研究員がひも解く未来

研究員コラム

サブスクトレンド2023
〜世界の通信キャリアが志向し始めた「サブスクポータル」ポジション

サブスクの現在地

「サブスク」が新語流行語大賞の候補になったのが2019年。それから多くのサブスクサービスが登場した。好調に伸びているもの、世の中の変化に合わせてシフトチェンジをしたもの、はたまた、狙った収支にとどかずにサービス終了となったものもある。

今や日常的な言葉になりつつある「サブスク」。現在のサブスクはどのようになっているのか?複数回に渡って世界のサブスクトレンドを紹介することで、サブスクの現在地を示そうと思う。

初回は、世界で登場している「サブスクポータル」にスポットを当てる。

世界の通信キャリアが志向し始めた「サブスクポータル」ポジション

2023年3月、米国の大手通信キャリアVerizonは、様々なサブスクサービスをラインナップするサブスクポータルサービス「+Play」を開始した。このポータルに並ぶのはNETFLIXやNFL+などの動画サブスクを中心に、ゲームのXbox Game Pass、フィットネスや知育コンテンツなどのサブスクだ(図表1)。

Verizonのユーザーは、ここから気に入ったサブスクへの加入や、不要となったサブスクの解約ができる。サブスクの利用料金もポータルであるVerizonに払う(回収代行)ため、ユーザーにとってはサブスクを一元管理してもらえることになる。また、特定サブスクをバンドルした割引プランも利用可能だ。

図表1  Verizonが「+Play」でライナップする動画サブスクの一例
出所:Verizon

近年、このようなサブスクポータルが世界で増えている(図表2)。ポータルポジションを志向する企業に共通するのは、多くの会員を有している点だ。自社の大きな顧客基盤を活かして、提携するサブスクサービスに誘導しようというのだ。

そして今、このポジションでとりわけ目立つのが、前述のVerizonのような通信キャリアの存在だ(図表2の網かけ部分)。

図表2 近年始まった主なサブスクポータル(網かけ部分が通信キャリア)
出所:筆者作成

サブスクポータルがもたらすメリット

なぜ通信キャリアによるポータルが増えているのか?それは、主導するキャリアにだけでなく、ポータルに参加するサブスク企業にも、それを利用するユーザーにもメリットがあるからだ(図表3)。

図表3  サブスクポータルは各々の課題にマッチしたメリットをもたらす
出所:筆者作成

各々のニーズを満たすビジネスモデルであるため、キャリアにとってもサブスクポータルは推し進めやすいのだ。以降、各々の視点で見ていこう。

①「手数料収入」「通信料収入」そして「ロイヤルティ」が欲しい通信キャリア

ポータルポジションにいる通信キャリアが、ポータルを介して期待できる短期的な収入は「手数料収入」と「通信料収入」だ。

「手数料収入」は、ポータル上でサブスクサービスの契約に至った際にそのサブスク企業から得られる仲介料や、料金の回収代行で得られる手数料だ。

もう1つは「通信料収入」であり、どちらかといえばキャリアの本命はこちらだろう。これは、モバイルデバイス上で各種サブスクが使われることによる通信料収入だ。5Gの普及を目指す世界のキャリアは通信料収入を増やすことが最優先課題となっている。いずれのポータルでも動画サブスクがラインナップの中心になっているのも、大きな通信量が期待できるからだ。

さらには、自社の通信回線ユーザーの継続利用を促進することでの長期的な収入も狙える。自社ユーザー向けに様々なサブスクサービスをラインナップし、後述する③のユーザーメリット(契約の一元管理、割引)を提供することで、ロイヤルティを高め、通信サービスを長く使ってもらおうという考えだ。

②「販路を拡大」したいサブスク企業

ポータルの通信キャリアにメリットがあるだけなら、誰もそこには参加しない。しかし各種サブスク企業もこのポータルにこぞって参加している。なぜか?サブスク企業は販路を増やしたいのだ。

サブスク領域は年々競争が激しくなっており、従来のような直販だけでは加入者を伸ばしづらくなっている。サブスクの王道である動画サブスクも、近年、加入者数の伸びが鈍化しており、頭打ちの傾向にある。図表4は、NETFLIXの加入者数とその増加率の推移だ。2020年にはパンデミック起因の”巣ごもり特需”によって一時的な盛り返しをみせるも、長期で見れば増加率は右肩下がりだ。また、後発ながら短期間で加入者を伸ばしたDisney+も近年はNETFLIXと同じトレンドにある。

各社はこの状況下で、様々な施策によって加入者を増やそうとしている。ポータルへの参加による販路拡大もその一環だ。 

図表4 加入ペースが鈍っているNETFLIX
出所:Statista

③「一元管理」と「割引」を望むユーザー

そしてユーザーにもメリットがある。サブスク契約を「一元管理」できることと、バンドルによる「割引」だ。市場調査によれば、米国の動画サブスクユーザーの77%が一元管理とバンドル割引を望んでいる[1]

様々なサブスクサービスが存在する今、ユーザーが利用しているいくつものサブスク契約を適切に管理することが難しくなりつつある。英国では、サブスクを利用している世帯の約半数で、使っていないサブスクにお金を払い続けた経験があり、その無駄な出費の平均額は年間170ポンドにのぼるという[2]。この中には契約していること自体を忘れていた人も含まれる。サブスクであふれる時代、サブスクの一元管理は、ユーザーにとっての新しい価値となり得る。

また、料金の割引はいつの時代もうれしいが、特に世界的なインフレ傾向にある現在、バンドル割引はユーザーにより響くのかもしれない。

ユーザー目線で今後期待したいのは柔軟なライフスタイルポータル

以上のように、各者の背景にまで立ち戻って考えると、現在のサブスクポータルの潮流は、それぞれのピース(ニーズ)がかみ合ったことで生まれているとも言える。

その上で、サブスクポータルに今後何を期待するか?使う人のライフステージにあわせて柔軟に利用できるポータルではないか。

エンタメサブスクに加えて、生活シーンの中で利用価値のあるサブスクも広く選べるようなポータルだ。すでに一部のポータルには、ミールキットや瞑想アプリなどライフスタイル系サブスクも並ぶがまだまだ限定的だ。まず期待したいのはここの拡充だ。

そして、ライフステージの変化にあわせて、それらに簡単に加入できると同時に、不要になれば簡単に解約できることも重要だ。使わなくなってしまった休眠会員が課金され続けるのではなく、別の価値を提案してくれるようなポータルにこそ支持が集まるのではないだろうか。

KDDI総合研究所コアリサーチャー 沖賢太郎

◼️参考文献
[1] Bango “Super Bundling is the ‘next big thing’ as subscribers demand greater say in content provision”(2023/3/17)
https://bango.com/super-bundling-is-the-next-big-thing/

[2] Compare the Market “UK HOUSEHOLDS WASTING ALMOST £170 ON AVERAGE EACH YEAR ON UNUSED SUBSCRIPTIONS”(2022/6/21)
https://www.comparethemarket.com/media-centre/news/uk-households-unused-subscriptions/