移動空間の体験に新しい価値を

掲載日: 2022年02月28日

FUTURE GATEWAY では「越境走者」と多様なパートナーとともに、未来のライフスタイルの実現に向けたプロジェクトに取り組んでいます。
第1回は、FUTURE GATEWAY PROJECT第一弾の「Hoppin’Sauna」で、移動式サウナのデザイン設計を担当されているNOD代表の溝端友輔さん。自身も「越境走者」としてFUTURE GATEWAYに参加されていますが、プロジェクトを通してNODが描く未来像とはどのようなものなのでしょうか。

PJ概要:Hoppin’Sauna

「いつでもどこでも、呼べばサウナがやってくる」がコンセプトの移動式サウナプロジェクト。バイタルセンサーにより<ととのう>を可視化し、労働生産性の向上や医療費抑制への貢献を目指します。

FUTURE GATEWAYサイト「Hoppin’Sauna」

溝端友輔:株式会社NOD代表。建築ディレクター / プロジェクトマネージャー。2019年に株式会社NODを創業し、遊休不動産のマッチングプラットフォーム「RELABEL」や日本橋のOMO型商業施設「GROWND」、その1階にある完全キャッシュレスのホットサンド専門店「HOT SAND LAB mm」などを手がけてきた。

株式会社NOD:人や技術、場の可能性を最大化する、“アビリティデザインカンパニー”。建築家、エンジニア、デザイナーなどの領域のプロフェッショナルにより、「EXPERIENCE DESIGN」「BUSINESS DESIGN」「BRAND DESIGN」の3つのデザインを提供している。

「移動空間×サウナ」で新しい体験をデザイン

ーー建築のデザイン事業をされている溝端さんですが、具体的にNODではどのような取り組みをされているのでしょうか。

溝端:元々は建築の設計や企画から始まった会社で、今は、建築デザインのスキルをベースとしたデザインコンサル会社になっています。そのため、メンバーも設計に関わる人だけでなく、グラフィックデザイナーやエンジニア、編集者など多様です。最近だと1棟の商業施設の企画プロデュースや、KDDI総合研究所など、企業が保有する技術を使ってどういったビジネスができるかといった新規事業開発から社会実装までのお手伝いをしています。

ーーFUTURE GATEWAYの移動式サウナのプロジェクト「Hoppin’Sauna」に参画された理由をお聞かせいただけますか。

溝端:僕らのスキルが、Hoppin’Saunaのプロジェクトに対して価値を出せると思ったところがあったので参加しました。Hoppin’Saunaが始まる前、神姫バス(兵庫県)から、廃棄されるバスの空間やパーツを利用した新しい移動空間を作る案件を依頼されていたんです。そのプロジェクトを進める中で、Hoppin’Saunaを知り、一緒にやれる可能性はないかと、(KDDI総合研究所 執行役員の小林)亜令さんと話したのがプロジェクトの始まりです。それまで自動運転車の様々な企画を見ていたものの、ちゃんと5年後、10年後に社会実装される未来が伝わってくるプロジェクトってそんなにないなと思う中で、Hoppin’Saunaのプロジェクトは社会実装する可能性が見えている。移動空間の中でも、最もエネルギーが必要なサウナをやることが、いろんな可能性を生み出すんじゃないかと思っています。「移動空間×サウナ」をやると、正直、他のどんなものでもできると思うし、プロジェクト自体の仕組み自体が新しい可能性をつくっていくのではないかと思っています。そうしたところに魅力を感じて参画しました。加えて、自分たちのいろんな技術を理解しつつ、それをちゃんと体験に落とし込めるところを、お手伝いできるんじゃないかと思っています。

ーー空間をデザインすることで、御社が目指されているものはなんでしょう。

溝端:僕らがつくっているのは“空間の体験”です。表層的な内装だけではなく、本質的にその場にどういう体験があるべきなのかを考えて、デザインを行っています。僕らのやりたいことは、まだ価値化されていないものをしっかり価値化して、形にすることです。それらを誰もが参加できるように型化して、最初は小さなアクションを少しずつ大きくしていき、都市全体に影響を与えるようなことができたらいいなと思っています。

神姫バスの路線バスを改造し、移動型サウナバス「サバス」をデザイン

ーーFUTURE GATEWAYの取り組みとして、Hoppin’Saunaのプロジェクトを、今後どのようにしていきたいとお考えですか。

溝端:このプロジェクトには2つの大きな要素があると思っています。1つは、バイタルセンシングで健康状態を可視化するところ。もう1つは、それをベースとしながら、移動中にサウナ体験ができてしまうところ。その2つの形の未来をつくっていくところだと思っています。僕自身は、なるべく家にいたい人間ではあるんですが、タクシー移動を頻繁にしています。だから、その移動空間の時間の価値がもう少し変われば、新しい生活の様式が生まれるんじゃないかと思っています。移動時間自体が無駄と思っていたので、ある意味、使い切れてない資源、価値みたいな時間をどのように価値化できるか考えたときに、自動運転車など移動空間の領域に興味関心があって、そこからプロジェクトに入っているのかなと思っています。

