グローバルなビューティーカンパニーを目指す
体験施設(後編)
掲載日: 2023年04月28日
KDDI research atelierでは、新たな事業や研究開発などにチャレンジされている方々を訪問し、未来のライフスタイルの実現に向けた取り組みについて、お話をうかがっています。
今回も前回(3月31日対談)に引き続き、KDDI総合研究所 所長の中村元が、株式会社資生堂が運営する美の複合体験施設「S/PARK(エスパーク)」を、資生堂研究所のオープンイノベーションプログラム「fibona」のプロジェクトリーダーを務める中西裕子様にご案内いただきながら、未来の美の在り方について対談しました。

中西裕子:株式会社資生堂 fibona プロジェクトリーダー。スキンケア商品の処方開発研究、化粧品基剤の基礎研究、デザイン思考的アプローチを用いた研究テーマ設定を経て、現在は、資生堂のR&D戦略部においてグループリーダーを務めながら、資生堂研究所のオープンイノベーションプログラム「fibona」のプロジェクトリーダーとして活動している。「fibona」:https://spark.shiseido.co.jp/fibona/
「S/PARK」:横浜・みなとみらいに2019年4月に開設した美の複合体験施設。“美のひらめきと出会う場所”がテーマの一般開放エリア。未来のビューティーイノベーションや新しい価値を生み出す「都市型オープンラボ」として多くの研究員が勤務する資生堂最先端の研究施設でもあり、実際に働く研究員とも気軽にコミュニケーションできることが特徴。「S/PARK」:https://spark.shiseido.co.jp/
中村元:株式会社KDDI総合研究所 代表取締役所長、KDDI株式会社 執行役員。現KDDI株式会社入社後、通信ネットワークの研究に従事。KDDI本社でスマートフォンなどの端末開発や全社的な技術戦略策定の業務を経て、現職に至る。
お客さまと検証しながら
プログラムをブラッシュアップ
中西:先程、静的や動的な美しさの話をしましたが、これから動的な美しさを体現するための施設「S/PARK Studio」をご案内します。歩き方などの動きの美しさを研究しても、以前の研究所では、研究の成果をお客さまにご体験いただくことが課題でした。「S/PARK Studio」では、研究員が開発したプログラムをお客さまにご体験いただいています。
白土:白土(しらと:資生堂R&Dサステナビリティ&コミュニケーション部)と申します。「S/PARK Studio」は、全身のホリスティックなビューティーの実現を目指し、アクティブビューティーをテーマとした施設になります。ヨガや資生堂のオリジナルのプログラムなどを開催しています。研究の知見に基づいて、心や体、所作までも美しくというコンセプトで、実際に研究員が作ったプログラムをお客さまにご提供し、効果検証を行っています。

