「2030年の新たなライフスタイルの可能性」を提案するKDDI総合研究所が、ヘルスケア領域で協業を開始。

疾病管理プログラム「Mystar」が導く新しい健康づくりとは?

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KDDIグループのシンクタンク・株式会社KDDI総合研究所(以下、KDDI総合研究所)は「2030年に実現したい社会像」として「多様性がありながら、最適化・効率化された暮らしやすい社会の提案・実現」を進めています。

そのひとつが、ヘルスケア領域での新たなライフスタイルの提案です。病院外でも病院内と同じようにモニタ・ケアされている新たな体験を、お客さまに提供したいと考えています。

こうした体験を実現するために、KDDI総合研究所およびKDDI株式会社(以下、KDDI)は、株式会社PREVENT(プリベント)と協業し、ヘルスケア関連事業を推進することになりました。PREVENT社は日本でも珍しい疾病管理プログラム「Mystar(マイスター)」をスマートフォンアプリで提供しています。そんなPREVENT社との協業により目指す未来について、詳しくご紹介します。

株式会社PREVENT / PREVENT inc.
名古屋大学医学部発デジタルヘルススタートアップ。
『一病息災』をキーワードに慢性疾患を抱える方へ、名古屋大学での脳梗塞再発予防研究にもとづいた健康づくり支援プログラムを提供。ITを活用したそのプログラムは、時間や場所に拘束されずに利用が可能であり、現在約100の健康保険組合に導入されている。
​​経済産業省主催ジャパンヘルスケアビジネスコンテスト2018優秀賞受賞。

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2030年という将来の社会像を想定した際必須になるのが増大する医療費の適正化

少子高齢化により
恵まれた日本の公的保険制度にも影響が

未来の社会を見据え、調査分析から研究開発、実用化までを一貫して行うKDDI総合研究所。情報通信の技術をベースに人々の暮らしを豊かにし、ワクワクさせる技術の研究開発を行っています。

なかでもフューチャーデザイン部門は2030年の社会像を想定し、多様性がありながら、最適化・効率化された暮らしやすい新たなライフスタイルの提案を推進。その「新しいライフスタイル」を実現する手段の1つとして選んだのが、ヘルスケア事業です。

日本には恵まれた公的保険制度が存在しますが、昨今の少子高齢化により財政基盤にも影響が出つつあり、特に生活習慣病の医療費適正化が社会課題となっています。そこでKDDI総合研究所では、生活習慣病を見つめ、テクノロジーを活用し効率的に重症化を予防できるライフスタイルの実現のためにPREVENT社とパートナーシップを結びました。

PREVENT社は「一病息災」のスローガンのもと、生活習慣病の重症化予防支援サービス「Mystar」を提供。2018年からはスマートフォン向けのアプリケーションもリリースし、疾病管理プログラム(Disease Management Programs=DMP)事業のトップランナーとして躍進を続けています。

今回は、KDDI総合研究所の目指すライフスタイル変革と理念が一致しアライアンスに至った、PREVENT社の代表取締役・萩原悠太氏と、医療サービス部門メンター・石田慎平氏に、同社の沿革、並びに「Mystar」の内容と今回のパートナーシップについてお話を伺いました。

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名古屋大学医学部発のベンチャー・株式会社PREVENT
研究成果を社会に実装するべく、会社を設立

心筋梗塞・狭心症の再発予防に必要な心臓リハビリテーションを
忙しくて病院に通えない患者さんにも提供したい

萩原悠太(はぎわら・ゆうた)
2013年に名古屋大学大学院医学系研究科を修了。大学院では「オンライン心臓リハビリテーションの構築」をテーマに研究。その後、医学研究所北野病院にて理学療法士として臨床業務に従事。医療現場では解決できない予防医療領域の重要性を痛感し、名古屋大学へ復帰後、2016年に(株)PREVENTを設立。

 

——代表取締役の萩原悠太さんにお伺いします。御社の概要について教えてください。

萩原悠太(以下、萩原):株式会社PREVENTは2016年に設立した、名古屋大学医学部発のベンチャーです。アカデミックな医療専門知識やテクノロジーを活用し、今までにない新しい「健康づくり」の最適解を追求することをビジョンとしています。

