研究員がひも解く未来

研究員コラム

今さら振り返るPokémon Goの健康効果

今からさかのぼること7年前、Pokémon GOが世界中に大きなインパクトを与えた。Pokémon GOは、位置情報を利用することで、歩き回りながら、ポケモンをゲットするスマホアプリゲームだ。また、拡張現実(AR)の技術を活用することで、現実世界にポケモンが出現したようなワクワクが楽しめる特徴もある(図1)。

図1  Pokémon Goのスクリーンショット
出典: Niantic https://pokemongolive.com/post/launch-jp?hl=ja

Pokémon GOは、学術界でも大きな注目を浴びた。図2はアメリカ国立医学図書館が運営する文献データベース、PubMedで「Pokémon GO」「MyFitnessPal」「Oura Ring」と検索するとヒットする論文数である。MyFitnessPalは主に食事の記録管理をするアプリ、Oura Ringは主に睡眠に関するデータを測定するウェアラブルデバイスで、専用アプリも配信されている。ともに健康作りを目的とした世界的サービスであるものの、論文数はPokémon Goの方が多いのだ。

今回はPokémon Goを対象とした論文を眺めながら、健康について考えていきたい。

図2  PubMedで検索した際の年別の論文数
※()は総数、検索日は2023年5月23日 

身体的効果

2020年のレビュー論文[1]では、2016年7月から2018年10月までに発表されたPokémon Goが身体活動に及ぼす影響を調べた17の研究の中で、歩数に関する十分なデータのあった4つの研究において、合計2692人分のデータが分析されている。結果をみてみると、Pokémon Goで遊ぶことで、歩数は1446歩/日増加していた。

このようにPokémon Goで遊ぶと、身体活動が増えることは多数報告されている。一方で、スマホアプリや活動量計を用いた介入では、歩数が2000歩/日近く増加するエビデンス[2]を踏まえると、その効果は特段優れているとは言いがたい。また、Pokémon Goによる歩数増加効果は短期間に終わることも報告されている。例えば、アメリカ在住のPokémon Goプレイヤーを対象とした研究[3]では、インストールから6週間後には歩数増加効果がなくなっていた。

実のところ筆者は、Pokémon Goの健康効果を語る際、身体的効果以外にも着目した方が良いと思っている。そこで次に、精神的効果について触れていく。

精神的効果

2021年のレビュー論文[4]によると、Pokémon Goがメンタルヘルスに与える影響を調べた論文25編のうち、プラスの効果を報告した論文が19編、プラスとマイナスの効果を報告した論文が4編、マイナスの効果を報告した論文が2編あった。

プラスの効果としては、気分が良くなったり、身体活動への意欲が高まったり、ネガティブ思考が軽減したり、不安が減ったりすることが挙げられる。一方、マイナスの効果としては、長時間ゲームを続けることで身体活動への動機が低くなったり、ゲームの依存症状が起こったりするというものだ。

こういった依存症状は、身体にも悪影響を及ぼす。ある調査[5]によると、ゲームをしていないのにPokémon Goの夢を見る、Pokémon Goをしないと不安に襲われる、やめたいのにPokémon Goをやめられないといった依存症状を持つプレイヤーが存在し、そういった者は身体の痛みや視力に問題を抱えている傾向があった。

したがって、他のゲームと同様に、やりすぎる弊害はあるものの、論文の傾向で判断する限り、Pokémon Goは精神面にはプラスの効果の方が大きいと言える。

社会的効果

Pokémon Goで遊ぶ効果として、人と過ごす時間が増えることや、その付随効果として社会性が高まることも挙げられる。実際、ある調査[6]によると、Pokémon Goのプレイ時間が多かった日では、友人や見知らぬ人との社会的交流や会話が多く、人生の満足度も高く感じていた。

また、Pokémon Goが社会問題の解決策になることを示唆した香港の研究[7]もある。どういった研究かというと、Pokémon Goの配信後に自傷行為の件数が34%も減少していたというものだ。

なお、Pokémon Goをしながら歩いたり運転したりするといった「ながらスマホ」によって、死亡事故が起きてしまった事例があり、Pokémon Goがむしろ社会問題を引き起こしているという指摘もある。ただし、日本の交通事故総合分析センターの交通データを分析した研究[8]によると、交通事故死は統計学的にはPokémon Goの配信後に変わっていなかった。

ポケモンの凄さとは?

