研究員がひも解く未来

研究員コラム

賞味期限間近の食品でも儲かる ~6000億円超の新市場に中国企業が挑む

世界では年間約25億トンもの食料が捨てられている。これは、生産される食料の約4割にあたる[1]。昨今、サステナビリティへの取り組みが各方面で模索されているが、食品ロス削減は生活者ひとりひとりの努力に結び付くので筆者にとっても身近に感じている。日本でも、賞味期限間近の商品を販売するお店が出てきているが、中国では、大手資本も参入し、急成長している。

若者の人気を集めた新たな小売市場

2021年頃より、中国では「臨期食品」専門店が相次いでオープンしている。臨期食品とは期限切れ間近の食品のことで、これらの専門店は小売店などから買い取り、定価より安く販売する。生活費が高騰する都市部の若者の間で、臨期食品を買うことがトレンドになっている(図1)。その人気ぶりは、大手EC「Taobao」の「2021年度トップ10商品」に「臨期食品」が選ばれたことからもわかる[2]

図1「臨期食品」大手チェーン店HitGooで若者が買い物する様子
出所:左)WeChat購読アカウント「@沥金」 
右)SNS「小紅書」での個人投稿「@Solitary patients」

2022年に中国の臨期食品の市場規模は337億元(6642億円[3])となり、2025年には401億元(7904億円)に拡大すると見込まれる[4]。コロナ禍が収束した2023年4月の調査[5]でも、臨期食品の購入者の45%が週に1回以上買い、84%が他の人に勧めたいという。購入者の属性は、66%が19~35歳の若者であり、74%が都市部に在住し、そして67%が月収1万元を下回る中間所得層以下の人々であった。

臨期食品が選ばれ始めた理由は「節約」と「サステナブル」

臨期食品が注目される理由は大きく2つある。1つ目は、経済が不安定化する中での人々の「節約志向」だ。コロナ禍の影響もあってか、中国でも経済成長は減速し、物価も上がっている。そんな中、節約志向が高まっている。McKinseyの調査[6]によると、長年、海外ブランドを好んできた消費者が「コストパフォーマンス」を理由に国産ブランドを選ぶようになった。割安で買える「臨期食品」にも消費者の関心が集まっているのだ。

2つ目の理由は、消費者の間で広がる「サステナブル志向」だ。食品ロスの削減に貢献する「臨期食品」はこの消費スタイルになじむ。Boston Consulting Groupが中国を含む8か国の3000人以上に行った調査[7]によると、コロナ禍をきっかけに人々の環境意識が高まっているとのことだ。また別の調査[8]でも、中国若者の約93%が食領域でのサステナブル消費を行っており、その一番のモチベーションは「サステナビリティへの共感と環境保護へのポジティブな影響」という。

臨期食品ビジネスの特徴は<高利益率×大量販売>

一方で、臨期食品と聞くと、収益性の低いビジネスを想像するかもしれないが、そうではない。

まず、このビジネスでは利益率が高くなる。関係者によれば、「臨期食品の粗利率は約50%で従来型スーパーの20%を上回る。中には粗利率が約70%となる商品もあり、流通、在庫管理、人件費などのコストを除いた純利益率が40%に上るケースもある」という[9]

高利益率の仕組みは図2に示す通りだ。ポイントは仕入れ価格が低く抑えられることにある。川上の食品メーカーやサプライヤーは川中の臨期食品販売事業者に格安価格で商品を卸す。管理コストや廃棄コストがかかる余剰在庫を大量に解消できるからだ。

例えば、大手ブランドの缶コーヒーの場合、通常小売価格が10元のものが臨期商品になると価格は5.5元程度になる。このときの仕入れ価格は2.5元[10]前後といわれるため、粗利率は約55%となる。これは、スーパーにおける一般的な粗利率の20%を上回る。

図2 「臨期食品」のビジネスモデル(大手ブランドの缶コーヒーの場合)
出所:公開情報[11]より、筆者が作成

また、利用者からみて、格安ならば商品の大量購入にもつながる。「賞味期限ぎりぎりの商品を大量購入するのか?」と思われる方もいるだろうが、臨期食品専門店で買えるのは期限切れ間近の商品だけではない。製造日から賞味期間の3分の2を経過した国産食品や、賞味期間の2分の1を経過した輸入食品も多い。商習慣上、これらの期間を過ぎるとスーパーやコンビニなどでは扱えなくなり、臨期食品専門店がその受け皿となるのだ[12]。品質が変わらないものを格安で買えるのだから、消費者の大量購入が起こりやすくなる。

北京在住の胡さんは臨期食品専門店の様子をこう語る[13]。「通常1本9元のミネラルウォーターがここでは3.5元だから、箱買いする人が多い。店員はいつも商品の補充に追われている」。

参入と拡大が続く

様々な企業が臨期食品事業に参入しているのも、収益性を保ちながらの社会貢献ができるからだろう(図3川中)。2021年に事業参入した企業の数は124社に上る[14]。オフラインでは、臨期食品専門店のHitGooが設立1年間で200店舗をオープンした[15]。HotMaxxも500店舗[16]を展開し、2025年までに5000店に拡大する計画だ[17]。オンラインでは、アプリ「Haoshiqi」のユニークユーザー数が2020年時点で1億人に近づいた[18]。大手ECも商機を逃すまいと同種のサービスに乗り出している。コロナ禍でオフライン小売産業は投資家に冷遇されたが、この領域では、HitGoo やHotMaxxをはじめ、資金調達に成功したプレイヤーが多い[19]