「S/PARK Studio」では、研究員の成果がプログラムに
中村:研究と実証の場が近くにあることは良いですね。
白土:「S/PARK」の特徴を活かして、「S/PARK Studio」のお客さまと研究員が接する機会としても活用しています。
中村:「S/PARK Studio」では、研究中のプログラムを提供していらっしゃるのですね。
白土:研究をしながらプログラムをブラッシュアップしています。
中村:理想的なお取り組みですね。研究の成果は、出来上がったものをお客さまにご覧いただくことが多いですが、研究の過程でお客さまのご意見をおうかがいしたいですね。研究に協力しますというスタンスでいらっしゃるお客さまも多いのでしょうか。
白土:いろいろなお客さまがいらっしゃいます。「S/PARK Studio」には、資生堂のランニングクラブのOGが常駐しています。みなとみらいは、走る環境が整っていますので、ランニングクラブのOGが一緒に走るプログラムを楽しみにしてお越しくださるお客さまもいらっしゃいます。スキンケアや全身美容などにご興味いただき、研究にも協力したいとお越しいただいているお客さまもいらっしゃいます。
中村:お客さまと一緒に研究している環境は素晴らしいですね。
白土:グループインタビューにも積極的にご協力いただいています。
中村:応用研究に取り組んでいるKDDI research atelierでも、実際にお使いいただくお客さまと一緒に研究を進められるよう、取り組んでいます。
中西:私自身も、基礎研究と化粧品開発の両方の部門で研究した経験があります。その間を結びつけることが難しい一方、研究所が担う役割としては重要と捉えています。現在もどのように実現するかは手探りの状態ですが、「S/PARK Studio」は、具現化した取り組みの一つと思っています。
感性の違いで
ブランドコンセプトを表現
中西:化粧品を作る技術などを展示している施設「S/PARK Museum」をご案内します。「S/PARK Museum」は、ユニークな展示とコンテンツを通じて、美を感じられる体験型の施設になっています。「SCIENCE × ART」「LIFE OF BEAUTY」「INNOVATIONS IN BEAUTY」「FUTURE」の4つのゾーンを、お客さま自身に自由にご覧いただくことで、美のひらめきに出会えることをコンセプトとしています。
中村:2階のスペースをすべて「S/PARK Museum」に使っていらっしゃるのですね。何か科学的なものを展示していらっしゃるのでしょうか。
中西:例えば、「SCIENCE × ART」ゾーンでは、洗顔・スキンケア・サンケア・フレグランス・メイクアップ・ファンデーションといった6つのカテゴリー別に、実験を交えて展示しています。こちらは、資生堂のクリームの瓶になりますが、これ何が違うかお分かりになりますでしょうか。実は、蓋の曲線が微妙に違います。
中村:少しずつ違いますね。
中西:触れ心地の少しの違いで、ブランドコンセプトを表現していることを、お客さまにご体験いただきたくて、いろいろなクリーム瓶のプロトタイプを作っています。
中村:数多くのプロトタイプを作っているのは、感性的なものを大事にしているからなのですね。
中西:ありがとうございます。2つの口紅も手に取っていただき、違いをご体験いただきたいと思います。両方を持っていただいても大丈夫です。若干違います。

口紅の重さの違いでプレステージ感を表現
中村:こちらの方が重いのではないでしょうか。
中西:そうです。おっしゃるとおりです。こちらは、プレステージブランドの口紅になります。少しの重さの違いになりますが、高級感が伝わりますでしょうか。
中村:なるほど。確かに感じられますね。
中西:重すぎても使い心地が良くないので、その絶妙なラインを研究で見つけ出していくことに取り組んでいます。
中村:そうしたことも研究の対象なのですね。
中西:感性工学や心理学の領域になり、そうした領域の研究員もいます。
中村:そうしたことも研究の対象なのですね。
中西:なるほど。感性の領域なのですね。確かに研究の対象になりますね。
技術要素の探究から生み出される
組み合わせの妙
中西:こちらは、香りに関する展示になります。
中村:まるで実験装置のようですね。
中西:そうですね。こちらの装置には、ハチミツ・スズラン・バラ・ベリー・グレープフルーツの香りがありますが、こちらのレバーで、それぞれの香りの強さを調節します。例えば、こうしてレバーを動かすと、グレープフルーツの香りを中くらいにできます。このボタンを押していただくと、こちらから調合した香りが出てきます。少しベリーの香りが強めのようですね。

バラの香りは、複数の香りの分子の組み合わせから
中村:確かに。少しベリーの香りを抑えてみましょう。
中西:もう一回ボタンを押していただくと、少し雰囲気が変わることが分かりますでしょうか。
中村:確かに違います。前の香りが残らないのですね。
中西:そうです。新たな香りを出すことで、前の香りが残らないようにしています。
中村:科学ですね。
中西:おっしゃるとおりです。香りは科学です。バラという香りがあるわけではなく、いろいろな分子を組み合わせてバラの香りを作っています。例えば、これらを一つひとつ嗅いでいただいても、バラの香りではありません。
中村:なるほど。このようにして香りは作られているのですね。
中西:化粧品は、こうした組み合わせの妙により、テクスチャーや色も作られています。化粧品を作る技術に紐づいている技術要素を研究対象とすることが多いように思います。
中村:XR(クロスリアリティ)の研究にも近いように思います。
中西:そうですね。RGB(光の三原色)もXRの技術要素ですね。XRのような世界観が香りの研究にもあるかも知れません。
中村:通信の研究にも通じるように感じます。通信も香りも、視覚で捉えることができず、生活者の皆さんが連想することが難しいように思います。
中西:おっしゃるとおりですね。面白い共通点がありました。
中村:これからもご一緒させていただけると嬉しいです。
中西:こちらこそ、今後もいろいろとご意見をお聞かせください。
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