BMI商用化の現状―脳で念じて遊ぶゲームから睡眠改善、生産性向上ツールまで多彩な用途(2)

(1からの続き)

世界各国のスタートアップ企業がBMIに参入

 非侵襲型のBMI端末を手掛けるメーカーには、他に米国の「カーネル(Kernel)」や「ドリーム(Dreem)」、「ニューラブル(Neurable)」、中国系の「BrainCo」などが業界関係者の間でよく知られているが、実際のところ探せば幾らでもあるだろう。

 これらのうち、カーネルはかつてオンライン・ペイメント事業で財を成した起業家ブライアン・ジョンソン氏らが新たに立ち上げたスタートアップ企業だ。同氏個人の出資金を含む総額1億ドル(100億円以上)もの投資を得るなど、資金的には最も有利な立場にある。

 当初はニューラリンクのような侵襲型の技術開発を目指していたが、その後、侵襲型の需要は小さいと判断し、非侵襲型の技術開発へと路線変更した。ヘルメット型のBMI端末で測定した脳波を、鬱病や認知症など神経疾患の治療に役立てるなど、主に医療向けの研究開発を進めている。

 また同じくユーザーの脳波を解析して、その時の気分に一番フィットしたテレビ番組や書物などをリコメンドする「カーネル・フロー」と呼ばれる一般消費者向けサービスの製品化も計画している(図7)。

図7 カーネルが開発中のヘルメット型BMI端末と、書籍などのレコメンド・サービス
出典:https://www.youtube.com/watch?v=c8Dna8Lk_jM

脳波を分析して睡眠を改善

 一方、米仏両国に拠点を置くドリームは、非侵襲型BMIで「眠りの改善」を目指すスタートアップ企業だ。同社のヘッドマウント型BMI端末(図8)はBluetooth無線でパソコンに接続される。BMI端末がユーザーの脳波を測定し、この情報を無線でパソコンに送信すると、そこにインストールされた専用アプリがユーザーの脳波から睡眠の質を分析する。ここで改善の必要性が検知されると、BMI端末が軽微な音波を発信し、これが骨伝導技術によって脳の特定領域を刺激することにより、睡眠の質が改善されるという。

 同BMI端末の小売価格は500米ドルだが、これまでの販売台数等は明らかにされていない。

図8 ドリームの睡眠改善用BMI端末
出典:https://dreem.com/

頭脳労働者の生産性アップに貢献

 米ボストンに本社を構えるニューラブル(Neurable)は、ヘッドフォン型のBMI端末を開発。これによりオフィス・ワーカーの生産性向上を図る。

 同社のBMI端末「Enten」は業務中の頭脳労働者の脳波を測定し、その業務への集中度を分析してグラフ化する(図9~10)。時々刻々と表示される集中度のグラフを見れば、ユーザー(労働者)は自分がどの時間帯、どのような作業を実行しているときに集中(focus)しているか、あるいは逆に注意散漫(distraction)になっているか一目瞭然だ。

 これらのデータを基に、ユーザーは重要な作業や商談などには自らの集中している時間帯を当て、逆に注意散漫になりがちな時間帯にはコーヒーブレークや同僚との雑談を入れるなどして適切な時間管理を行い、業務プロセス全体の生産性を高めることができるとされる。

 同BMI端末の価格は199~527ドルだが、これまでの販売台数などは明らかにされていない。同社は今後、この製品に止まらず、スマートフォンなどIT端末を脳波で操作する技術開発も進めていく計画だ。

図9 ニューラブルのヘッドフォン型BMI端末と、脳波で仕事への集中度を分析したグラフ
出典:https://www.youtube.com/watch?v=aDyxGcck__c
図10 BMI端末が測定した脳波を専用アプリが分析し、仕事に集中している時間帯や注意散漫となっている時間帯を割り出す
出典:https://www.youtube.com/watch?v=aDyxGcck__c

(次回へ続く)

KDDI総合研究所リサーチフェロー 小林 雅一