3.海外の動向

◆米国モバイル市場の動向:無線ブロードバンド用周波数の割り当て、5Gに向けた動き

 米国では、ブロードバンド回線数の約半数を無線ブロードバンドが占めており、今後も普及のけん引役として期待されている。また、スマートフォンのさらなる普及やモバイル端末でのビデオ視聴の増加に伴い、モバイルデータトラフィックが引き続き増加すると予想されることから、無線ブロードバンド用周波数の確保が、政策決定者、事業者のいずれにとっても重要な課題となっている。
 2015年4月、米連邦通信委員会(FCC)は、2年以上にわたる検討の結果、米国防総省や固定衛星サービスが利用する3.5GHz帯(3550-3700MHz)に新たな周波数共用モデルを導入し、無線ブロードバンドにも開放することを決定した。このモデルは、データベースによる管理の下、軍のレーダー、モバイルサービス、Wi-Fiなど3タイプのユーザーが動的に周波数を共用するもので、世界でも例をみない試みとなっている。Verizon Wireless(Verizon)やT-Mobile USは、3.5GHz帯のうちの免許不要部分を利用し、アンライセンスLTEを展開することを計画している。Wi-Fi陣営は、アンライセンスLTEがWi-Fiに与える影響を懸念していることから、標準化団体を中心に調整が行われている。
 2016年3月末には放送周波数(600MHz帯)を対象としたインセンティブオークション(注)が開始され、これにより100MHz程度の周波数が新たにモバイル用に追加される見通し。これまでに大手モバイル事業者のVerizon Wireless、AT&T、T-Mobile USのほか、ケーブル事業者のComcastや衛星放送事業者のDish Networkなどがオークションに入札する意向を明らかにしており、モバイル市場に新たなプレイヤーが参入する可能性も浮上している。
 さらにFCCは、24GHz帯以上の高帯域周波数を第5世代(5G)移動通信システムなどのモバイルサービスで利用するための検討を進めている。対象とされているのは28GHz、39GHz、37GHz、64-71GHzの4つの周波数帯で、FCCのTom Wheeler委員長は、2016年夏までにルール整備を終える考えを示している。
 モバイル事業者の側でも5Gに向けた動きが活発化している。Verizonは、2015年9月に5G技術のロードマップを発表。Ericsson、Qualcomm、Samsungなどのパートナー各社とともに、2016年中に5Gのフィールドトライアルを実施し、早ければ2017年にも、米国内で最初の商用化サービス開始を目指すとしている。2016年2月には、AT&TとT-Mobile USも、5Gのトライアル計画やパートナーとなるベンダーなどを相次いで発表した。

(注) 周波数を返還した免許人(この場合は放送事業者)にオークション収入の一部を還元する方式

 

◆米国の映像市場の動向

 米国では、地上波に加え、ケーブルテレビや衛星放送等の有料テレビ放送が広く普及している。FCCによると、全テレビ所有世帯数の約9割にあたる約1億世帯が有料テレビと契約している。
 2014年頃から、有料テレビ放送事業者の間で買収・再編の動きが活発化している。2014年2月には、ケーブルテレビ最大手のComcastは、同2位のTime Warner Cableを買収することで合意したが、規制当局の承認が得られず、2015年4月に買収を断念することとなった。2015年7月、AT&Tは衛星放送大手のDirecTVを買収した。続いて、欧州の通信事業者Alticeが米国に初進出し、2015年12月、ケーブルテレビ7位のSuddenlinkの買収を完了、ケーブルテレビ5位のCablevisionの買収については、2016年5月現在、FCCの承認を得、ニューヨーク州規制当局が審査している。同様に、ケーブルテレビ3位のCharterによる同2位のTime Warner Cableおよび同6位のBright House買収については、2016年5月に規制当局の承認を経て合併を完了している。
 2008〜09年頃から、自らの放送・回線設備を持たず、ブロードバンド回線経由で映像のストリーミングを提供するOTT(Over-the-Top)事業者が登場した。月額10ドル程度の料金で、テレビやPC、モバイル端末で視聴可能なことから、多数のチャンネルをパッケージで提供するなど、料金が割高なケーブルテレビなどの有料テレビ放送の契約を解約して、OTTに移行する「コード・カット」と呼ばれる動きもみられる。代表的な事業者はNetflix、Hulu、Amazonなどである。
 特に、Netflixは、格安な料金設定だけではなく、オリジナルコンテンツの制作にも注力し、世界130カ国への海外展開を進めており、2015年末現在、米国内で約4,300万人、全世界で約7,500万人と国内外で最大の契約者数を誇る。
 有料テレビ放送事業者はOTT事業者に対抗すべく、自らも低価格(あるいは無料)でチャンネル数の少ないパッケージを、オンライン上で配信するサービスを次々開始している。Comcastは「Stream」を、衛星放送2位のDishは「Sling-TV」を開始した。通信事業者も映像のストリーミングサービスを提供する動きがあり、Verizonは若者層をターゲットとして、モバイル端末向けの広告付き無料オンライン動画配信サービスである「Go90」を2015年10月に開始した。また、AT&Tも2016年中にOTTサービスを開始すると宣言している。

 

