韓国バーチャルヒューマン最新動向

2020年夏、多くの人々がパンデミックで外出や旅行を控えている中で、インスタグラムのあるアカウントが目を引いた。韓国・漢江(ハンガン)でのピクニック、ナミビアの上空からスカイダイビング、エジプトでのスキューバダイビング、タンザニアのナングウィタイ・ビーチでの散歩など海外観光名所でのインスタ映えでフォロワーは急速に増えた。そのアカウントの彼女は22歳のROZY(図表1)。フォロワーからは可愛い、格好いいという評判に加え、その服はどこで購入したのかなどなど、関心も広がった。

しかし彼女が一層注目を浴びるようになったのはしばらく時間が経って、自分がバーチャルヒューマンであることをインスタグラムで打ち明けたことがきっかけだ。ROZYは数か月間フォロワーと関係を築くことで、自分自身のアイデンティティを確立し、韓国初のバーチャルインフルエンサーとしての立場を固めた。そのような話題性もあり、2021年夏、ROZYはある保険会社のモデルとなった。そのコマーシャルで大きな反響を呼んだROZYは同社のESG活動のためのYouTubeミュージックビデオにも参加し、パワフルなダンスの動画は1000万回以上視聴された。登場から1年以上経ったROZYは現在も22歳の変わらない姿で車、アパレル、スポーツ、コンビニエンスストアチェーンなど様々な企業・ブランドのモデル、アンバサダーとして活動領域を広げている。

バーチャルヒューマンは成長期 

ROZYのようなバーチャルヒューマンが今注目されている。バーチャルヒューマンとはコンピューター・グラフィックス(CG)で作られた仮想の人物像である。以前からもあったが、近年その頭脳となる人工知能(AI)、人間と見分けがつかないほどの高精度のCG、そして活動の場となるメタバースなどの技術の進歩によりその存在感を増している。またデジタルネイティブの若い世代との接点を作りたい企業・ブランドでは宣伝・広報・マーケティングの一環としてバーチャルヒューマンを採用するケースも増えており、韓国では消費者とバーチャルヒューマンとの距離が縮まっている。

インフルエンサー、モデル、ショッピングホスト…広がるバーチャルヒューマン

サムスン電子は2020年米国デジタル技術・製品見本市CESでバーチャルヒューマンプロジェクト「NEON」を紹介した。2021年オンラインで開催されたCESではライバルのLG電子のバーチャルヒューマン「Reah Keem(キム・レア、図表1参照)」がプレスカンファレンスにおいて流暢な英語でスピーチを行った。

サムスン、LGといった大手テック企業がバーチャルヒューマンを公開することで、それまでにない存在感を一気に高めた。さらにROZYの人気を追い風に、ゲーム、AI、ホームショッピングなど多くの企業から様々な個性を持つバーチャルヒューマンが登場し認知度を上げている。

図表1 韓国の主要バーチャルヒューマン
*インスタフォロワー数は2022年1月4日時点
出典:各インスタグラム・ホームページ

29歳のデザイン研究員の「LUCY(図表1参照)」はテレビ通販を手掛けるロッテホームショッピングにより2021年2月に登場した。LUCYは実際撮影したイメージに仮想の顔を合成した上で、肌の産毛・毛穴まで再現し、よりリアリティを出した。これまでテレビ通販の主なターゲットであった40~50代に加え、20~30代の若者を呼び込むのがLUCYを起用したロッテの狙いである。LUCYは広報モデルを経てクリスマス特需を控えた12月のロッテホームショッピングの放送にも登場した。2022年にはリアルタイムレンダリングを用いて、ショッピングホストとして顧客とのコミュニケーションにもチャレンジする。これまでバーチャルヒューマンは主に写真や映像中心だったが、インタラクティブコミュニケーションが可能になればファンミーティングやライブコマースなど活躍の場はより一層広くなる。

オンラインゲーム会社はゲームで培ってきたキャラクターやCG技術のノウハウを活かせるバーチャルヒューマンに関心が高い。「Han Yua(図表1参照)」は元々ゲームキャラクターだった。「ロストアーク」などで知られているスマイルゲートのVR恋愛アドベンチャーゲームのヒロインだった彼女は、今後演技、音楽など「デジタルセレブリティ」を目指す。

