研究員がひも解く未来

研究員コラム

アリゾナでスマホを買い替える 後編

 5年前に購入したスマホがそろそろ買い替えどきになったので、これまでの「スマホ人生」を振り返りながら現時点における最善の決断をすることを目指し、新しいスマホに買い替えることにした。本コラムではその顛末を2回に分けてお届けしながら、当地のスマホ事情の一端を紹介したい。さらにこの機に、前々から気になっていたことの解明にも努めてみようと思う。それは、スマホを買うとしたらオンラインで買うのがいいか、ショップで買うのがいいかということ。もちろんそれは個人個人のニーズや好みや環境などで変わってくることではあるが、実は筆者自身は「オンラインで買った方がいいに決まっている」と内心思っており、ショップで買うメリットがどこにあるのかというところをこの際はっきりさせておきたいというのが正直なところだ。なお本稿で紹介するスマホ事情は概ねは2023年7月から8月にかけてのもので、iPhone 15シリーズが出る以前のものである。

 前編では、機種を決めるところまでをお伝えした。今回はいよいよスマホの購入に踏み切る。

オンラインで得たプロモーションの情報

 今回のスマホ買い替えにあたっては、通信キャリアを変更すべきかどうかについても検討することにし、通信大手各社のホームページなどで提供条件やプロモーションなどを確認した。iPhone 14シリーズに関しては各社とも端末代金が実質無料になるプロモーションを実施していた。ただ、詳細を読むと、割引を受けるためには高額なプランを選択しなければならないなど、月額料金が大幅にアップする見込みとなった。結局、T-Mobileの既存プランのまま機種変更するのが最善と思われた。

 T-MobileもiPhone 14 Proに関してプロモーションを実施していたが、内容は少し複雑だった。

【図表1】T-MobileのiPhone 14 Proに関するプロモーション

(出典)T-Mobileのホームページ(閲覧日; 2023年7月10日)

 iPhone 14 Proに適用可能なプロモーションが6つも表示されている。どれが自分のケースに当てはまるのか、重畳適用できるものがあるのか、詳細をよく読んでみないとわからない。各プロモーションの概要は以下のとおり。

  1.  対象機種の端末を下取りに出し、Go5Gを含むプランで新規回線を追加することで最大830ドルの割引
  2.  Go5G Plusのプランで対象機種の端末を下取りに出すことで最大830ドルの割引
  3.  Go5Gを含むプランで対象機種の端末を下取りに出すことで最大350ドルの割引
  4.  対象プランで対象機種の端末を下取りに出すことで最大200ドルの割引
  5.  対象機種のiPhoneを購入し、Watch用のDigits回線をアクティベートすることでApple Watch SEが無料
  6.  iPhone 14または13シリーズを1台購入し、新規顧客は2回線を新設(既存顧客は1回線を追加)することで2台目が最大700ドルの割引

 このうち1と6は回線の追加が必要になるため月額料金が現状より高くなるので除外。2はGo5G Plusという上位プランの利用が前提なので除外。5はWatch用の回線に月々15ドルの余計な支払いが発生するので除外。残るは3と4。3は「Go5Gを含むプラン」とあるが、現在利用中の「Magenta 55+」が対象になるのかどうかが不明だ。4も同様で、「対象プラン」にどのようなプランが含まれるのかが不明だ。これはショップに行って確認してみることにする。

ショップに行ってみた

 近所のT-Mobileのショップに行ってみた。いい条件が提示されればその場で購入してもいいとの覚悟で臨んだ。ちょうど火曜日で「T-Mobile Tuesdays」が開催されていた。今回の目玉は夏用クーラートートバッグ。上下2段構造で、上段はメッシュの袋、下段はアルミ製の保冷袋。全体がT-Mobileカラーのピンク色で「T-Mobile Tuesdays」のロゴが入っている。

 店内にはスタッフが3人と客が7-8人。スタッフは各テーブルでそれぞれ顧客対応中。順番を待っているらしい客が4-5人椅子に座っていた。入り口付近に立って少し待っていると、スタッフの1人が顧客対応の手を止めて用件を聞きに来た。「T-Mobile Tuesdays」のバッグをもらいに来たのと、機種変更を検討しているのでアドバイスがほしいと伝えた。前に2組の客が待っているので少し待つようにと言われた。待っている間に数組の客が入ってきて、バッグだけもらって帰って行った。

