3.海外の動向

◆米トランプ政権の情報通信政策

 2016年11月の米国大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ氏が勝利し、2017年1月20日、第45代大統領に就任した。大統領選と同時に開催された連邦議会選挙の結果、共和党が上院、下院の両方で多数派を占めることとなった。概して共和党政権は、大型合併を許容する方針をとってきたことから、通信業界再編の動きが活発化すると予想されている。ただし、AT&TによるTime Warner買収(2016年10月合意)については、トランプ大統領が選挙期間中より反対を表明しており、連邦議会でも通信・メディア大手の統合を懸念する声が上がっていることから、司法省による審査の行方が注目される。
 トランプ政権は、サイバーセキュリティを最優先課題の一つに掲げている。2017年3月16日に発表された2018会計年度予算案では、連邦ネットワーク、重要インフラをサイバー攻撃から守るため、国土安全保障省に15億ドルの予算を割り当てることを提案している。また、2017年5月11日には、サイバーセキュリティに関する大統領令を発表した。2017年1月23日、連邦通信委員会(FCC)の新委員長に共和党のアジト・パイ委員が就任した。パイ委員長は、デジタルデバイドの解消を重要課題と位置づけ、ブロードバンドの全米展開を促進するための諮問委員会の創設、ユニバーサルサービス基金による補助の早期支給などの施策を相次いで発表。トランプ大統領が選挙公約で掲げた巨額のインフラ投資策を支持するとし、連邦議会が関連法案を作成する際には、ブロードバンドへの投資も含めるべきと主張している。
​ 2017年5月18日、FCCは、パイ委員長がかねて表明していたとおり、オバマ政権下で制定された2015年ネット中立性規則の見直しを提案し、関係者の意見募集を開始することを決定した。提案には、ブロードバンドサービスを「情報サービス」に再分類して軽微な規制に戻すこと、曖昧で広範囲な「一般的な行動ルール」を撤廃することなどが含まれている。さらにFCCは、オープンインターネットを脅かす3つの行為の禁止、すなわちブロックの禁止、速度制限の禁止、有償の優先取り扱いの禁止を維持あるいは廃止すべきかについてもコメントを求めている。

 

◆米国の映像・ブロードバンド市場の動向

 2015〜16年の米国の映像サービス市場においては、有料テレビ事業者の買収・再編が活発に行われた。2017年3月現在、加入者数ベースでは、AT&T(2015年に衛星放送事業者DirecTVを買収)、Comcast、Charter(2016年にTime WarnerCable、Bright Houseを買収)がトップ3の事業者となっている。
 これら有料テレビ事業者は、NetflixやAmazonに代表されるブロードバンド回線経由の映像ストリーミング(OTT:Over-the-Top)事業者の伸長などにより、加入者数が減少傾向にある。Comcastは、自社のセットトップボックス「X1」の機能向上や顧客サービスの改善等により、加入者数は下げ止まっている。
 有料テレビ事業者は、自らもOTTサービスを開始してOTT事業者に対抗している。衛星放送大手のDishは「Sling TV」を、Verizonはミレニアル世代をターゲットにした「go90」を展開している。AT&Tも2016年11月末から「DirecTV Now」を開始した。さらにAT&Tは、2016年10月、メディアコングロマリットのTime Warnerの買収で合意し、映像事業をさらに強化しようとしている。
 一方、米国のブロードバンド市場では、ギガビットと呼ばれる超高速サービスを巡る動きが活発化している。
 まず、Googleが2012年、上下1Gbpsの超高速ブロードバンド「Google Fiber」をカンザスシティで開始した。2017年5月現在、テキサス州オースティン、ジョージア州アトランタ、テネシー州ナッシュビル等9都市でサービスを行っている。
 これに対抗し、Comcastは、2015年から光ファイバーによる「Gigabit Pro」を展開、AT&Tも「AT&T Fiber」のブランド名でギガビット市場に参入した。光ファイバーによるギガビットサービスは、これら3社がカンザスシティ、オースティン、アトランタ等、数地域で競合している。また、ComcastやCharterは、既存のケーブルをDOCSIS3.1方式にアップグレードしたギガビットブロードバンドサービスの提供も行っている。
​ Verizonは2017年4月、ギガビット級(下り940Mbps/上り880Mbps)のブロードバンドサービス「Fios Gigabit Connection」の提供をニューヨーク州、ボストン、ワシントンDC等で開始した。

 

◆欧州情報通信政策動向(欧州デジタル単一市場、e-Privacy規則)

