現代人は時間に追われているというが、子育て中の人は特に時間がないと感じることが多いだろう。ただでさえ時間が足りなくなる子育てだが、近年では共働き世帯が増えているため、より親の時間的余裕が減っているのではないだろうか[1]。内閣府(2021)「令和2年度少子化社会に関する国際意識調査報告書」によると、子育てをして負担に思うこととして、「自分の自由な時間が持てない」が46.0%となっており、半数近くの人は実際に時間がないと感じている。これは、「子育てに出費がかさむ」の55.6%に次いで2番目の高さであるとともに、「自分の自由な時間が持てない」について比較可能なフランスの23.6%、ドイツ32.8%、スウェーデン28.5%よりも高い水準となっている(図表1)。
図表1 「自分の自由な時間が持てない」割合に関する国際比較
このように、子育て世代は自由な時間がとれないと感じている。そこで、自由な時間を増やすためにも、子育てにおいても、家事や育児にかかる時間を少なくしたいところだが、この「時短」によって子育ての質が下がることをほとんどの人は望まないだろう(だからこそ時間がないわけだ)。そこで、時短に役立つとともに、質を維持する子育てサービスとして、サブスクという観点から掘り下げていきたい。
時短はしたいけど、質は下げたくない、子育て用サブスクサービス
日々の生活において、時短という点でまず注目したいのが、買い物である。子育てに関する商品であれば、自分の子どもにあったものを購入したいと思うことが多く、情報収集から実際の買い物まで時間がかかる。加えて子どもの成長が著しいときは、成長にあわせて短期的に買い替えていかなければならないものも多い。その都度、時間はかかるが、妥協はしたくないものも多いはずだ。そこで、成長にあわせて自分の子どもにあったものが届くサービスがあれば、親にとっても子どもにとっても嬉しいはずである。そのようなサービスとして、おもちゃのサブスクと絵本のサブスクを紹介したい。
おもちゃのサブスクと絵本のサブスクに共通するのは、子どもの成長やその子自身にあったものが届くサービスということである。またサービスやプランによっては届いたものが気に入らなければ交換が可能で、いろいろと試すことができる。また、おもちゃも絵本も、専門家が選ぶ方法をとっており、質へのこだわりも感じられるサービスといえるだろう。
おもちゃのサブスクである「トイサブ!」ではプランナー、「キッズ・ラボラトリー」にはおもちゃコンシェルジュという専門家がおり、親にアンケートやヒアリングをしたうえで、子どもごとの特性にあったおもちゃを用意してくれる。
絵本のサブスクである「絵本クラブ」や「ワールドライブラリーパーソナル」も選書の専門家がおり、専門家のお勧めをもとに絵本を送ってくれる。また、「絵本ナビプレミアム」は、紙の絵本ではなく、アプリで絵本を読むサブスクサービスとなっており、デジタル形式でのサービスも広がっている。このようなサービスは、まさしく子育て世代の要望に応える、サブスクサービスといえるだろう。実際の利用状況としては、「トイサブ!」が2023年1月時点で会員数1万8000人を超えている[2]。
図表2 おもちゃや絵本は、除菌・清掃されたうえで届く
買い物にとどまらない、時短に役立つユニークなサービス
サブスクという観点から、食についてもサービスを紹介したい。離乳食をはじめとした子ども用の食事は、買い物だけでなく、献立を考える時間や調理の時間もかかる。しかし、口に入れるものこそ栄養面を含め、質は確かなものがよいと思う人が多いだろう。それらのニーズを解決するのが子育て用食のサブスクサービスである。離乳食の「the kindest」や幼児用冷凍食の「Kidslation」は、管理栄養士がメニューを監修している。準備も簡単になっており、これらのサービスにより盛り付けるだけ、あるいは解凍するだけで栄養が考えられた食事を準備することができるのだ。献立を考える時間、買い物の時間、調理の時間を短くしてくれ、かつ栄養面も考えられた親にとっても子どもの健康にとっても嬉しいサービスといえるだろう。実際、「the kindest」は毎月、日本の出生数の約10%を会員として獲得している[3]。
図表3 メニューの例
(出典)左図「the kindest」ホームページ、右図「Kidslation」ホームページ