——萩原さんご自身も、名古屋大学をご卒業されていますね。

萩原:はい。2013年に同大学大学院医学系研究科を修了しています。ここでの私の修士研究のテーマが「オンラインの心臓リハビリテーションの構築」で、その研究成果をもとに疾病管理プログラムを作り始めました。こちらが、あとでご説明する弊社のサービス「Mystar」の元になっています。

——どのような研究でしたか。

萩原:そもそも心筋梗塞や狭心症などの疾病を持っている方は、再発予防のために心臓リハビリテーションを行います。これは運動や食事、自宅での過ごし方などを指導するのですが、病院に通わないとできないプログラムでした。

——それをオンラインでやろうとされていたんですね。

萩原:はい。たとえば心筋梗塞1つとっても、40代、50代と現役世代の方がかかることも少なくありません。しかし、仕事で忙しく病院に通うことが難しいのが現実です。そこで、脈拍測定ができる端末を貸し出してデータをインターネットで送信してもらうことで、病院に通わなくてもその結果をモニタリングして遠隔指導ができるのではないかと考え、研究を行っていました。

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理学療法士として働き、その再発率の高さに落胆
退院後の生活習慣管理の必要性を実感した

——その研究結果をもとに生まれたのが「Mystar」ですね。

▲病院に通わなくても医療のプロが疾病管理をサポートできるサービスを社会に実装していこうという思いが、強くなりました

萩原:順番にお話すると、「Mystar」の前に「アイプリベント」という疾病管理プログラムを作成しました。PREVENT社自体は大学院卒業から3年後に設立した会社ですが、それ以前に名古屋大学医学部保健学科の教授陣を中心にNPO法人を立ち上げています。そのNPO法人に私自身も参加し、「アイプリベント」を作成し、サービスとして広めていこうとしたのが始まりです。

ただ、「アイプリベント」はいろいろ不備があるプログラムでして(笑)、このモバイル時代にパソコンがないと使えませんでした。

——「Mystar」のようにスマートフォンアプリではなかったのでしょうか。

萩原:はい。さらに、ユーザー様と医療専門職とのコミュニケーションもWebサービスの中だけで行えず、メールのやり取りが必要でした。そこで、スマートフォンで使え、より良い機能を盛り込み、新しくブランディングしたものが「Mystar」です。

——大学院での研究が元になっているそうですが、これをサービスとして提供しようとされたのは、どういった理由からでしょうか。

萩原:卒業後に一度、理学療法士として働いた経験が大きいですね。

——まさに心筋梗塞などになった患者様のリハビリテーションをお手伝いするお仕事ですね。

萩原:はい。患者様と二人三脚でリハビリに取り組み、体調が改善して退院されるときには手を取り合って涙したものです。

しかし、そのうちの決して少なくない方々が再発し、しかも重症化して病院に戻られるケースが跡を絶ちませんでした。「あんなに頑張っていただいたのに」という悔しさとともに、退院後の生活習慣の管理の必要性を痛感しました。そこで、病院に通わなくても医療のプロが疾病管理をサポートできるサービスを社会に実装していこうという思いがより強くなりました。

——もし、臨床経験がなかったらどうされていたのでしょう。

萩原:私はもともとアカデミアに行きたかったので、PREVENT社も「Mystar」も生まれていないかもしれません。でも、2年ほど臨床に携わったことで大きく考えが変わりました。いくら論文を書いたところで、患者様の苦しみを直接取り除けるわけではありません。ならば私はそれを社会に実装していこうと考え、現在に至ります。

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データドリブンな疾病管理プログラム
「Mystar」がユーザー様と社会にもたらす利益とは

「Mystar」は健康保険組合加入者様で
脳梗塞、心筋梗塞・狭心症、高血圧症、脂質異常症、糖尿病の患者様が対象

——萩原さん、ありがとうございました。では今度はその「Mystar」について、医療サービス部門メンターの石田慎平さんにおうかがいします。

石田慎平(いしだ・しんぺい)
2013年に名古屋大学大学院医学系研究科を修了。大学院では「軽症脳梗塞患者における睡眠時無呼吸症候群と血圧動態」を研究。2018年まで誠馨会新東京病院にて理学療法士として臨床業務に従事。医療現場では解決できない予防医療領域の重要性を痛感し、2018年株式会社PREVENTへ入社。医療サービス部門リーダーを担当。

 

