのさらなる競争力向上を目指して、2016年5月には電気通信事業法の一部が改正された。併せて、MVNOに係る電気通信事業法および電波法の適用関係に関するガイドラインには、MVNOがMNOから借りる設備や機能を提示し、原則、MNOはそれに応じる義務を負う規定が盛り込まれた。中でも、開放を促進すべき項目として明記された「HLR/HSS(Home Location Register / Home Subscriber Server)」については注目すべきである。
 「HLR/HSS」とは、加入者管理データベースのことであり、これまではMNOがMVNOの契約者情報も管理しており、MVNOでは料金・サービス変更に関する柔軟な運用が困難であった。「HLR/HSS」の利用を可能とすることで、MVNOは顧客の契約情報を把握可能となり、ローミングなどのさまざまなサービス展開が実現可能となる。結果として、MVNOにおけるサービス機能面での差別化が可能となるため、さらなる市場競争の促進につながることが期待される。

 

◆5G(第5世代移動通信システム)

 5Gとは、4GといわれるLTEやLTE-Advancedのさらに次となる「第5世代移動通信システム」のことである。主な技術的特徴として「高速・大容量」「低遅延」「高密度接続」などが挙げられ、伝搬距離は短いが大容量通信が可能となる高周波数帯(例えば28GHz帯や60GHz帯など)の無線の利用、遅延低減やデータ量圧縮が可能となるモバイルエッジコンピューティング(基地局に近い場所で情報処理すること)の導入等がある。これらの技術により、5Gでは、4Gの20倍となる超広帯域(ピーク帯域20Gbps)、10分の1となる超低遅延(1ミリ秒以下)、10倍の高密度接続(106端末/km2)等の実現が見込まれている。現在、商用化を目指して技術開発や標準仕様の策定が進められている。
 5Gの導入により、多様な産業分野で新しいサービスの創出が期待されている。エンターテインメント分野では、4K/8Kといった超高精細映像伝送、仮想現実や拡張現実による、コンテンツやゲームのリッチ化が可能となる。医療分野では、映像の高精細化と低遅延通信により遠隔医療がより実用的になる。インフラ分野では、センサーやスマートメーター、車等の多数のモノがネットワーク接続されるIoTの普及により、コネクティッドカーや防犯・防災・セキュリティ等への応用が期待されている。
 2017年からは、国内業界団体の「第5世代モバイル推進フォーラム」により、オールジャパン体制での5Gシステム総合実証試験が計画されている。また、NTTドコモによる5Gサービスのトライアルサイト実施や、セコムとKDDIによる5Gセキュリティシステムの実証実験なども予定されており、2020年頃の実用化に向けた動きがますます活発化すると予想される。

 

◆AR/VRサービスの拡大

 2016年は、AR(Augmented Reality:拡張現実)やVR(Virtual Reality:仮想現実)が一般社会に広く認知された年であった。ARとは、現実空間の一部に仮想的な付加情報を表示する技術であり、スマートフォンや携帯型ゲーム機、スマートグラスなどを介して現実空間を見ることで体験できる。2016年7月に米ナイアンティック社からリリースされたスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」は、2カ月で5億ダウンロードと5億ドルの売り上げを達成し、世界的大ヒットを記録した。また、NTTデータが2016年11月にスマートグラスを活用した遠隔作業支援システムの販売を開始するなど、ビジネス向けのARの活用も始まっている。
 一方、VRとは、仮想空間にあたかも自分が居るような感覚を提供する技術である。2016年はVR元年と呼ばれるほど、VR用のデバイスやサービスが市場に投入された。具体的には、「Oculus Rift」「HTC Vive」などのヘッドマウントディスプレイや、「ハコスコ」「Google Cardboard」といったケースにスマートフォンをセットする簡易型ゴーグルが発売された。中でも、ソニーの「Play Station VR」は特に人気が高く、2016年10月の発売から4カ月間で91万台が販売され、2017年3月時点でも品薄状態が続いている。また、バンダイナムコ社が2016年4月から10月の期間限定で東京・お台場にオープンしたVRエンターテインメント施設「VR ZONE Projecti Can」には、半年間で37,000人の来場があり、2017年夏には新宿でのオープンも予定されている。
 これら以外にも、Microsoftの「Hole Lens」等、現実空間に仮想物体を融合させるMR(Mixed Reality:複合現実)技術が登場するなど、AR/VR関連市場は急速に拡大している。米調査会社IDCによれば、世界のAR/VRの市場規模は2016年の61億ドルから2020年には1,443億ドルに達する見通しであり、現在主流であるエンターテインメント分野の他、製造業や小売業での活用も見込まれている。

 

◆ポイントサービス市場の動向

 共通ポイントサービスの普及が進み、参入事業者の増加やポイントの発行額の拡大により、2015年度の国内ポイントサービス市場規模(ポイント発行額ベース)は、前年度比5.2%増の1兆4,440億円、2020年度には2兆300億円に達すると予測されている。ポイントサービスのアプリ化の進展に伴い、顧客の購買データは、自社の顧客ロイヤルティの向上や新規顧客の獲得、提携企業間での相互送客、行動分析などへの利活用が進んでいる。
 2016年は、メガプレイヤーの決済サービスへの参入が相次いだ。10月にAppleが日本国内でモバイル決済サービス「Apple Pay」の提供を開始し、12月にはGoogleが「Android Pay」の提供を開始したことで、各社のポイントサービスの連携が加速している。「Apple Pay」は、「Suica」や主要な銀行およびクレジットカード会社に対応し、複数のクレジットカードやプリペイドカードをアプリで一括管理をすることができる。また、各社が提供しているポイントプログラムも継続して利用可能となっている。各クレジットカード発行会社は「Apple Pay」に対応することで、店舗やアプリケーション・WEBサイト等でのクレジットカードの利用シーンの拡大を図っている。
 「Apple Pay」に登録されたクレジットカードやプリペイドカードは、「QUIC Pay」または「iD」のいずれかの電子マネーとして割り当てられ利用できる。「Android Pay」対応の電子マネーは、2017年5月時点では「楽天Edy」「nanaco」のみとなっており、今後サービスの拡充が期待される。
 また、ポイントサービスを国内のみならず海外でも導入する動きがみられる。無印良品は、2015年5月に日本の小売業で初めて中国国内の無印良品での買い物でマイルが貯まる無料スマートフォン用アプリ「MUJI passport(中国版)」の提供を開始した。2016年12月にはローソンが中国のコンビニエンスストアにスマートフォン用会員向けアプリを利用したポイントサービスを導入するなど、中国での急激なスマートフォンの普及を背景に、スマートフォンアプリを活用した中国国内向けのポイントサービスの参入が続いている。