傘を持たずにSDGs生活をはじめませんか

 昨年、私用で東京を訪れた際、駅やホールなどの角に珍しい箱が置かれていることに気づいた。よく見てみると箱の中には10本前後のビニール傘がかかっており、月額もしくは24時間制でビニール傘を借りることが出来るサービスとのこと。コンビニや駅でモバイルバッテリーをレンタルできるサービスは目にすることが多いが、傘のレンタルサービスは全国的には珍しい。しかし、都内の他の場所ではいくつかこの傘のレンタルボックスを目にすることがあった。どれも傘は数本しか残っておらず、利用されている様子が見て取れた。

 考えてみると、筆者は折りたたみ傘をこれまで購入したことが無かった。急な雨の際はコンビニでビニール傘を買って雨をしのぐことが多いが、購入したビニール傘は気づくと無くなっていることがある。そのため、1年間で5-6本はビニール傘を買っている。

図表1 傘のレンタルボックス(筆者撮影)

 改めてビニール傘について気になり調べてみると、日本で廃棄される傘は年間約1億2000万から1億3000万本。このうち、ビニール傘は年間約6500万本にのぼり廃棄される傘の半分近くを占めている[1]。さらに、ビニール傘は材質や使われている接着剤が原因でリサイクルが難しく、廃棄に関して問題になっている。普段、何気なく購入しているビニール傘だが、自分の見えないところで大きな問題になっていることに驚いた。今回はそんなビニール傘の廃棄問題に取り組む、サブスクサービスや、意外と知らない傘の歴史や世界の人々との使用する傘の違いについて紹介したい。

傘の歴史

 普段何気なく使用している傘だが、その歴史は古い。絵巻物『一遍聖絵』(一遍聖人絵詞)には、既に傘が描かれており、鎌倉時代から傘が使用されていたとされている[2]。現代に至るまでに、傘は雨や日差しを除ける機能を高めつつ、傘自体の強度を上げるために、材質を木から金属、紙から布へと進化させてきた。もともと傘は、家財道具として大切に家庭で管理されてきた。しかし、高度経済成長期以後、ビニール傘が登場したことで、安価に大量生産が可能となり、家財道具としての立場から日用品として変わることになった。

日本と世界の人々の使用する傘の違い

 日本でビニール傘の廃棄が多い原因としては、ビニール傘の利用率の高さも大きく影響している。ウェザーニュースが行った調査によると[3]、世界の人々がもっとも利用している傘の種類は「折りたたみ傘(55.0%)」に対し、日本ではわずか21.0%と低い。逆にビニール傘は世界の平均5.0%に対し日本では22.0%と高い。

 また、株式会社プラネットの「傘に関する意識調査」[4]のデータでは、男女間や年齢でも選択する傘に違いがあることが示されている。「降水確率が何%以上なら、傘を持って出かけようと思いますか」という問いに対し、「降水確率にかかわらず、常に持ち歩いている」と回答した割合は、男性は18.2%、女性は9.0%と男性の約2割は常に傘を持ち歩いている。一方、女性は天気予報で降水確率を見ながら傘の所持の有無を決めていると推測される。他にも、「どのタイプの傘をよく使いますか」という問いでは、ビニール傘を選択した割合が女性24.2%に対し、男性39.0%と、男性が14.8ポイントも高く、中でも年齢が若い20代、30代の男性がビニール傘を選択している。

 筆者も現在20代であるが、折りたたみ傘を購入したことはこれまで一度も無く、ビニール傘をメインで使用している。理由としては、折りたたみ傘は荷物を圧迫することに加え、ビニール傘と比べてサイズが小さいので雨に濡れてしまうからである。さらに、ビニール傘がどこにでも売っているので、必要な場合すぐに購入できてしまうことが大きい。

 こうした傘を比較的安価にどこでも購入できるという環境や安心感がビニール傘選択率に影響を与えているのではないかと考えられる。

中国のシェアリングサービス市場

 ビニール傘の廃棄問題の解決につながる傘のシェアリングサービスは、もともとは中国で提供されはじめたサービスだ。また、中国はシェアリングサービスの市場が大きく、中国共享経済発展報告(2021)[5]によると、2020年のシェアリングエコノミーの市場規模は3兆3,773億元(日本円で約60.5兆円)となっている。人口の差が10倍程度ある日本と中国だが、日本のシェアリングエコノミーの市場規模2兆6,158億円[6]と比較すると約20倍以上の差がある。

 また、中国では日本同様にモバイルバッテリーや傘、自転車だけでなくバスケットボールや昼寝部屋など様々なモノがシェアリングサービスの対象として広がっている。この様に、中国国内でシェアリングエコノミーの市場規模が拡大している要因には、キャッシュレス決済の普及率や政府による支援などがあげられる。一般社団法人シェアリングエコノミー協会が2023年に行った調査[7]によると、キャッシュレス決済比率は日本32.5%に対し中国は83.8%とキャッシュレス決済の普及率は高い。キャッシュレス決済はクレジットカードやスマートフォン一つで簡単に支払できる利便性に加え、決済の自動化や無人化ができ、さらに決済データを活用しサービス改善につなげることができるため、シェアリングサービスとの親和性が高い。また、2016年には就業促進効果や資源の有効活用を目的にシェアリングエコノミーが政府活動報告書に盛り込まれ政策や規制の整備を行うなど、企業が様々なシェアリングサービス開発にチャレンジしやすい土壌が整っている。