最後に、時短に役立つユニークなサービスとして、「手ぶら登園」を紹介したい。「手ぶら登園」はおむつのサブスクサービスだが、このサービスのユニークな点は、紙おむつとおしりふきが家ではなく、直接、保育施設に届くところである。従来、保育園の登園時に、おむつに名前を記入したうえで保育園に持っていく必要があったが、この仕組みならば、買い物の時間だけでなく、保育園の登園のための準備時間も減らすことができる。加えて、保育園側も子どもごとのおむつの管理が不要になるというメリットがある[4]。2023年4月時点で登録保育園は3380カ所あり、サービス開始以後、10万人が累計で利用している[5]。また、現在テスト販売中で、2024年4月開始を予定としているサービスとして、「かるがる登園Tefu-Tefu」もある[6]。こちらは保育園に直接、衣類やシーツ、よだれかけが届く。衣類等は保育園から直接、事業者が回収するため、洗濯も不要になるサービスである。こちらのサービスも始まれば、時短に役立つとともに、さらに手ぶらでの登園が可能になるだろう。
図表4 「手ぶら登園」の仕組み
おわりに
以上、子育て世代の時短に役立つサービスとして、サブスクサービスを紹介してきた。育児期には親の時間がないことに加え、子どもがどんどん成長し、必要なモノやサービスが次々に変わる。そのようなときこそ、サブスクというサービス形態との相性はよいのではないか。質という面でも子どもそれぞれにあったモノやサービスを提供しており、安心して使うことができるものが多いこともポイントである。また、必要なものが必要な場所に届く手ぶら登園のようなサービスも注目される。今後、自宅や保育施設に限らず、出先で受け取れるサービスが増えることで、子育て世代がよりでかけやすくなる可能性もあるだろう。そのようなサービスが増えることで、出かける準備の時間や買い物の時間も減り、自由な時間を増やすことができるようになる。子育て世代のニーズに応えるサービスが増えることで、少しでも子育てがしやすい環境になることが望まれる。
図表5 コラムで取り上げた主なサービス概要
KDDI総合研究所コアリサーチャー 新倉 純樹
参考文献
[1] 厚生労働省(2022)「令和4年版 厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保」によると、1980年には共働き世帯が614万世帯であったのに対して、男性雇用者と専業主婦世帯は1,114万世帯だったが、2021年には共働き世帯1,247万世帯に対して、男性雇用者と専業主婦世帯は566万世帯とほぼ反転している。
[2] 日本ネット経済新聞「「トイサブ!」、見えない努力で知育玩具サブスク1位 商品選定や清掃にこだわり」より https://netkeizai.com/articles/detail/8476 (2023年9月20日アクセス)
[3] 日本ネット経済新聞「乳幼児向けのD2C「the kindest」のMiL、5.5億円を調達 杉岡CEO「商品力強化に充てる」」 https://netkeizai.com/articles/detail/7993 (2023年9月20日アクセス)
[4] Impress Watch「おむつの“名前書き”がいらない! おむつサブスク「手ぶら登園」が好評なワケ」https://www.watch.impress.co.jp/docs/topic/1365935.html (2023年10月16日アクセス)
[5] PR TIMES「紙おむつのサブスク「手ぶら登園Ⓡ」の累計利用者数が10万人を達成
~保護者と保育士の負担を軽減するサービスとして、全国3,000以上の保育施設で利用が広がる!~」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000083.000038762.html (2023年9月20日アクセス)
[6] PR TIMES「保育園へ通うときの負担を、衣類・寝具のレンタルサブスクで減らす。双子ママの原体験から生まれた「かるがる登園Tefu-Tefu」の誕生秘話。」https://prtimes.jp/story/detail/vBdmMQI6GDx (2023年10月16日アクセス)