日本的な新しいサウナ文化を共創し
自然なコミュニケーションを

ーーエストニアに本社があるサウナの会社と協業されていますが、Hoppin’Saunaに参画された背景と関係があるのでしょうか。

溝端:半年前ぐらいに、totonoüというエストニアのサウナメーカーさんとつながりを持って、一緒にサウナプロデュースの仕事をしていますが、僕自身は今のエンタメ的なサウナ文化やサウナ体験に興味関心はあまりありません。サウナという体験自体は、日常の中でリフレッシュできて、いい体験であると思う一方、わざわざ遠くや混んだところには行きたいとは思わない。日常の延長線上の中の選択肢の1つ、銭湯のように、もう少し身近な存在であるといいなと思っています。生活の中の一部として「新しいサウナ文化」「日本的なサウナ文化」を一緒につくっていければいいなと思って、プロジェクトをやっていました。

ーー原宿のオフィスにサウナをつくられたそうですが、身近に感じられて文化として根付くところを目指されているのでしょうか。

溝端:オフィスにサウナがあることによって、いろんな人が来てくれるんですよね。それと、サウナを通してのコミュニケーションって、いいなと思って。僕は、どちらかと言うと、お店でのサウナの体験より、プライベートサウナの体験が好き。totonoüさんの長野の拠点にはプライベートサウナがあって、友達同士4~5人ぐらいでサウナに入った体験が新しい発見でした。ほぼ服を着ていない状態で、密接な距離で人とサウナに入る。普段よりしゃべるしかないし、そこでしかできないコミュニケーションが良かったので、totonoüさんの商品を買って原宿に置いたんですよ。そういうところに、人は来てくれるし、サウナをきっかけにコミュニケーションが取れる。

ーーお仕事で来られた方と、そのまま一緒にサウナに入られるのですか。

溝端:そうですね。サウナを目的として来られて、ついでに打ち合わせするぐらいじゃないですかね。打ち合わせと言っても、明確なゴールを設定しないブレストみたいなものが、自然とその中で始まったりして。そうした始まりの方が、いい仕事が生まれたりすると思っている。そういったものが生まれる、いい場所であるなと思います。

ーーかなり新しい働き方のように思います。働き方というよりもライフスタイルでしょうか。

溝端:コロナ禍でリモートワークが増えている中で、自然なコミュニケーションを取れる場所が減っているので、そうした場所が増えていけばいいなと思っています。僕は、決められたアジェンダの中でゴールを見い出していくのは、あまり好きでないし得意でない。そもそもなぜそれをやるのかみたいな前提から、いろいろざっくばらんに話していくコミュニケーションの中でこそ、僕自身のアイデアや人となりは出せるのかなと思っています。

技術的な課題を越境し
高エネルギー移動空間の社会実装へ

ーーHoppin’Saunaを進めていくうえで、技術的に難しい課題を教えていただけますか。

溝端:移動空間ということで、既存のインフラに頼らずにエネルギーを安定して供給するのが難しいです。サウナで熱を発生させるのに、直接電源につながずにモバイルバッテリーなどを利用して、移動中も安定したサウナ環境を維持する必要があります。サウナの後の水シャワーのために冷水の温度を安定させる必要もあります。例えば、真夏にタンクの温度が外気と同じ30度になってしまう可能性があるので、冷水で安定させることも大事です。移動空間の中でも、理想のサウナ体験を維持しながら、どうやって技術で解決できるかを考えています。

ーー冷却するための装置を入れると、重くなりそうですね。

溝端:そうですね。大きくなるし、分岐するのが難しい。ただ温めるか常温なのかだと、1つの経路で楽であるんですけど、温める機械と冷やす機械を別々に、どこにどのように設置するのか、組み込むのかが難しくて。
ただ、解決できる糸口はいくつかあります。高エネルギーの移動空間って、いろんな解決すべき課題があるのは面白いなと思うし、解決できる知識や仕組み自体が、移動空間や移動式サウナだけでなく、他の課題解決にもつながるのかなと思っています。そうしたところに面白さを感じていますね。

FUTURE GATEWAYプロジェクト「Hoppin’Sauna」の移動式サウナによる新しい体験のイメージ

ボトムアップでアップデートする共創プロセス

ーー移動空間での体験の魅力のほか、Hoppin’Saunaならではの魅力はありますか。

溝端:プロジェクトの進め方自体も“ならでは”であるのかなと思っています。最初からゴールを決めるのではなくて、定期的に議論しながらボトムアップ式に、こういう体験がいいんじゃないのとか、こういう直し方がいいんじゃないのとか、議論しながら柔軟にアップデートしていく作り方をしているので、そういうところは、面白いやり方だと思っています。

ーーFUTURE GATEWAYのプロジェクト自体のどういったところに魅力を感じていますか。

溝端:建築的な仕事は、関係者も多く、事業規模も大きなものが多いので、最大公約数的にいろんな人の意見を取り入れて、場所や体験をつくっていくので、結局ありふれたものになってしまう。その人がやる意味とか、その場所でやる意味っていうものが薄れてしまう。結果、誰に対しても良いものをつくろうと思うと、誰に対しても良くないものになってしまうと思っています。だから、個人の価値観とかアイデアをちゃんとすくい上げて形にしてみて、ボトムアップ式に社会につなげていくプロセスは、いいなと思っています。

ーーFUTURE GATEWAYの特徴である、先進的なライフスタイルを実践されているt’runnerの方々との共創についてはいかがでしょうか。

溝端:いろんな領域のスペシャリストの方と出会えるのは、いいなと思っています。自分が生活する上での課題で、これを解決したいな、やりたいなっていうことを全部自分ができる訳ではないので。自分がやりたいと思うことに何か未来を感じる一方、自分がそのスペシャリストでなくても、俯瞰してバリューを出しながら、社会実装に対してお手伝いできるっていうのは、魅力的な環境であるなと思っていますね。