石田慎平(以下、石田):先ほど萩原からもお話させていただきましたように、「Mystar」は疾病管理プログラムを提供するスマートフォンアプリです。

——どのような方を対象とされていますか。

石田:保健事業を提供する健康保険組合様が対象ですので、ユーザー様はこの企業の保険組合の加入者様となります。また、疾病管理プログラムという性質上もあり、現在は脳梗塞、心筋梗塞・狭心症、高血圧症、脂質異常症、糖尿病のいずれかの病気で通院中の方向けにサービスを提供しています。

——具体的なサービス内容についてお聞かせください。

石田:まず、弊社からユーザー様に腕時計型のウエアラブルデバイスと、お小水から、前日に摂取した塩分を測る減塩モニタを支給します。そのほか、血圧計と体重計はご自身で用意いただいたものを使用して、歩数や脈拍、血圧、体重、塩分といったライフログをアプリケーションに蓄積します。さらに、食事の写真も撮影していただくことで、画像を元にこちらで栄養解析も実施します。

ユーザー様には担当の医療従事者がつきますので、2週間に1度、このデータを元にお電話での面談を実施します。内容は、生活習慣について目標の設定と、その達成ができたかどうかのフィードバック。これを計12回行う6カ月間のプログラムになります。

▲撮影した食事の写真画像を元に、栄養解析も実施

——対象者は通院中の方ということですが、普段の医療行為と重なるようなことはありませんでしょうか。

石田:はい。弊社で提供するサービスは医療介入ではなく、生活習慣改善の支援ですので問題はありません。ただし、かかりつけのお医者様のご理解があるからこそ安全に実施できるプログラムだと考えていますので、サービスを提供するにあたっては、ユーザー様にはかかりつけのお医者様から承諾書をいただくことを前提としています。

——では、医療行為はこれまでどおり受けながら、平行してPREVENTさんのサービスを利用するという形になるのですね。

石田:そのとおりです。「Mystar」で収集したライフログは、ユーザー様を介してかかりつけのお医者様に経過レポートとして共有させて頂いております。月に1回の診察では見えてこなかった患者様のリアルな生活習慣をお医者様にも共有していただくことで、より効率的な治療に繋げられることを期待しています。

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言葉では伝えにくい生活習慣を徹底的に数値化
蓄積したデータから改善案が見えてくる

——そもそも疾病管理プログラムは、病気を患っている患者様にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。

石田:先ほど萩原からもご説明させていただいたとおり、心筋梗塞や脳梗塞などは治療に成功しても再発・重症化することが少なくない病気です。

たとえば、脳梗塞と聞くと非常に深刻な病というイメージがありますが、実は日本ではその7割が軽症です。入院期間も10日から2週間ぐらいという方が多いのですが、一方で3年の間に再発する確率は34.3%。実に3人に1人が再発し、しかも重症化しているケースが多いのです。

そこで私達が在籍していた名古屋大学大学院の研究室で研究をしたところ、歩く量を増やしたり、塩の摂取量を減らすことで、再発率を2.8%にまで下げることができました。

この研究結果を社会還元しようという理念が弊社の設立にもつながっています。

——再発予防に生活習慣がそこまで深く関わっているのですね。では、もともと病院に通わないと行えなかった疾病管理プログラムを、スマホアプリでどのように代替されたのでしょうか。

石田:弊社が徹底的にこだわったのが、なかなか相手に伝えにくい個人個人の生活習慣を客観的な数値に置き換えることです。

たとえば特定保健指導などで「どれぐらい運動していますか?」と聞かれても、だいたいの方が「全然できていません」とお答えになると思います。しかし、都心の方の場合は地方の方に比べて、結構体を動かしているのです。

電車で移動することが多いので、最寄り駅までの道のりや乗り換えなどで歩く機会が少なくないためです。

でも、「運動習慣があるか」という質問ですと「ないです」となってしまいます。そこで弊社では、ウエアラブルデバイスをお渡しすることで日々の歩数や脈拍を計測し、本当の「運動状況」を評価するようにしています。

▲ウエアラブルデバイスで日々の歩数や脈拍を計測し、本当の「運動状況」を評価

——日常生活での身体活動をデータとして収集されるわけですね。食事についてはいかがでしょう。

石田:これも「塩分を控えましょう」といった指導を受けると思うのですが、そもそも自分がどれぐらい塩分をとっているか把握している人は少ないと思います。

そこで、弊社では塩分モニタをお渡しして、起床後のお小水で塩分を測っていただいています。この機械を使うと、前日24時間の間に摂取した塩分量のおよそ10分の1が検出されますので、そこから前日の塩分摂取量が推測できます。

