サブスクトレンド2023
〜「所有しない」価値観だけではない、家具家電サブスクを押し広げるもう1つの理由

家具家電サブスクが隆盛、よく言われる背景は「ものを持たない価値観」の台頭

家具や家電のサブスクを使う人が増えている。家電サブスクサービスの「レンティオ」では、月間利用者が4万人(2021年2月)[1]から12万人(2023年5月)[2]に伸びている。

また、2022年3月のナイルの調べでも、長期リース型のサブスクの中で最も利用者が多いジャンルが家具家電となっている。

【図表1】長期リース型のサブスクで最も利用者が多いのが家具家電
出所:ナイル(車サブスクサービス「カルモ」の運営会社)

家具家電のようなモノのサブスクが増えている背景としてよく語られるのが、「所有」から「利用」へという若者を中心に見られる人々の価値観変化だ。モノを購入し所有するのではなく、毎月利用料を払って利用する新しいスタイルだ。確かにこれも背景の1つだ。

企業もサステナビリティ重視でサブスクシフトを始めた

しかし、家具家電サブスクの拡大の背景にはもう1つの大きな理由がある。企業がサステナビリティの観点からサブスクに力を入れるようになったのだ。

販売ではなくサブスクの形態なら、1つの商品を様々なユーザーの間でシェアするような使い方ができるため、原理的に世の中の廃棄の数を減らせる。またサブスクの提供企業が商品の管理をするため、商品が役目を終えた際にも適切なリサイクルや廃棄ができる。不法廃棄の心配もない。

今や国内でもあらゆる企業が廃棄物削減やCO2削減を掲げるようになった。また、もの作りをしているメーカーに対しては、売って終わりではなく、商品の廃棄までのプロダクトサイクル全てに責任を持つべき、という見方が世界的に大きくなってきている。これは、「拡大生産者責任」と呼ばれ、先進諸国を中心に、各種メーカーの事業活動を見直す議論の土台になりつつある。

こうした背景から、企業側もサブスクシフトに積極的になってきているのだ。具体的な事例を見ていこう。

家具事業のサブスクシフトを宣言した無印良品

無印良品(以下、無印)は2021年1月より家具のサブスクサービスを開始し、その後もサービス内容を拡充している。商品とプランによって月額料金は異なり、例えば、足付マットレス(シングルベッド)を4年プランで利用すると料金は700円/月だ。契約期間満了後に返却された家具は、パーツ交換やメンテナンスが施され、再度サブスクで利用されたり、中古品として販売されたりする。

【図表2】無印良品の家具サブスク
出所:良品計画

そして、注目すべきは2022年12月の同社の以下の宣言だ。

地球環境対応を含む、未来に向けた生活や商品の在り方を考え、「家具の月額定額サービスの本格化」(中略)を行うことといたします。

(中略)将来的に家具については販売中心のビジネスモデルから月額定額サービスモデルへの転換を目指します。[3]

つまり、家具事業の軸足を「販売」から「サブスク」へシフトさせ、「家具は引き継がれる」があたりまえの社会を目指すというのだ。無印といえば、ニトリに次ぐ国内シェア2位の家具メーカーでもある。この出来事はあまり脚光を浴びていないが、実はとても大きな変化ではないかと考える。

パナソニックも賃貸住宅向け家電サブスクで家電廃棄を削減へ

無印の家具サブスクが始まったのと同じ2021年1月、パナソニックは賃貸住宅向けの家電サブスク事業「noiful(ノイフル)」を開始した。これは、賃貸物件のオーナーに同社の家電パッケージをサブスク提供することで、「先進家電が備えつけられた賃貸物件」を実現するサービスだ。家電の設置や、入居者からの家電に関する問い合わせ、修理・交換、退去後の家電クリーニングを、基本的に全て無料で同社が対応する[4]

【図表3】賃貸住宅向けの家電サブスク「ノイフル」
出所:イタンジ

同社がこのサービスで解決しようとしている社会課題の1つが「家電廃棄の削減」だ[5]。人々のライフステージや家族構成の変化のタイミングでまだ使える家電が捨てられている。メーカーとしてそこにも責任を持ちたいという考えがスタート地点の1つになった。まさに前述の「拡大生産者責任」の考え方だ。ノイフルであれば、たとえば結婚を機に物件を退去する人がいても、そこにあった家電はクリーニングが施されたのち、引き続き別の入居者のために使われる。同社は家電の新たな循環スキームの構築を目指しているという。

