BMI商用化の現状―脳で念じて遊ぶゲームから睡眠改善、生産性向上ツールまで多彩な用途(3)

(2からの続き)

多彩なBMI開発に挑む中国系企業

米ボストンに本拠を置くBrainCoは、ハーバード大学で脳科学を学んだ中国人留学生らが興したスタートアップ企業だ。

 同社が開発した「FocusCalm」は、ユーザーの脳波を測定するヘッドバンド型のBMI端末。この端末はBluetoothでスマ-トフォンに接続され、そこに搭載されたアプリで脳波情報を分析することができる。

 米国では医師やスポーツ選手らが、このBMI端末で脳波を測定・分析することにより、ストレスを解消し、集中度を高めてパフォーマンスを向上させているという(図11)。

 また中国では、FocusCalmが学校の授業にも導入され、子供たちが教師の言うことに耳を傾け、集中して学んでいるかを確かめるためにも使われているという(図12)。

 同社はまた脳の中枢神経から末梢神経へと送られる筋電信号(EMG)を利用し、四肢の一部を失った人達が念じるだけで自由に動かすことのできるロボット義肢も開発するなど、多彩なビジネスを展開している(図13)。

図11 FocusCalmを頭部に装着した医師が、自らの脳波データを参考に仕事のストレスを解消して集中度を高める様子
出典:https://www.youtube.com/watch?v=OrBiQzvwO_o&t=117s
図12 中国では、子供たちが学校の授業に集中しているかをチェックするためにFocusCalmが使われている
出典:https://www.youtube.com/watch?v=JMLsHI8aV0g
図13 脳からの筋電信号で操作するロボット義肢は、事故等で四肢の一部を失った人達が利用する。脳から念じるだけで、五本の指も個々に動かすことができる。
出典:https://www.youtube.com/watch?v=cMCiRXOEL80&t=37s

「脳波」に頼らないBMI技術を手掛ける日本企業

 ここまで紹介してきたBMI製品は、いずれも脳内情報を活用するために「脳波」を採用している。しかし「脳から心を探り操る科学の現在地―ブレインテックの衝撃」でも紹介したように、脳波から得られる情報には限度があるため、そのアプリケーションにも限界がある。

 一方、脳波よりも正確に脳の機能部位等を測定できるのは「fMRI」と呼ばれる技術だが、こちらは大型の測定装置を必要とするなど実用面の課題を抱えている。

 こうした中、それらとは別種の技術によるBMI開発を進めているのが日本のスタートアップ企業「NeU」だ。同社は、東北大学と日立ハイテクが共同で立ち上げた脳科学カンパニーだ。

 NeuがBMI開発に採用したのは「光トポグラフィー(NIRS)」と呼ばれる技術だ。これは近赤外光を用いて脳の血流状態を測定し、脳の活動状況を可視化する技術だ。これにより「言語」「行動」「知覚」「記憶」「注意」「判断」等に関わる、脳の機能部位や活動状況などを比較的正確に推定できるとされる。またfMRIのような大型の測定装置を必要としないため、実用面でも有利であるという。

 同社は、この光トポグラフィー技術に基づく脳計測ハードウエアを開発した(図14)。また、こうした技術で消費者の潜在意識を明らかにして、それを各種業界の広告宣伝や購買分析などに応用する「ニューロ・マーケティング」事業も展開。さらに脳の活動状況をリアルタイムでチェックしながら行う次世代の脳トレ・プログラム「ブレイン・フィットネス」などのサービスも提供している。


図14 光トポグラフィー技術に基づくNeUの脳計測ハードウエア
出典:https://neu-brains.co.jp/solution/nirs/

ここまで非侵襲型のBMI開発に取り組むスタートアップ企業を見てきた。

 次回は侵襲型技術の動向も含め、これら技術の商用化に伴うプライバシーや倫理面での課題、さらには新たな監視社会への懸念など、BMIビジネスのダークサイドにも目を向けることにしよう。


KDDI総合研究所リサーチフェロー 小林 雅一