——尿検査というと、タンパクや尿糖を測るイメージですが、塩分も計測できるのでしょうか。

石田:はい。本来であれば朝起きてから丸1日分のお小水を溜めて計測する「24時間蓄尿」が理想ですが、それでは入院が必要になりますので、「Mystar」では睡眠中に溜まった尿を朝一番に計測する方法を採用しています。精度は少々下がりますが、この塩分濃度計は日本の高血圧治療ガイドラインにも記載されお医者様からのコンセンサスも一定以上得られていますので、自分の塩分摂取量を推し量るには十分だと考えています。

——そこに日々の食事の写真を撮りためていくことで、食習慣と塩分量の推移を把握するわけですね。

石田:はい。2週間に1度のお電話で、これらのデータをもとに「あなたはこういうときにお塩の量が増えやすいですね」とお話させていただきます。ただ一方的に「塩分を控えましょう」と言われるより、客観的な数値を見ながらお話をさせていただきますので具体的な改善案がご提示しやすいところが特徴です。

——栄養指導は厳しいのでしょうか。

石田:そうでもありません。よく1日の塩分摂取量は6グラム以下と言われていますが、これだと本当に病院食みたいになります。食事は暮らしにおける大きな楽しみの1つですので、それをガチガチに管理してしまうと悲しいですし、長続きもしません。そこで、「あなたの場合はお昼のお味噌汁をやめられると、目標値を達成できますよ」「調味料の使い方で10グラムを切れそうですよ」と実現性が高くわかりやすいお声がけをするよう心がけています。

「指導」というと頭ごなしなイメージを抱いてしまいますが、弊社ではそのようなつもりでユーザー様とお話はしておりません。

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専門性の高い医療従事者による的確なアドバイス
10年間服用していた降圧剤から卒業できたユーザー様も

——そうすると、「Mystar」の最初の目標設定は、ユーザー様の健康状態を客観的な数値として提供することで、本人の気づきを得ることだという認識でよろしいでしょうか。

▲弊社は現在40名ほどの小さな会社ですが、それぞれが専門性の高いスキルを持っています

石田:いえ、一言で病気を患われている方といっても、生活習慣の改善にまったく興味がない方から積極的に行動されている方までさまざまです。さらに、血圧だけが高い場合やコレステロールだけが高い場合、もしくは複合型など症状も人それぞれですので、画一的に「気付きを与える」というよりは個々のユーザー様の状態を正しく評価し、グレーディング*することに重きをおいています。

*グレーディング:ユーザーのデータを収集・分析し、生活習慣の改善支援をより効率的に行うこと

——どのように対応されていますか。

石田:ここは弊社としても自信があるところです。弊社は現在40名ほどの小さな会社ですが、それぞれが専門性の高いスキルを持っています。ユーザー様を担当する医療従事者は、心疾患を持つ患者様の心臓リハビリにおいてリーダー的存在となる心臓リハビリテーション指導士や糖尿病の療養指導士などのスペシャリストたちですので、仮にどなたかが高血圧だとしたら、それに関連する項目を1つひとつ評価していっています。

——たとえばどのように行なっているのでしょうか。

石田:社内では「タコ足図」と呼んでいるのですが、たとえば「高血圧」という症状を1つとっても、そこにつながる様々な要因がまさにタコ足のように付随しているのです。その中の1つにカリウムの摂取量があります。高コレステロール血症や高血糖とは異なり、高血圧の方の場合は食事に含まれるカリウムが多いほうが、塩分の排出がうまくいくためです。そこで、高血圧の方の生活習慣改善を支援する際には、このカリウムの摂取量も重視しています。

一方高血糖が一番の問題であるユーザー様であれば、カリウムよりも先に確かめるべき評価項目があるわけです。こうした評価を医療従事者がしっかり行える体制を整えています。

——ユーザー様のデータを収集するだけでなく、それを正しく活用し、生活習慣の改善支援をより効率的に行うヒューマンリソースもあるということですね。サービスを開始してから、実際に手応えは感じていますか?