1.欧州デジタル単一市場
 EUは、デジタル分野のコンテンツ、サービス、事業が国境を越え、EU全域で流通・展開される環境、いわゆる「デジタル単一市場」の創設を情報通信分野における最優先の政策目標とし、2015年5月に「欧州デジタル単一市場戦略(A DigitalSingle Market Strategy for Europe)」を公表した。
 「欧州デジタル単一市場戦略」は、アクセス改善、公平な競争環境整備、デジタル経済成長の最大化の三つの柱と、それぞれに連なる16の重要アクションで構成されており、欧州委員会はすべてのアクションを2016年末までに完了させる目標を掲げた。欧州委員会は、戦略に基づき各種の取り組みに着手し、2015年12月には、消費者が購入したオンライン・コンテンツやサービスを、居住国以外のEU加盟国においても利用可能とする法案である「オンラインのコンテンツおよびサービスの国境を越えたポータビリティに関する規則」を提案した。
 同時に、国境を越えた電子商取引の促進と契約ルールの簡素化を目的とした「デジタル製品のオンライン販売に関する指令」と「商品のオンライン販売に関する指令」の2法案も欧州委員会から提案されている。提案された法案は、2017年現在、欧州議会並びに理事会において審議継続中である。
2.e-Privacy規則
 デジタル単一市場創設の政策の一環として、一般データ保護規則(GDPR)の成立に続き、2017年1月、欧州委員会は、通信分野でのプライバシー規制強化のため、従前のeプライバシー指令(e-Privacy Directive)に代わるeプライバシー規則(e-Privacy Regulation)案を公表した。これは、通信分野において、GDPRを補完するものとなる。
 eプライバシー規則は、従来は適用範囲外であったGoogle、Facebook等のインターネットを介してさまざまなサービスを展開するOTT事業者にも適用され、また、データの処理がEU内で行われているか否かを問わず、EU内での電子通信サービスの提供や利用があれば適用対象となり得る等、その適用範囲が拡張されている。
​ 電子通信サービスの事業者がEU外の事業者である場合には、所轄官庁や裁判所および利用等へ情報提供を行う代理人をEU内で指名する必要がある。また、事業者は、電子通信データの守秘義務を負い、伝送・保守等に必要な目的と必要な期間において電子通信データを処理することができる。eプライバシー規則に違反した場合は多額の罰金(最高で200万ユーロまたは全世界売上の4%のいずれか高い方)が課されることになっている。欧州委員会は、欧州議会と欧州評議会に対し、EU一般データ保護規則の施行日である2018年5月25日までの採択を確実にするよう求めている。

 

◆Ofcomによる英国BT・Openreachの法的分離

 2015年3月、英国の規制機関Ofcomは、デジタル通信市場の戦略レビュー(Strategic Review of Digital Communications)を開始することを公表した。英国通信市場の包括的レビューは2003年以来のことで、前回レビューの結果、BTのアクセス部門Openreachが機能分離されたことは、世界各国のインカンバント(支配的な)事業者に対する規制の在り方に大きな影響を与えた。
 今回のレビューにおいては、①投資とイノベーション、②持続可能な競争の確保、③消費者とビジネスの地位強化、④必要な分野に的を絞った規制と規制緩和が重要項目として掲げられた。
 2016年2月に公表された第一次結論では、Openreachについて構造分離の選択肢を残しつつも機能分離の強化にとどまった。しかし、BTがOpenreachの投資やサービス提供について、BTに有利になるような決定をしているという構造的な懸念が払拭できていないことから、Ofcomは2016年7月にBTからのOpenreachの法的分離を求める「Openreachの戦略的および運営上の独立性強化」と題する文書を公表するとともに公開諮問を行い、2016年11月にOpenreachの法的分離を実施することを決定した。
 これを受けて、2017年3月10日にOfcomは、Openreachの法的分離についてBTと合意したと発表した。合意の内容は以下のとおり。

  • 独自の定款を持ち、BTグループ内において法的に完全に分社化される
  • 過半数がBTから独立した理事で構成される新理事会を設け、Openreach運営の全責任を持つ
  • BTグループ内の全体予算の範囲で独自の戦略と年間事業計画を策定する
  • 代表理事は新理事会によって指名され、新理事会に対して責任を持つ
  • BTから移籍する32,000人の社員全員を直接雇用し、それによって独自の組織文化を形成する
  • 物理アクセスネットワークなどの資産をOpenreach単独で管理し、新理事会はそれら資産の形成・維持に関する意思決定を行う
  • 大規模な投資に関して、SkyやTalkTalk、Vodafoneといった顧客から公式に意見を聞くよう義務付けられる
  • OpenreachのブランドをBTから分離する

 Openreachの法的分離は2017年中に開始される予定であり、Ofcomは今後速やかに合意の詳細について公表するとともに、BTの新たなコミットメントが完全に実施されれば、Openreachを巡るこれまでの公約からBTを解放する提案を行うとしている。

 

◆5Gのトライアルや商用化の動き

 世界各国のモバイル事業者、特に米国・韓国のモバイル事業者が、2016年から第5世代移動通信システム(5G)のトライアルを開始し、早期の商用サービスの開始を目指した動きが加速化している。米Verizonは2015年9月に5G技術のロードマップを発表、2016年2月にはエリクソンと5Gのフィールドテストを開始した。サービスとしては、高周波数帯を使った固定無線を想定しており、数Gbpsのスループットを達成している。2017年上期には、ワシントンDC、シアトルなど米国内11都市で5Gのプレ商用サービスを開始する予定である。
 米AT&Tも2016年2月にロードマップを発表した。2016年12月にはインテルらと共同で高周波数帯の固定無線による企業用途に応じたトライアルを開始し、2017年上期には「DirecTV Now」のOTTビデオ配信を計画している。2017年下期には、標準仕様を策定している3GPP(Third Generation Partnership Project)による5Gの無線方式仕様に基づくモバイルおよび固定無線のトライアルの実施を計画している。
​ 韓国SKテレコムは、2016年9月にサムスンとモバイルの5Gのトライアルを実施しており、屋外環境で高周波数帯のハンドオーバに成功している。韓国KTは、2018年平昌オリンピックでライブ映像配信サービスを想定した5Gシステムの構築を計画している。