環境問題解決につながる傘のシェアリング

 日本では、ビニール傘の廃棄、リサイクル問題の解決に取り組んでいる企業、ブランドがいくつかあるが、ここでは二つ紹介する。冒頭に紹介した傘のシェアリングサービス「アイカサ」は、株式会社Nature Innovation Groupが展開している傘のシェアリングサービスである。主なサービス内容はビニール傘のレンタルで、1回140円で24時間ビニール傘のレンタルができる。返却は借りた場所だけではなく、鉄道会社・オフィスビル・大学・商業施設をはじめとする多くの場所に設置されているレンタルスポットでよい。レンタル費用は、ビニール傘の購入費用と比べてかなり安価であり、また様々な場所にレンタルスポットがあるため気軽に利用できる。「アイカサ」を利用するとビニール傘を自分で購入する必要がなくなり、結果的にビニール傘の廃棄量削減に貢献できるようになる。

図表2 傘のシェアリングサービス「アイカサ」価格表
出典:アイカサHP[8]より筆者作成

 また、「アイカサ」でレンタルしている傘のうち、2〜3割が「日傘」としても活用できる。この傘の遮光・遮熱性能は90%以上である。昨今、酷暑の影響もあり、筆者の周りでも日傘をさす男性が増えている印象がある。人気ファッションオンラインサイト「ZOZOTOWN」で「日傘」と検索すると、男性向けの商品で1,808件、女性向けの商品で5,415件[9]と男性向けの商品も多い。これまで日傘を使ったことが無いという男性の方であっても、「アイカサ」で気軽に日傘をレンタルすることが出来る。

 もう一つは、傘の廃棄問題だけでなく、リサイクル問題にも取り組むアップサイクルブランド「octangle」。「octangle」では駅やショップに忘れられたり捨てられたりしているビニール傘を独自ルートで回収し、選別・分解・洗浄し、専用のプレス機で再生素材へと加工を行う。そして、その素材を使用してバッグや傘ケースなど新たなプロダクツに作り変え販売している。前述した通り、素材の特性上ビニール傘のリサイクルは難しく、多くのビニール傘はリサイクルされず埋め立てられているが、このような企業やブランドが増えれば問題解決の糸口になる。

図表3 廃棄されたビニール傘を使用した製品「Trapezoid bag」
出典:octangle公式オンラインストア[10]

購入するのではなくシェアすることを当たり前にする

 昨今、SDGsに取り組む企業は増えており、世界的にもSDGsへの関心は年々高まっている。SDGsは企業だけが取り組む目標ではなく、一人一人の個人も取り組むべき目標でもあり、傘の購入からレンタルへ習慣を変えることも、目標達成に向けて重要な取り組みとなる。
また、今回紹介したサービスやブランド以外にも環境保護につながる便利なサブスクリプションサービスやアップサイクルブランドは近年増えており、家電や洋服、家具など様々なモノを購入せずにレンタルする選択肢が広がり、廃棄されるものが再利用されることで新たな価値に気づく機会も増えている。
今後、環境問題解決に向けて、従来の購入するという習慣から、シェアするという習慣へ変化していくことが重要である。

 しかし、今回紹介したサービス含め、多くのサービス認知度はまだまだ低く、今後のサービスの拡充と共に知名度向上が必要となる。そのためにも、サービス提供者による働きかけに加え、サービス利用者自身が、利用して終わりではなく、積極的にサービスを周りの人に紹介し、シェアすることが大切となるのではないだろうか。あなたも傘を持たずにSDGs生活をはじめてみませんか?

KDDI総合研究所コアリサーチャー 中田好亮

■関連コラム
サブスクトレンド2023番外編〜実店舗を伴うサブスクの共通課題(2024-01-11)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4966

サブスクトレンド2023 〜「所有しない」価値観だけではない、家具家電サブスクを押し広げるもう1つの理由(2023-09-22)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4808

■参考文献
[1] 日本洋傘振興協議会 https://www.jupa.gr.jp/

[2] ミツカン水の文化センター 機関紙「水の文化50号」雨に寄り添う傘
https://www.mizu.gr.jp/kikanshi/no50/02.html

[3] 株式会社ウェザーニュース「Global Umbrella Survey」
https://weathernews.jp/smart/umbrella_survey/result/

[4] 株式会社プラネット「傘に関する意識調査」
https://planet-van.co.jp/shiru/from_planet/vol86.html

[5] 中国共享経済発展報告(2021)https://www.ndrc.gov.cn/xxgk/jd/wsdwhfz/202102/t20210222_1267536.html

[6] シェアリングエコノミー協会「シェアリングエコノミー市場調査 2022年版」
https://sharing-economy.jp/ja/20230124

[7] 一般社団法人キャッシュレス推進協議会「キャッシュレスロードマップ2023」
https://paymentsjapan.or.jp/publications/20230816_roadmap2023/

[8] アイカサHP https://www.i-kasa.com/

[9] 2024年1月27日検索時点

[10] octangle公式オンラインストア https://www.octangle.jp/