石田:はい。いまの血圧の話でいいますと、10年間降圧剤を服用し「この薬をずっと飲み続けるだろう」と思われていたあるユーザー様から、弊社のプログラムによってしっかり体重が減り減塩も成功したため、お薬が必要なくなったというお声をいただきました。

こちらも繰り返しになりますが、弊社からユーザー様のかかりつけのお医者様へ経過レポートもお渡しいたしますので、お医者様としても治療にお役立ていただけると考えています。1カ月や2カ月に1回の診察ですと、仮にその時数値が安定していても、それが本当に改善した結果なのか、たまたま今日は数値が良かっただけなのかという判断が非常に難しいのが現状です。

弊社のサービスで蓄積したライフログがあれば、より効率的な治療に切り替えるための判断材料の1つになると考えています。

——ユーザー様の健康状態が向上することによって、御社が契約している健康保険組合様にとっても医療費削減につながるということでしょうか。

石田:医療費を削減するというよりは、適正化を目指しています。日本は国民皆保険制度ですが、この制度自体は素晴らしいものだと考えています。この制度が我々の子供、孫の世代まで存続できるように、必要なところに必要な医療費が使われるようにしていくことを目指しています。疾病管理がうまくできれば、入院をしなくて済む、手術をしなくて済むということになります。

いま弊社とご契約いただいている1万2000名規模の健康保険組合様を例にすると、医療を使った方を上位からランキングした場合、上位5%ぐらいの方で年間の医療費の半分ぐらいを使っているという状況です。

日本全体を見ても構造は同じで、やはり上位20%の方が医療費の約8割を使っています。

疾病管理を支援することで再発や重症化を防げれば、医療費の適正化につながります。結果、国民皆保険制度を継続していけるお手伝いができればというのが我々の目標であり、そのためにリリースしたのが「Mystar」です。日本では疾病管理プログラムがまだまだ普及していませんので、しっかりと結果を残していきたいところです。

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医療費の適正化によって国民皆保険制度を守りたい
日本における疾病管理プログラムのパイオニアを目指して

公的保険・民間の生命保険ともに40兆円市場の日本
疾病管理プログラムの必要性を広めたい

——石田さん、ありがとうございました。疾病管理プログラム自体が日本でまだまだ珍しい存在ということですが、海外の事例や想定される市場規模について、再び萩原さんにお聞きしたいと思います。

▲データドリブンな疾病管理プログラムを提供できることが弊社の強みだと考えます

萩原:市場規模からお話いたしますと、いま石田からもありましたとおり、日本は国民皆保険制度という素晴らしい制度があります。この公的保険による医療費が40兆円超です。一方、民間の生命保険の市場規模も約40兆円となっており、国民皆保険制度のないアメリカに次いで世界2位となっています。公・民ともにこれだけ大きな市場があるのは日本特有の文化といえるでしょう。

——非常に大きな市場ですね。

萩原:はい。ただ、実際にビジネスをしていくにあたっては、まだまだ市場は少ないというのが正直なところです。直近ではデータヘルス市場(医療保険者が分析を行った上で行う、加入者の健康状態に即した効果的・効率的な保健事業)が主戦場になると思いますが、こちらの市場規模は2000億円超。この市場には人間ドックなども含まれており、ここで「国民の社会保障を守っていくために疾病管理プログラムに投資をしたほうが良い」という文化を醸成できるかどうかが、私達のチャレンジだと思っています。

——ではその市場での立ち位置について、競合はありますでしょうか。

萩原:疾病管理プログラムを提供している企業は、国内では片手で数える程度です。しかもメールや対面で指導をするなどアナログが主流ですので、データドリブンな疾病管理プログラムを提供できることが弊社の強みだと考えます。

——では、海外の動向を踏まえているところはありますか。

萩原:アメリカ、ドイツ、フランスなど世界各国では既往者向けの疾病管理プログラムが充実しています。とくにアメリカのLivongo(リボンゴ)というプログラムでは、ユーザーの生活習慣や病態、さらに指導者の情報をいかに収集できるかにこだわっており、弊社としてもそこに注力しています。

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病気とうまく付き合いながら今後の人生をよりよいものに
「一病息災」のスローガンが目指すもの

——生活習慣の改善にはそれなりに時間が必要です。今回アライアンスしたKDDI総合研究所は2030年の新たなライフスタイルを提案・実現する取り組みを進めていますがが、PREVENT社はどのようなロードマップを作成していますか。