図3「臨期食品(賞味期限間近食品)」の産業チェーン
出所:公開レポート[20]より筆者が整理作成

<臨期食品+通常商品>という展開もある

一方で、商品供給の見込みが立てづらく、品揃えの課題がある[21]。対策として、HotMaxxやHitGooなどの大手チェーン店は臨期食品と通常商品を組み合わせて販売している[22]。臨期食品を買いに来た消費者についでに、通常商品も買ってもらうのだ。通常商品といってもこちらも通常価格より30%から40%ぐらい安いことから、消費者にとってうれしい。安く売れる理由の一つは、工場から直送できる商品や地元商品といった物流コストを抑えられる商品を対象としているためだ。

同市場は今後さらに成長する見込み

臨期食品は高いコストパフォーマンスにより、家計の負担を軽減する。同時に、サステナブル消費としても生活者は実践しやすい。人々の環境保護意識が高まり、企業のサステナビリティ経営がトレンドとなる中、この市場はさらに成長するのではないか。また、激戦区の大都市を起点としながら、地方都市に進出する企業の動きも現れている。地方にサステイナブル消費の新たな需要を作り出すことで、市場のさらなる拡大が期待できるだろう。

日本でも、臨期食品を販売するサービスは増えており、人気を集めつつある。次回は日本の市場動向を取り上げ、中国の状況との比較をしてみたい。

KDDI総合研究所コアリサーチャー 劉亜菲

[1] 日本財団(2023)「世界で捨てられる食べ物の量、年間25億トン。食品ロスを減らすためにできること」 https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2023/84322/food_loss

[2] 選出の基準は年間販売量とその前年比の成長率、インターネットでの注目度などに基づいた。曾禾(2021)「淘宝発布2021年度十大商品榜単」『電商報』https://www.dsb.cn/170752.html

[3] 1元=19.71円で換算(2023年5月末TTM)

[4] iiMedia Research(2023)「2023-2024年中国臨期食品行業発展及標杆案例研究報告」 https://www.iimedia.cn/c400/93052.html

[5] 同上

[6] 沢沛達(Daniel Zipser)、許達仁(Daniel Hui)、周嘉、張悦(2022)「2023麦肯錫中国消費者報告:韧性時代」McKinsey&Company, https://www.mckinsey.com.cn/wp-content/uploads/2022/12/20221208_China-consumer-report-CN.pdf

[7] Nicolas Kachaner, Jesper Nielsen, Adrien Portafaix, and Florent Rodzko(2020), “The Pandemic Is Heightening Environmental”,BCG, https://www.bcg.com/publications/2020/pandemic-is-heightening-environmental-awareness

[8] GoalBlue&億欧智庫(2022)「从意識到行動 双碳目標下的中国青年可持続消費研究報告2022」http://www.goalblue.org/files/0504new.pdf

[9] 付艶翠(2022)「売疯了的臨期産品:超低价,大混戦与新希望」WeChat購読アカウント「創業最前線」https://mp.weixin.qq.com/s/mkl818zp1JAi12RrzRoBgQ,鶴翔(2021)「50%毛利,臨期食品物美価廉的密码」WeChat購読アカウント「零售商業財経」https://mp.weixin.qq.com/s/FbI7vQIysRxxG1ygsN7B8w, 薇安(2022)「庖丁解商 | 浄利率高達40%,資本熱捧的臨期食品是个好生意么?」WeChat購読アカウント「極論創業」https://mp.weixin.qq.com/s/Gi6J1DCFffv-uxr-yUDZzw

[10] 缶コーヒーの販売価格は、ショート動画「Douyin(中国版TikTok)」で臨期食品のプロモーション・販売をしている買い取り事業者の「@臨期也狗」が動画で公開した情報を参考にしている。

[11] 臨期商品の仕入れ価格と販売価格は注10を情報元としている。賞味期限が新しい商品の仕入れ価格は前掲した「スーパーの粗利は20%」とのことより推測している。臨期食品のビジネスモデルは以下メディアの報道を参照している。同注9,電商君(2020)「500万家超市每天倒掉的臨期食品,潜藏着百億商机!」WeChat購読アカウント「電商報Pro」https://mp.weixin.qq.com/s/PqCFoBtCEl17ZXXgum14UA

[12] 不止十一人(2021)「只吃臨期食品的年軽人,游走在美味与変質的辺縁」Wechat購読アカウント「半熟財経」https://mp.weixin.qq.com/s/Lf60_rvDUsxINcxESDJgjg

[13] 同上

[14] 同注4

[15] 田淑杰(2022)「臨期食品受追捧,未来能否出現独角獸?」WeChat購読アカウント「紫金商業評論」https://mp.weixin.qq.com/s/zKw5vvwfZL-p-xWvUT0_-Q

[16] 同注4

[17] 同注15

[18] 電商君(2020)「500万家超市每天倒掉的臨期食品,潜藏着百億商機!」WeChat購読アカウント「電商報Pro」https://mp.weixin.qq.com/s/PqCFoBtCEl17ZXXgum14UA

[19] 中国連鎖経営協会(2023)「市場端臨期食品経営現状報告」http://www.ccfa.org.cn/portal/cn/xiangxi.jsp?id=444173&type=33

[20] 同注4,同注19

[21] 薇安(2022)「庖丁解商 | 浄利率高達40%,資本熱捧的臨期食品是个好生意么?」WeChat購読アカウント「極論創業」https://mp.weixin.qq.com/s/Gi6J1DCFffv-uxr-yUDZzw

[22] 組み合わせ販売は注21を情報源としている