SUA(図表1参照)は国内初のリアルタイムのインタラクティブコミュニケーションができるバーチャルヒューマンとして注目を集めた。SUAはヘアシミュレーション技術を用いて髪をリアルかつ自然に動かすことでよりリアルに感じさせる。

RUI(図表1参照)は実際の人物にAI技術により生成されたバーチャル顔で作られたバーチャルヒューマンである。AIスタートアップのdob Studioにより制作されたRUIはYouTubeでシンガーソングライターとして認知度を上げ、韓国観光公社の名誉広報大使やホームショッピングなどで活躍した。以降制作会社のdob Studioに多くの企業から問い合わせが殺到し、同社は2022年1月に企業などにバーチャルヒューマンを提供する「仮想顔分譲センター」ベータ版サービスをリリースする。

一方、リアルの有名人をバーチャルヒューマン化する動きもある。ドラマ『星から来たあなた』、『太陽を抱く月』で韓流スターとなったキムスヒョンは、バーチャルヒューマンで生まれ変わる。キムのバーチャルヒューマンは年齢別で制作され、知的財産権(IP)やデジタル肖像権を活かして様々なコンテンツを展開していく。

「若者を呼び込め!」金融業界、積極採用

様々な個性を持つバーチャルヒューマンが続々登場し注目を集めるにつれ、企業・ブランドからの採用も増えている。バーチャルヒューマンはエンターテインメント・ファッション業界とのコラボレーションが多いものの、ROZYをモデルで採用した保険会社のように金融業界からの関心も高い。

NH農協銀行ではディープラーニング技術に基づいたAI銀行員を社員として採用すると発表した。このAI銀行員は自社の20~30代の社員の顔写真を合成し、長期間学習させたバーチャルヒューマンである。NH農協銀行ではAI銀行員に社員番号を発行し、新入社員研修などを経て顧客に金融商品の説明などの業務を任せる計画である。

大手KB国民銀行はバーチャルヒューマンアイドルグループ「aespa(エスパ)」と広告契約を結んだ。aespaは、リアルとバーチャルの共存というコンセプトで、東方神起、少女時代で有名なSMエンターテインメントにより、2020年結成された女性アイドルグループである。リアルの4人のメンバーに加え、各メンバーのアバターが存在する独自の世界観を持っている。KB国民銀行はZ世代のモバイルアプリ利用を促進するためにaespaを起用した。

なぜバーチャルヒューマンなのか?

リアルのインフルエンサーやモデルなどに比べてバーチャルヒューマンならではのメリットがある。

まず、バーチャルヒューマンは時間・場所など物理的制約から解放される。スケジュールに縛られるリアルの有名人とは異なり、撮影、プロモーション活動に対して企業・ブランドに合わせて柔軟に対応することができる。

また、最近注目されるのが、私生活リスクからの解放である。韓国では有名人のスキャンダルや過去の校内暴力・いじめの暴露により、その有名人をモデルとして起用した企業・ブランドが頭を悩ませるケースも少なくない。バーチャルヒューマンであればそのような私生活リスクをなくすことができる。

しかし、バーチャルヒューマンの最大のメリットはやはり新しい人物像を創り上げられることである。企業・ブランドのイメージやコンセプトに合うモデルやインフルエンサーを探すことは決して容易ではない。バーチャルヒューマンであればデータに基づきその企業やブランドのイメージ・コンセプト通りのスタイルや趣味などを持つ人物像を作り出すことができる。さらにROZYのように人気を集めると、歌手、演技などデジタルエンターテイナーとして活躍の幅も広がり、IPを活かし様々なコラボも可能になる。特に韓国ではK-popアイドルを育成しながら得られたエンターテインメント、ファンビジネスのノウハウを今後はバーチャルヒューマンを通じてバーチャル世界へ広げようとしている。パンデミックの影響で韓国の観光名所やインスタ映えはメタバースへシフトしている。K-Popアイドルの次は、K-デジタルアイドル、あるいは、K-メタバースアイドルが流行になるかもしれない。

KDDI総合研究所アナリスト 安順花

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