体重を減らしたい場合、毎日体重計に乗ることは有効なのだろうか?ネットで調べてみると、肯定的な意見と否定的な意見を発見できる。
季節柄、薄着になりダイエットやボディーメイクへの関心が高まる今日この頃。ここでは、毎日体重計に乗る効果について掘り下げていきたい。
毎日乗ることを指示した研究
このテーマに関する代表的な実験として、Weighing Everyday to Improve Gain Health(以下、WEIGH)研究[1]がある。アメリカで行われたこの研究は、BMIが25-40kg/m2の男女91名を介入群と対照群に割り当てた上で、介入群に6カ月にわたり体重計に毎日乗るように指示している。それに加えて介入群は、実験開始時にグループセッションに参加した上、体重管理に関する情報などをメールで毎週受けとった。また、計測した体重の変化はウェブ上で確認することもできた。なお、対照群は体重計に乗る習慣を実験前と変えないように指示された。
早速結果をみると、6カ月後の体重は、介入群で6.55%も減っていたのに対し、対照群では0.35%の減少と、ほとんど変わっていなかった(平均値)。
毎日乗った方が良いのか?
WEIGH研究の介入群は、毎日体重計に乗ることを指示されていたものの、実際には毎日乗れた人と乗れなかった人が含まれていた。そこで研究者たちは、毎日乗り続けることができたグループとできなかったグループに分けた上で、体重の変化を比べてみた[2]。なお、毎日乗り続けられなかった人たちであっても、平均すると、週に5回以上は体重を計っていた。
比較結果をみると、6カ月後の体重は乗り続けることができたグループで9.4%(9.2kg)も減っていたのに対し、できなかったグループでは3.2%(3.1kg)の減少と、両者には6.2%(6.1kg)もの平均差があった。
太りすぎの人が痩せたい場合、体重計には毎日乗った方が良いと言えそうだ。
毎日乗るとなぜ体重が減るのか?
毎日体重計に乗ることで効率よく体重が減る理由としては、食生活や運動といった生活習慣が体重の増減にどう影響するのか、身をもって理解できるようになるからだと言われている。つまり、客観的なモニタリング(観察)によって、自分のコントロール(調整)が上手になる。これは、自己調整理論とも呼ばれるものだ。
WEIGH研究の介入群で比べてみても、毎日乗り続けることができた人たちは、摂取カロリーを控える、間食を減らす、デザートの頻度やサイズを減らす、テレビを見る時間を減らす、30分以上の運動をするといった体重管理に有効な行動を数多く実践できるようになっていた。
毎日乗ると病むのか?
体重計に毎日乗ることに否定的な意見の多くは、数値に一喜一憂しすぎたり、ストレスの源になったりし、精神的に良くないという主張である。果たして本当なのだろうか?
この疑問についても、WEIGH研究は一つの見解を与える調査をしている[3]。結果をみると、自分の体型への不満度、抑うつ症状、摂食障害、食欲などに関するアンケート項目は、対照群に比べて、介入群で悪くなる傾向はなかった。というよりも、体重が減ったこともあって、身体への不満度は改善されていた。また、介入群の中で体重が減らなかった人たちに限って分析しても、悪い影響は認められなかった。
その人の心理的特徴によっても受ける影響は多少変わるかもしれないが、基本的には毎日乗る弊害は大きくなさそうだ。
どういうときに乗らなくなるのか?
日頃は体重計に乗っている人でも、乗ることを避けたくなる日もある。では、どういったときに人は体重計に乗るのを避けるのだろうか?
この問いにも、一つの見解を与える研究がある[4]。その研究では、BMIが25kg/m2以上の18-70歳を対象として、12週間にわたり介入を行っている。介入期間中、対象者は毎日の体重計測と、摂取カロリーの記録を指示され、その結果は研究者側に報告された。
結果をみると、まず体重計測と摂取カロリーの記録の頻度は体重の減少と関係していた。つまり、計測、記録していた人ほど、体重が減った傾向があった。これは、WEIGH研究の結果や自己調整理論を踏まえると、妥当な結果である。
次に、体重計にどれだけ乗っていたのかをみると、対象者全体の平均で週に約6日乗っていたが、およそ4日に1回乗らない日があった。興味深いことに、体重計に乗らなかった日の前日は、普段よりも摂取カロリーが多いことがわかった。統計学的には、普段よりも摂取カロリーがたった300kcal多くなるだけでも、乗らなくなる率が高まっていた[5]。
食べ過ぎた後は、その結果を数値で直視するのを避けたくなるのだろう。しかし、毎日乗り続けると体重減少効果が優れるエビデンスを踏まえると、食べ過ぎた後も現実と向き合った方が得られる成果は大きいに違いない。
毎日乗るために必要なのは・・・
ちなみに、脂肪組織1kgに含まれるカロリーは約7500kcalである。また、脂肪を身体に蓄積するためにはエネルギーが必要であり、体脂肪が1kg増えるのにはそれよりも多い余剰カロリーが必要とされている。したがって、300kcalぐらいの増加ではほとんど体脂肪は増えておらず、どんなに食べ過ぎたとしても、1日で脂肪が1kg以上増えることも考えにくい。一過性にドカンと増えた体重の主な理由は、消化吸収しきれていない食べ物や水分である。
毎日乗り続ける秘訣は、強い精神力ではなく、自分を静める広くて深い知識なのかもしれない。
KDDI総合研究所 招聘研究員 髙山史徳
参考文献
[1] Steinberg, D. M., Tate, D. F., Bennett, G. G., Ennett, S., Samuel-Hodge, C., & Ward, D. S. (2013). The efficacy of a daily self-weighing weight loss intervention using smart scales and e-mail. Obesity (Silver Spring, Md.), 21(9), 1789–1797.
[2] Steinberg DM, Bennett GG, Askew S, Tate DF. Weighing every day matters: daily weighing improves weight loss and adoption of weight control behaviors. J Acad Nutr Diet. 2015;115(4):511-518.
[3] Steinberg, D. M., Tate, D. F., Bennett, G. G., Ennett, S., Samuel-Hodge, C., & Ward, D. S. (2014). Daily self-weighing and adverse psychological outcomes: a randomized controlled trial. American journal of preventive medicine, 46(1), 24–29.
[4] Tanenbaum, M. L., Ross, K. M., & Wing, R. R. (2016). Overeat today, skip the scale tomorrow: An examination of caloric intake predicting nonadherence to daily self-weighing. Obesity (Silver Spring, Md.), 24(11), 2341–2343.
[5] 普段よりも300kcal多く食べた翌日に体重を計測しないオッズ比は1.33。