

グローバルなビューティーカンパニーを目指す
体験施設(前編)
掲載日: 2023年03月31日
KDDI research atelierでは、新たな事業や研究開発などにチャレンジされている方々を訪問し、未来のライフスタイルの実現に向けた取り組みについて、お話をうかがっています。
今回は、株式会社資生堂が運営する美の複合体験施設「S/PARK(エスパーク)」をKDDI総合研究所 所長の中村元が訪れ、資生堂研究所のオープンイノベーションプログラム「fibona」のプロジェクトリーダーを務める中西裕子様にご案内いただきながら、未来の美の在り方について対談しました。


お客さまに身近に感じていただける研究所へ
中西:こちらのグローバルイノベーションセンター「S/PARK」は、資生堂の5つの研究拠点のうち、グローバルヘッドクォーターの位置付けとなります。
中村:こちらには、一般の方もお入りいただけるのでしょうか。
中西:はい、1階と2階は、一般の方も自由にお入りいただけます。


中村:こちらは研究所なのでしょうか。
中西:4階から15階が研究所になり、白衣を着たチームが研究に取り組んでいます。以前は、横浜市の中でも比較的郊外の都筑区に研究所がありました。
中村:こちらに研究所が移り、何か変わりましたか。
中西:社員の洋服から働くスタイルまですっかり様変わりしたように思います。「S/PARK」が設立された2019年頃は、事業ドメインを増やし、国内の化粧品会社からグローバルのビューティーカンパニーにシフトすることを会社として進めていた時でした。その取り組みの一環として、研究所を拡大する一方、BtoCの会社らしく、できる限り研究員がお客さまに接して研究できるように、この場所が選ばれました。
中村:研究員の方が自ら、お客さまに接することができるのは、素晴らしいですね。
お客さまと接して研究のインサイトを触発
中西:こちらは、研究員がお客さまを直接カウンセリングして、その方だけの化粧品を作る「Beauty Bar」になります。
是常:「Beauty Bar」の店長を務めている是常(これつね:資生堂R&Dサステナビリティ&コミュニケーション部)です。お客さまと一緒に一人ひとりの美しさを見つけて、“私にぴったりのきれい”を科学し、カタチにしていく場として、こちらの「Beauty Bar」を開設しています。こちらでは、「パーソナライズスキンケアサービス」を提供しています。資生堂は、数多くの店舗を展開していますが、こちらのサービスは、「Beauty Bar」でのみ提供しています。化粧水や乳液をその方のお肌に合わせておつくりしています。当番の研究員が、お客さまの肌状態やライフスタイルなどのアンケートを行い、肌の状態を測定します。測定結果の解析により、化粧水と乳液の処方を決定します。お客さまに毎日楽しく化粧品を使い続けていただくために、香りやテクスチャー、ラベルも、複数の中からお好みのものをお客さまと一緒にお選びします。隣のビューティーバーラボで専門スタッフが一つひとつ手作りした化粧水や乳液をご自宅にお届けするサービスになります。


中村:研究員の方が、こちらで直接お客さまにカウンセリングを行っていらっしゃるのですね。
是常:3か月ごとの任期制で、5名の研究員が、週に1回のペースでお客さまに接しています。お客さまに情報をご提供する一方、お客さまからいろいろなインサイトをうかがいながら、インスピレーションを得て、自身の研究に活かしています。
中西:一般的に、こうした施設は、決められた研究員が継続して対応することが多いと思われますが、本来のコンセプトを満たすために、研究分野を問わず任期制にしています。
是常:基礎研究や原料、心理、細胞など、あらゆるテーマに取り組む研究員がお客さまに直接対応しています。一方、お客さまも、サイエンスに興味があるとか、化粧品の成分について詳しく聞きたいとか、そうしたことが好きなお客さまが多いように思います。
中村:確かにそうですね。サイエンスや研究にご興味を持っていただいている方に直接うかがうことで、いろいろな気づきが得られるように思います。
目視評価にデータを組み合わせた
オープンイノベーション
中西:次に、私がリードして取り組んでいる「fibona」というオープンイノベーションのプログラムで行っている活動の一つを紹介します。スタートアップの皆さんとの共創をテーマに、共同研究や実証実験を行っています。ぜひご体験いただけたらと思います。
中村:ありがとうございます。素晴らしいですね。楽しみです。
中西:元々、資生堂は、いわゆる静止画の美しさだけではなく、動きや心も含めて美しい状態を追求し、美しい動作に着目して研究を続けてきた経緯があります。その動作の基本として、歩き方に着目して、その歩き方の美しさを評価する方法を開発してきました。今回、「fibona」の取り組みの一環として、株式会社ORPHEとコラボレーションを行っています。ORPHEは、ソールにセンサーを内蔵しているスマートシューズと動画により、歩き方を分析する技術を保有しています。今回の取り組みでは、この技術を活用し、歩行の美しさを評価しています。ぜひこちらをご体験いただければと思います。
東:本日、担当するビューティーバーコンサルタントの東(あずま:資生堂R&Dサステナビリティ&コミュニケーション部)です。早速、ご体験いただきたいと思いますので、こちらのスマートシューズに履き替えていただけますでしょうか。
中村:履き替えました。大丈夫です。
東:それでは、普段どおりに歩行をお願いします。


中西:今回の取り組みでは、歩行の美しさとして「いきいき」「のびやか」「やわらか」を評価しています。
東:「いきいき」が主に下半身の動きで、「のびやか」が主に上半身の動きで、「やわらか」が上半身と下半身の連動性を示しています。こちらに結果が表示されました。歩行スコアが3つの指標を算出した総合的な数値になります。今回の歩行は、いわゆるモデル歩きと違い、いかにスムースに体を動かして自然な動きができているかを点数として算出しています。100点に近いほど、より理想な状態になります。素晴らしいですね。3つの指標の中で特に「いきいき」をもう少し意識して歩行していただくと、さらに全体的なバランスが良くなります。
中村:そうですね。「いきいき」がちょっと伸びなかったですね。
東:「いきいき」とした歩行は、心とつながりがあり気持ちを前向きにします。肌との関係では、下半身の大きな筋肉を動かして歩行するので、血液循環が良くなっていきます。そうすると、酸素や栄養素が皮膚の細胞に行き渡りやすくなります。新陳代謝がスムースに行われると、肌細胞が活発化して肌の生まれ変わりが高まっていきます。そうすることで、肌のバリア機能が高まり、外界から刺激やストレスの影響を受けにくく、肌を安定した状態に導きます。そうしたところに、歩行と肌のつながりがあります。
中村:なるほど。そうですか。そのように歩き方と肌がつながっていたのですね。
中西:資生堂では、これまで美しい歩き方を専門家によって主観評価を行っていました。歩き方をデータ化するORPHEの技術を活用することで、サービスなどを幅広く展開できるように取り組んでいます。
中村:歩き方の目視評価にデータ化が加わると、サービス化に向けた研究がさらに進みますね。面白い。これからは「いきいき」とした歩き方を心掛けるようにします。
(後編に続く)

グローバルなビューティーカンパニーを目指す体験施設(後編)
資生堂研究所のオープンイノベーションプログラム「fibona」のプロジェクトリーダーを務める中西裕子様に複合体験施設「S/PARK(エスパーク)」をご案内いただきながら、未来の美の在り方について対談しました。(2023/4/28)

