ぼっちでグループワークをやってみた

私は、「学ぶ」ことが好きである。仕事柄、各業界の第一人者や専門家、新たな事業に取り組む起業家、大学などの学術団体の有識者の方々が講演するイベントやセミナーに足を運んで話をうかがってきた。そうした方々に自らアプローチしてインタビューも行ってきた。また、これらの活動を通じて得られた新たな気づきや視点によって、良いアイデアが浮かばなかったり考えに行き詰まったりしたときに、私自身が助けられてきた。学ぶことを通じて視野が広がり、私自身の悩みや迷いが解消されることも経験してきた。

生成AIと一緒に学ぶ

最近、専門家や有識者に加えて、私の視野を広げてくれる新しい仲間が身近にできた。それは生成AI[1]で、私のいわゆる「壁打ち」の相手になってくれている。図表1は「コロナ禍の前後における学び方の共通点と相違点を教えてください」という私の質問に対する生成AIの回答の一例である。

図表1:質問に対する回答例
出典:筆者がKDDI AI-Chatで試行

米国では、壁打ちにとどまらず、複数の生成AIを自社のサービス・商品に関するアイデア出しの議論に参加させている企業もあるという。

『WIRED』の記事[2]によると、米国のFantasy社は、AIキャラクター「Synthetic Humans」を提供している。Synthetic Humansはチャットボットであり、ボットごとに個性を有している。これらのボットは、企業が自社の製品コンセプトなど新しい企画を考えることを支援している。

英国の石油・ガス会社であるBP社は、Fantasy社の50人のSynthetic Humansに、スマートシティのプロジェクトのアイデアについての議論に参加するように依頼した。その結果、良いアイデアがたくさん集まったという。Synthetic Humansは、議論に参加している実在の人間がより創造的になれるようにも促したとしている。

図表2:Fantasy社が提供するAIキャラクター「Synthetic Humans」
出典:Fantasy社Webサイト[3]

生成AIとグループワーク

私自身も、生成AIを用いてグループワークを試してみることにした。生成AIに架空の異なる3名の人物像を設定するように依頼し、その3名とグループワークを行うことにした(図表3)。私に学童保育の卒所を迎える小学3年生の娘がいるため、学童保育の卒所後の「小学生の放課後の過ごし方」などについて議論することにした(図表4)。その中でも、特に宿題をする習慣を身に付けることや習い事を始めることについて意見を交わすことにした。

図表3:設定した3名の人物像
出典:筆者がKDDI AI-Chatで試行
図表4:グループワークの議論の一部
出典:筆者がKDDI AI-Chatで試行

宿題をする習慣を身に付けることについて議論を進めるうちに、雑学を好む娘への学習の動機付けとして、「宿題の内容に関してゲーム感覚でクイズを出題する」といった具体的なアイデアを得た(図表5)。

図表5:グループワークの議論の一部
出典:筆者がKDDI AI-Chatで試行

娘の達成感を育み、モチベーションを維持するために、宿題を終えた後のご褒美についても議論を続けた。図表6の議論のとおり、目標達成の段階や難易度に応じて、ご褒美の内容や与えるタイミングを決めると効果的であることが分かった。

図表6:グループワークの議論の一部
出典:筆者がKDDI AI-Chatで試行

具体的な議論の内容は割愛するが、絵を描くことが好きな娘が、習い事として絵画やイラストの講座を受講することについても意見を交わした。娘自身や家族が使う実用的なものを創作させたり、親子で一緒に創作活動やアート鑑賞などの体験を共有したりすることで、娘の創作意欲が高まり向上心がかき立てられることに気づいた。

このように、今回、生成AIを用いたグループワークを試してみて、複数の人物像の多様な意見から、私自身が新たな気づきや視点を得られることが分かった。実在する参加者と同じように、生成AIがつくり出した架空の人物像の知見によって、私自身の視野を広げられる手応えも感じた。

これからの学習者

これまで、多くの人々は、専門家や有識者の知見を得ることで、自らの視野を広げて物事を多面的かつ多角的に考えることを学んできた。今後は、生成AIの伴走に助けられながら、豊かな発想を巡らしたり自らの悩みや迷いを解消したりする学習者も増えていくだろう。これまで個々に取り組むことが難しかったグループワークも、あたかも実在する周囲の仲間たちのように、生成AIと一緒に行うことができるようになってきた。専門家や有識者の知識だけでなく生成AIの知見も日々の学習に取り入れながら、ますます自己研鑽に励み、自らの成長を実感できる人が増えていくだろう。

KDDI総合研究所コアリサーチャー 田中実

◼️関連コラム
第8回 対話型AIがインターネットやパソコンの基本的UIになる時代が到来(2023-10-04)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4845

第7回 ChatGPTなどの生成AIは子供たちの教育にどう活用されているか?日本や米国の事例を紹介(2023-08-17)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4780

◼️参考文献
[1] KDDIは、ニュースリリース「社員1万人が「KDDI AI-Chat」の利用を開始」を2023年5月25日に発表した。本稿での生成AIによる試行には、KDDI AI-Chatを利用した。
KDDIニュースリリース(2023/5/25)
https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2023/05/25/6741.html

[2] WIRED「異なる“人格”をもつAIが話し合い、企業のアイデア出しをしている」(2023/10/17)
https://wired.jp/article/fast-forward-the-chatbots-are-now-talking-to-each-other/

[3] Fantasy社Webサイト
https://synthetic-humans.ai/