◆欧州の個人情報保護の動向:新規則案、セーフハーバー協定無効判決

 2015年3月、欧州議会において「データ保護規則案(Regulation of the European Parliament and of the Council on the protection of individuals with 30regard to the processing of personal data and on the free movement of such data)」が賛成多数で可決された。その後、2015年6月に同規則案が欧州連合理事会で合意に達した。さらに、2015年12月、欧州議会と欧州委員会の間で、同規則案に関する合意がなされた。
 合意項目としては、市民の基本的な権利として、

  • 自身のデータへのより簡単なアクセス
  • データポータビリティーの権利
  • 明確にされた“忘れられる権利”

 データがハッキングされた時の知る権利加えて、ビジネスにおける明確で現代的なルールとして、

  • 一大陸一法
  • ワンストップショップ
  • 欧州における欧州ルールの適用の厳格化
  • リスクベース・アプローチ

等の原則の導入が明言されている。

 今後、2016年の早い段階に、欧州議会と欧州理事会によって、規則案が正式に採択され、2018年度中に全面施行される見通しである。また、欧州委員会・欧州議会・EU閣僚理事会における政治合意として、データ保護規則に違反した場合に最大で「前年度売上の4%」に相当する課徴金が課されることが明らかにされている。
 他方で、EUはパーソナルデータ保護水準についての十分性の認定を行っており、十分性の認定を得ていないEU域外の第三国へのパーソナルデータ移転を原則的に禁止している。日本はこの十分性の認定を得ておらず、現在のところ得られる見込みもないとされている。
 一方、米国は十分性の認定に代わるセーフハーバー合意(Safe Harbour Agreement)が策定されており、これに従う企業が行うEUからアメリカへのパーソナルデータ移転を適切な保護のもと行っていると見なされていた。ところが、2015年10月、欧州司法裁判所は、セーフハーバーの枠組みについて、欧州市民の人権保護に関して問題があるとして、無効とする判決を下し、データ保護指令29条に定めのある、いわゆる「29条作業部会」は2016年1月末までに適切な措置が取られない場合は、強硬措置をとるとしていた。これに対し、2016年2月、EUと米国は、越境データのための新たなフレームワークである"EU-US Privacy Shield"について合意したと発表した。しかしながら、フレームワークの詳細についてはいまだ明らかになっていない。

 

◆英国通信競争政策の戦略レビュー

 2015年3月、英国の規制機関Ofcomは、デジタル通信市場の戦略レビュー(Strategic Review of Digital Communications)を開始することを公表した。英国通信市場の包括的レビューは2003年以来のことで、前回のレビューの結果、BTのアクセス部門Openreachが機能分離されたことは、世界各国のインカンバント事業者(独占的通信事業者)に対する規制の在り方に大きな影響を与えた。
 今回のレビューにおいては、①投資とイノベーション、②持続可能な競争の確保、③消費者とビジネスの地位強化、④必要な分野に的を絞った規制と規制緩和が重要項目として掲げられた。
 2016年2月、Ofcomは第一次結論を公表。競争事業者が強く要望したBTのアクセス部門の構造分離は選択肢として残したものの見送られ、予算や投資計画等でのBTからの独立性の確保等、Openreachを改革し、機能分離を強化する内容となった。Openreachのサービス品質確保のための最低基準厳格化や、Openreachの電柱・管路の開放の義務付け、政府のブロードバンドのユニバーサルサービス化の取り組みへの協力等も併せてうたわれている。
 Ofcomは第一次結論の実現に向けて、定期的に実施している各種レビュー等への盛り込みや、政府・事業者・消費者団体等との連携を通じて、今後数年間で順次進めるとしている。

 

◆世界無線通信会議(WRC-15)の開催

 国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)が開催する世界無線通信会議(WRC:World Radiocommunication Conference)は、各周波数帯の利用方法、衛星軌道の利用方法、無線局の運用に関する各種規定、技術標準など、国際的な電波秩序を定めた無線通信規則(RR:Radio Regulations)の改正を行うための会議で、通常3〜4年ごとに開催される。
 WRC-15は、2015年11月2日から27日までの間、スイス・ジュネーブで開催され、162カ国から約3,800名が参加し、国際的な周波数分配について議論が行われた。
 第4世代(4G)移動通信などのIMT(International Mobile Telecommunications)用周波数として、わが国が提案した帯域のうち、1.5GHz帯(1427-1518MHz)がグローバルバンドとして追加された。
 2020年の実用化を目指す第5世代(5G)移動通信に割り当てる周波数については、2019年に開催予定のWRC-19で具体的な検討を行うことが合意され、検討対象の周波数帯として、24.25-27.5GHz、31.8-33.4GHz、37-40.5GHz、40.5-42.5GHz、42.5-43.5GHz、45.5-47GHz、47-47.2GHz、47.2-50.2GHz、50.4-52.6GHz、66-76GHz、81-86GHzが選定された。
 自動車関連では、自動運転の実用化を加速する79GHz帯レーダーへの周波数分配(77.5-78GHz)が合意されたほか、WRC-19の新議題の1つとして、移動業務に分配済みの周波数帯において、高度道路交通システム(ITS)推進のための調和のとれた周波数利用について検討を行うことが合意された。