 20分ほどでスタッフに呼ばれ、テーブルに案内された。「新しいiPhoneに機種変更したいが、お勧めの機種はどれか」と聞いてみた。「今の最新機種はiPhone 14だ」と言って、側面の棚からデモ機を4台持ってきてくれた。テーブルの上で左からiPhone 14、14 Plus、14 Pro、14 Pro Maxの順に並べ、左の2台はリアカメラが2つ、右の2台はリアカメラが3つ、と超簡単な説明をしてくれた。まずは画面が大きいのがいいか小さいのがいいか、とこちらの反応をうかがう。「大きくない方がいい」と答えると、14 Plusと14 Pro Maxを引き抜いてテーブルの端に寄せ、目の前には14と14 Proが並ぶ。「カメラは2つがいいか3つがいいか」と聞くので、「3つの方がいい」と答えると14を引き抜き、最後に14 Proが残った。

 まるでトランプの手品でも見せられているかのように、望みの機種が目の前に置かれた。実に簡単明快な選択方法だが、こちらも内心では機種を決めていたので、迷わずに選んだ結果、スムーズに事が運んだのかもしれない。タブレットでアカウントの現状を調べてくれた。「下取りに出す端末はあるか」と聞かれたので、iPhone XSを下取りに出したいと伝えた。すると、下取りで350ドルが割引されると教えてくれた。プロモーションの3(Go5Gを含むプランで対象機種の端末を下取りに出すことで最大350ドルの割引)が適用されるらしい。本日の支払額は115ドル、残債は月々27.09ドルずつの24回払いになると説明しながらメモにも書いてくれた。本日の支払額の内訳を聞くと、本体代金の税金と機種変更サポート料(35ドル)の合計とのこと。サポート料がかかるとは予想外だった。

 これがベストオファーかと尋ねると、「もう1ついい方法がある」と教えてくれたのは、プランを「Go5G Plus 55」に変更すると、同じ端末の下取りで800ドル割引になるというもの。本日の支払額は同じで、残債は月々8.34ドルの支払いになるという。3回線とも上位プランになるので月々のプラン料金が150ドルになることも説明してくれた。どうやら上位プランに変更するとプロモーションの2(Go5G Plusのプランで対象機種の端末を下取りに出すことで最大830ドルの割引)が適用されるらしいが、割引額は800ドルとのことだ。

 もうそれ以上のオファーはないという。さあどうする、という感じでこちらの反応をうかがっている。結局ネットで調べた以上の割引はないことがわかり、さらにサポート料が上乗せされることがわかった。これはこれで1つの成果ではある。「もう少し検討してから決めたい」と伝えると、嫌な顔もせずに「オーケー、何か質問があったらいつでも連絡してくれ」と言って名刺をくれた。「T-Mobile Tuesdays」のバッグを奥の棚から出して持ってきてくれた。

結局オンラインで購入

 自宅に戻る道すがら、ショップで購入すると35ドルのサポート料がかかるという説明が頭から離れなかった。「サポート料」という名称からして、オンラインではかからない可能性がある。それならオンラインで購入した方がお得ではないか。

 自宅に戻り、T-Mobileのホームページにログインして、機種変更の手続きに進んでみた。待望のiPhone 14 Proを選択し、容量は128GB、色はトレンディなディープパープルを選ぶ。下取端末の情報を入力すると、予想下取価格は350ドルと出た。ここまでは想定どおり。提示された下取価格を了承して次に進む。アクセサリや保証はどうかと勧められるがすべて無視して先へ進むと、オーダーのサマリーが表示された。本日の支払い額は115.73ドル、端末残債は月々27.08ドルの24回払い。ショップでの説明内容とほぼ同じ。税金の他に一時金として「Device Connection Charge」が35ドルかかる。ショップでは「サポート料」だったがオンラインでは「端末接続料」に名前を変えていた。いずれにしても35ドルの一時金はかかるようだ。

 少しでも節約効果を上げるためにApple Cardで支払いをした。Appleストアでは3%だったキャッシュバックがT-Mobileのサイトでは1%にしかならなかった。本日の支払いと端末残債のすべてをこのカードで支払うとして7.66ドルの節約効果。結局、iPhone 14 Proの購入価格は、定価が999.99ドル、下取で350ドル割引されて649.99ドル、税金と「端末接続料」の115.73ドルを足して765.72ドル、Apple Cardのキャッシュバック分を差し引くと、758.06ドルの支払い額となり、節約額は357.66ドルとなった。