ここからPokémon Goの凄さについて、筆者の見解をまとめていく。

健康に着目したアプリの多くは、明確な目的を持つユーザーが使うものが多い。例えば、MyFitnessPalであれば、減量したい人や日頃からボディーメーキングに励む人が利用している。また、Oura Ringは健康意識の高い層やアスリートから高い評価を受けているサービスである。

これに対し、Pokémon Goは、その時点で健康に関心のない人の健康にも影響を与えている。大学生を対象とした調査[9]によると、Pokémon Goで遊ぶ動機として、身体活動を増やしたい人の他にも、ポケモンとテレビゲームのファン、自分の町を知りたい、誰かと出会いたいといった知的好奇心に由来する人もいた。面白いことに、どういった動機でPokémon Goを始めても、身体的、精神的、社会的な健康度のいずれかが良くなっていた。

「健康のため」という前触れなしに、幅広いユーザーを対象として、健康に多面的にアプローチ出来るのがPokémon Goの凄いところではないか?

さて、Pokémon Sleepが今夏に配信される。これによってポケモンは、健康の三大要素のうち、運動と睡眠にアプローチしたことになり、残るは栄養のみだ。もしかして近い将来、Pokémon Eatみたいな栄養に着目したアプリも配信されたりして・・・。筆者には開発チームの狙いは分からないが、ポケモンはあらゆる世代に通用する優良健康サービスに違いない。

KDDI総合研究所 招聘研究員 髙山史徳

◼️参考文献
[1] Khamzina, M., Parab, K. V., An, R., Bullard, T., & Grigsby-Toussaint, D. S. (2020). Impact of Pokémon Go on Physical Activity: A Systematic Review and Meta-Analysis. American journal of preventive medicine, 58(2), 270–282.

[2] Laranjo, L., Ding, D., Heleno, B., Kocaballi, B., Quiroz, J. C., Tong, H. L., Chahwan, B., Neves, A. L., Gabarron, E., Dao, K. P., Rodrigues, D., Neves, G. C., Antunes, M. L., Coiera, E., & Bates, D. W. (2021). Do smartphone applications and activity trackers increase physical activity in adults? Systematic review, meta-analysis and metaregression. British journal of sports medicine, 55(8), 422–432.

[3] Howe, K. B., Suharlim, C., Ueda, P., Howe, D., Kawachi, I., & Rimm, E. B. (2016). Gotta catch’em all! Pokémon GO and physical activity among young adults: difference in differences study. BMJ (Clinical research ed.), 355, i6270.

[4] Wang, A. I. (2021). Systematic literature review on health effects of playing Pokémon Go. Entertainment Computing, 38, 100411.

[5] Kaczmarek, L. D., Behnke, M., & Dżon, M. (2022). Eye problems and musculoskeletal pain in Pokémon Go players. Scientific reports, 12(1), 19315.

[6] Ewell, P. J., Quist, M. C., Øverup, C. S., Watkins, H., & Guadagno, R. E. (2020). Catching more than pocket monsters: Pokémon Go’s social and psychological effects on players. The Journal of social psychology, 160(2), 131–136.

[7] Wong, R. S. M., Ho, F. K. W., Tung, K. T. S., Fu, K. W., & Ip, P. (2020). Effect of Pokémon Go on Self-Harm Using Population-Based Interrupted Time-Series Analysis: Quasi-Experimental Study. JMIR serious games, 8(2), e17112.

[8] Ono, S., Ono, Y., Michihata, N., Sasabuchi, Y., & Yasunaga, H. (2018). Effect of Pokémon GO on incidence of fatal traffic injuries: a population-based quasi-experimental study using the national traffic collisions database in Japan. Injury prevention : journal of the International Society for Child and Adolescent Injury Prevention, 24(6), 448–450.

[9] Marquet, O., Alberico, C., Adlakha, D., & Hipp, J. A. (2017). Examining Motivations to Play Pokémon GO and Their Influence on Perceived Outcomes and Physical Activity. JMIR serious games, 5(4), e21.