「ワークスタイルの民主化」に向けて

掲載日: 2022年09月15日

KDDI research atelierでは、新たな事業や研究開発などにチャレンジされている方々を訪問し、未来のライフスタイルの実現に向けた取り組みについて、お話をうかがっています。

第1回は、コクヨ株式会社が運営する「働く・暮らす・学ぶ」の実験場「THE CAMPUS」をKDDI総合研究所 所長の中村元が訪れ、ワークスタイル研究所 所長の山下正太郎様にご案内いただきながら、未来のワークスタイルについて対談しました。

山下正太郎:コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 所長。グローバルでの働き方とオフィス環境のメディア『WORKSIGHT』編集長。同社に入社後、戦略的ワークスタイル実現のためのコンサルティング業務に従事。2011年に『WORKSIGHT』を創刊。同年、未来の働き方を考える研究機関「WORKSIGHT LAB.(現ワークスタイル研究所)」を立上げる。『WORKSIGHT』:https://www.worksight.jp/

ワークスタイル研究所:働き方を問い、実践するThink and Do Tank。働くことが、「会社」から「個人」にも委ねられている現代において、思考の射程を「はたらく」から「まなぶ」「くらす」まで柔軟に広げながら、世の中のワーカーを触発し続けている。ワークスタイル研究所:https://workstyle-research.com/

中村元:株式会社KDDI総合研究所 代表取締役所長、KDDI株式会社 執行役員。現KDDI株式会社入社後、通信ネットワークの研究に従事。KDDI本社でスマートフォンなどの端末開発や全社的な技術戦略策定の業務を経て、現職に至る。KDDIグループのシンクタンク機能と研究開発機能を併せ持つ文理融合型の研究機関として、お客さまにワクワクするライフスタイルを提案し、新たな体感につながる最先端技術の研究開発を主導。

オフィスを開放しチームで使える場所へ

山下:コクヨは、品川の港南口に本社を構えており、こちらの建物は築40年以上が経っています。その一方で、現在、品川の都市開発が進行しています。これから10年も経たないうちに、リニアモーターカーが通ったり、港南口に加えて高輪口も再開発されたり、色々と変化していく中で、私たちとしても、新しい都市の中で、どのような働き方や暮らし方ができるかを実験しようと、今回のリニューアルに取り組んできました。こちらは、1階の「PARK」というスペースになります。元々この場所には建物がありましたが、敢えて建物を取り払い、街に開放して公園にしています。私たちは、家具や文具など、消費者に近いプロダクトをたくさん製造していますので、ビジネスパーソンや近隣に住んでいる方など、利用している皆さまのお顔を拝見しながら仕事をしたいということで、今回、このように公園を設けました。こちらには、どなたでも入っていただけます。

中村:なるほど。この場所は公園なのですね。それでは、他の場所も拝見させていただいてよろしいでしょうか。

街に開放された公園「PARK」

山下:はい。それでは、「THE CAMPUS」の中に入りたいと思います。こちらは「COMMONS」という場所になります。例えば、本日の中村さんのようにゲストとしてご来社いただいた方でしたら、自由に出入りいただけるスペースになっています。私たちは、色々な方とコラボレーションしながら、ビジネスを展開していますので、私たちのためだけのオフィスではなく、もっと多くの色々な方に使っていただける、広い意味でのチームで使える場所として、「COMMONS」を設計しています。

中村:確かに、随所に工夫が施されているようにうかがえます。

山下:ありがとうございます。現在、「COMMONS」では、オンラインのイベントを行うことが多いです。机を片付けてスクリーンを下ろして、こちらをスタジオにして頻繫にイベントを配信しています。

チームで使いコラボレーションする場所「COMMONS」

人と対面で会う機会を豊かに

山下:次に、こちらはご来社いただく皆さまとご一緒する会議室のエリアになっています。

中村:こちらは会議室ですか。素晴らしい設備ですね。

山下:ありがとうございます。今回、コロナ禍以降に「THE CAMPUS」を開設しましたが、私たちは、人と直接会う機会の意味合いが、以前と比べて随分変わってきたように思っています。実際に人と対面で会う機会は、以前よりも多くの回数を期待できません。そういう意味では、人と対面で会う機会の一つひとつを、いかに豊かに印象深くできるかがポイントと思っています。従来よりも、例えば、部屋を少し広くしたり、設備も以前よりもグレードを上げたりとか、その1回の体験をより豊かにすることをポイントにしています。

中村:人と対面で会う機会を大切にされていることが伝わってきます。

会議室では人と対面で会う機会を豊かに印象深く

特殊な用途に応えてオフィスに価値を

山下:こちらは、「DIVERARY」(DIVE+LIBRARY)と呼んでいるエリアで、原則、私語が禁止のエリアになっています。「DIVERARY」は、図書館のように多くの書籍を置いていますが、静かに仕事に集中するという場所にもなっています。

中村:先程、座席の予約システムを拝見しましたら、多くの座席が予約されていました。

山下:そうですね。この空間が好きな社員は多いように思います。

静かに仕事に集中する場所「DIVERARY」

中村:こちらはどのような空間なのでしょうか。

山下:こちらは配信スタジオになります。今回、新たに設置しました。ここでは、例えば、音声コンテンツを収録したりセミナーを配信したりできる専門のブースになっています。いわゆるラジオのスタジオのような設備になります。

中村:本格的な機材が揃っていますね。

山下:ありがとうございます。私たちは、これからオフィスが、どの程度特殊な用途に応えられるかということを、重要な観点と思っています。単に作業を行うだけでしたら家でも行えます。このように専門的な機材をそろえることにより、社員がオフィスに出社する意味が高まるように捉えています。

中村:なるほど。特殊な用途に応えて、オフィスの価値を高めているのですね。

山下:そのように考えています。

新たに設置した配信スタジオ

ワーカー一人ひとりが働く環境を選ぶ時代に

中村:新しいオフィスが、どのように生み出されてくるかということがよく分かりました。ところで、研究所の所長は大変でありませんか。

山下:そうですね。多少は大変に感じることもありますね。一方で、今まさに働き方や働く環境が大きく変化しています。ますます不確実性が高くなっていく中、今後、働き方や働く環境がさらにどのように変化していくのか。研究対象として面白くなってきたという印象を持っています。

中村:これからのオフィスは、どのようになっていくとお考えでしょうか。

山下:これまでの働き方や働く環境は、基本的には会社が決めて、ワーカーがそれに従うという関係であったように思います。今後、生活環境そのものや働き方に対する考え方がますます多様になっていくことを考えますと、ワーカー自身が、さまざまな選択肢を得ることができるようになることが重要と捉えています。恐らく会社はあらかじめ働き方をあまり制約できない時代になっていくのではないでしょうか。私は、このような変化を「ワークスタイルの民主化」と呼んでいます。ワーカー一人ひとりが、自分の働く場や環境を設定したり選択したりできるような時代に変わっていくと考えています。

中村:「ワークスタイルの民主化」というお考えは興味深いですね。通信会社の研究所とも、ご一緒させていただけることはありますでしょうか。

山下:「ワークスタイルの民主化」を進める際に、通信がないとワーカーの自由度が担保されないことは明らかです。通信は欠かせないテーマと捉えていますので、何かご一緒できると嬉しいです。