最善の決断はできたのか

 何とかiPhone 14 Proの購入を完了したが、現時点における最善の決断ができたかと問われるとどうもあまりすっきりしないし、何か物足りない。金額的には各社のプロモーションで目にした割引額に比べると見劣りするが、それに伴う月額料金を考慮するとけっして悪くはない。ただ、今回利用した割引の内容はホームページなどで入手できた一般的な情報の範囲にとどまるものだった。たとえばショップに行ったらホームページにはないお得な情報が得られたとか、オンライン限定のオファーがたまたまタイミング良く利用できたとか、そういう「小さな幸せ」を伴う購入体験がなかったので物足りなく感じるのではないか。

 オンラインでもショップでも条件はまったく同じというのは、公平性という観点からはいいのかもしれないが、面白みやワクワク感がない。アメ横のように店頭で値切り交渉ができれば面白いし、うまく行ったときには達成感もあるだろうに。その一方で、オンラインでもショップと同じ条件で購入できるのは必ずしも悪いことではないという気持ちもある。最近はとりわけコロナ禍を機にオンラインで購入したいという消費者ニーズが増大している。それはスマホも例外ではない。オンラインの購入者としてはオンライン限定の好条件があれば尚良いだろうが、最低限、ショップと同条件で購入できるのであれば安心材料にはなる。各社がショップ限定のプロモーションに力を入れていないように見受けられるのもうなずける。

 もう1つ、今回のスマホ買い替えにあたってはキャリア変更の可能性も検討の対象にしたが、結局変更するには至らなかった。これも何となく達成感に欠ける気がしている一因だと思われる。10年前にはカバレッジが理由でVerizonしか選択肢がないという事態に至ったが、最近はさすがにそのような問題はなくなっている。データ速度など多少の違いはあっても、どのキャリアを選んでもそれほど不便や不都合はない状況になっている。そのような状況下で何度かキャリア変更を重ね、結局T-Mobileに落ち着いたのは、大手キャリアの中ではプランの月額料金が一番安かったことが大きな理由だ。よって、これを覆すとすれば、まずはやはり月額料金が大きな決め手となる。

 今回もそのような視点で検討した結果、他の大手キャリアは変更先の候補から外れた。ただ、最近登場したMVNOはなかなか無視できない存在になっている。大手キャリアのネットワークを格安の料金で利用できるのは非常に魅力的だ。特に料金的に有利だったVisibleとBoostが今のところ変更先の候補になっている。試しに使ってみたところでは、両社とも速度やカバレッジは問題ないどころかT-Mobileよりも良好で、しかも料金はT-Mobileよりも安い。

 今回変更の決断に至らなかったのは、両社のサービスの使い勝手や信頼性などを確かめたり、T-Mobileのサービスのさまざまな特典が使えなくなっても支障がないかどうかを確認したりするのに、もう少し時間が必要だと感じたからだ。たとえば無料の海外ローミングや機内Wi-Fi、MLBの無料ストリーミング、毎週火曜日のプレゼント、ショップで対応してくれたスタッフの好印象なども考え合わせると、即座にT-Mobileを切り捨てる気にはなれなかった。

 ショップでのスタッフの対応がT-Mobileの継続利用の1要素になっているということは、ショップにもある程度存在意義があることを示していると言える。ただ、その要素はあまり大きな重みはなく、重要なのはやはり料金やサービス内容だ。今後さらに各社のサービスの評価を継続してキャリア変更の可能性を追求することとするが、現時点での予感としては、T-Mobileはけっして安泰ではないだろうということ、そしてMVNOの存在が重みを増しつつあるということだ。

 最後に、本コラムの冒頭で記した「スマホを買うとしたらオンラインで買うのがいいか、ショップで買うのがいいか」という疑問に対する答えとしては、割引や諸費用などの購入条件はオンラインでもショップでもほとんど変わらなかったので、わざわざショップに出向く手間と費用と時間を考慮すると、「オンラインで買った方がいい」ということになる。すなわち、ショップで買うメリットは特になかったと言える。ただし、繰り返しになるが、ショップのスタッフの好印象は、少なくとも当面はT-Mobileを使い続けるという決断に多少なりとも影響を与えているので、ショップの存在意義がまったくないわけではないことを付言しておきたい。

KDDI総合研究所特別研究員 高橋 陽一

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