萩原:アウトカムでいうと、半年ほどで見られるものと、2〜3年かかるものがあると考えています。たとえば血圧やコレステロール、血糖値の数値や体重といった「リスク因子」の評価が生活習慣の改善によってどれだけ変化するかは、サポート期間である半年間でしっかり見ていきます。

一方、ユーザー様がこのプログラムを活用したことで実際に疾病発症リスクを下げられたかどうかや、医療費が当初予測されていた額より少なく済んだかどうかがわかるまでには、やはり数年が必要でしょう。

そして、弊社の事業がこの10年、20年でどういったポジションを獲得していくかというと、やはりコストセービングです。いかにして社会保障を守るサービスを作っていけるかが肝です。この事業を通して社会課題を解決できているような状態が、1つのゴールだと捉えています。

——では、御社が掲げる「一病息災」というスローガンの示すものとはなんでしょうか。

萩原:これは我々がいちばん大切にしているビジョンです。本来なら「無病息災」。病気にならないで長生きすることが理想とされていますが、では、病気になったらゲームオーバーかというと、決してそんなことはないと我々は考えています。

病気になったことで、初めて健康のありがたさに気づくこともあると思いますし、そのような時にその後の人生を、病気とうまく付き合いながらより良いものに変えていくようなサービスをご提供したいという思いで「一病息災」を掲げています。

  ◇

いずれはすべての人に疾病管理プログラムの提供を
慢性疾患全般にも裾野を広げて行きたい

▲今後はテクノロジーの力を借りてより効率化していきたいと思っています。そういった点で、KDDI総合研究所とはパートナーとして一緒にプログラムを提供していけたらと考えます

——ありがとうございます。では、今回KDDI総合研究所とはどのような形でパートナーシップを結ばれたのかお聞かせいただけますか。

萩原:我々のサービスというのは、すごく良く言えば人の手をかけているハンズオンなものです。しかし、今後はテクノロジーの力を借りてより効率化していきたいと思っています。そういった点で、KDDI総合研究所とはパートナーとして一緒にプログラムを提供していけたらと考えます。

また、現在弊社のサービスは健康保険組合事業者様向け、つまり「toB」ですが、将来的にはコンシューマ向け(toC)に拡大できればとも思っています。そのためにはどれだけチャネルやタッチポイントを増やせるかが重要です。

——様々な企業がある中で、KDDI総合研究所、KDDIと協業しようと思われた最大の要因はなんでしょう。

萩原:いくつかありますが、1つはサービスを提供する対象者を増やしたい、つまり先ほど申し上げた「toC」を目指すにあたって、コンシューマにダイレクトにサービスを届けられる企業は限られていると考えています。その中で、通信インフラを持っていらっしゃるKDDIであればauのスマートフォンをご利用されている方にこのサービスを届けることも、将来的には可能かと思っています。

また、テクノロジーの力でよりよいものを効率的に作っていく、というところに関してはぜひKDDIグループのお力をお借りしたいです。弊社の取り組みにもリスペクトを持って相対していただいおり、一緒にこれからの景色を見て行けることを楽しみにしています。

——では最後に、その他の御社の展望についてお聞かせください。

萩原:健康保険組合加入者様に関わらず、より多くの方にサービスを提供していきたいというのが今後の目標の1つになります。また、現在は5つの疾病を対象にしていますが、慢性疾患と呼ばれるものはそれだけではありません。慢性呼吸不全や精神科領域でも慢性疾患は数多くありますので、そういった疾病についてもこのプログラムが活用できるようになればと考えています。

——ありがとうございました。

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KDDI総合研究所が持つデータや技術で
より多くの方の健康づくり、社会課題解消を目指す

生活者の行動データ解析を行なってきた経験と知見を
​「Mystar」に役立てユーザー様の満足度を高めたい

KDDI総合研究所では、これまで生活者の行動データの解析を行なってきた経験と豊富な知見があります。また、データ解析を実施する優秀なデータサイエンティストも多数有しており、このようなデジタル・データの力をPREVENT社のサービスと連携することで、お客様へ新たな体験価値のご提供ができると考えています。今回のアライアンスによって、「Mystar」のユーザー様が今以上にサービスの良さを感じられるように、KDDI総合研究所は見えないところでサポートをしてまいります。

KDDIグループのアセットであるビッグデータやデータ分析技術によって、より多くの方の健康づくり、さらには日本の社会課題解消に貢献できると確信しています。

 

(了)