なお、賃貸住宅や分譲マンション向けの家具家電サブスクサービスはこれ以前にも他社が提供しているが、どれも訴求ポイントは「初期費用がかからない」や「暮らしにあったモノを選べる」といったものだ。今後はこういったサービスでも「サステナビリティ」が主眼に置かれるように変わっていくのではないか。

法人顧客のサステナブル志向で成長するサブスクライフ

家具家電サブスクサービスの「サブスクライフ」。2022年3月、その運営企業の社名が「サブスクライフ」から「ソーシャルインテリア」に変わった(サービス名称は「サブスクライフ」のまま)。企業名から「サブスク」の文字がなくなり、「ソーシャル(社会性)」が掲げられたのにも理由がある。

現在、「サブスクライフ」サービスの顧客の大部分は法人となっており、その法人顧客のサステナビリティ志向がサービスの追い風になっているという。つまり社名変更は、この潮流変化を好機ととらえ、さらに事業を拡大しようという意気込みの現れである。ソーシャルインテリア社長は現状をこう語る。

大手企業を中心に家具の廃棄を減らしたいという意向が強まっている。当社は家具の提案からファイナンス、回収、処理まで提案できる。家具の廃棄を減らすため、1社で全てを回せるのは日本には他にない。[6]

企業がオフィス家具を調達する際にも、環境負荷を気にするようになった。購入した家具はいずれ廃棄することになるが、サブスクなら自社での廃棄を避けられる。顧客企業はこれを「環境的な取り組み」の一環として世の中や株主に対してアピールできるというわけだ。実際に、サステナビリティを気にする大企業との契約が増えてきているという。[7]

【図表4】家具家電のサブスクの「サブスクライフ」
出所:ソーシャルインテリア

事業に帯びはじめた長期視点での社会性

家具家電のようなモノのサブスクは、音楽や映像のようなデジタルコンテンツのサブスクとは異なり、モノを扱うサービスならではのハードルがいくつもある。配送、在庫管理、修理・メンテナンス、クリーニング、破損・盗難リスクなどなど。その上、というか、それゆえに、というべきか、デジタルコンテンツのサブスクのような高利益が期待できるわけでもない。そもそも、販売からサブスクにシフトすれば、売上はユーザーから得る月額料金となり、それまで販売時にドカンと入ってきていた商品売上はなくなる。よって短期的には売上も減少する。

それでも企業が家具家電サブスクを目指し始めているのは、将来のあるべき社会の姿(この場合「廃棄が少ない世の中」だろうか)を描き、そこからバックキャストする形で今の事業を考えているからだろう。サブスクシフトに伴う困難や短期的な売上の減少リスクがあっても、あるべき社会を目指す。企業の事業に長期視点での社会性が帯びはじめていることは価値ある変化だ。

循環経済に参加する「喜び」消費

企業サイドにおけるサステナビリティを起点にしたサブスクシフトを述べてきたので、最後に、この潮流に関する一消費者視点での所感を付け加えておきたい(N=1の意見です)。

私も、このコラムを書きながら、レンティオで掃除機のサブスクを始めてみた。そして新品ではなく、あえてリユース品を選んでみた(安いからというのもある)。結果、今のところ大満足である。特に意外だったのが、循環経済に参加したことによるものなのか、心地よさを感じる点だ。また、リユース品への心理的抵抗もなくなった。

このような、循環経済に参加する「喜び」という価値があるのかもしれない。リユース品への心理的障壁に対してもこの「喜び」が勝り解消してくれはしないか。それがモノのサブスクの起爆剤になっていく可能性はないか。これは別の機会に論じたい。

KDDI総合研究所コアリサーチャー 沖賢太郎

◼️関連コラム
サブスクトレンド2023 〜車メーカーがソフトウェアサブスクで稼ぐ時代(2023-08-24)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4787

サブスクトレンド2023 〜世界の通信キャリアが志向し始めた「サブスクポータル」ポジション(2023-07-14)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4734

◼️参考文献
[1] リサイクル通信「レンティオ、三輪謙二朗社長インタビュー」(2021年03月17日)
https://www.recycle-tsushin.com/news/detail_5785.php

[2] レンティオ(2023年5月)
https://www.rentio.jp/about_us

[3] 良品計画ニュースリリース ”一部商品の価格改定 ならびに 月額定額サービス本格化、リサイクル・リユース本格化のお知らせ”(2022年12月26日)
https://www.ryohin-keikaku.jp/news/pdf/20221226_Price_Revision_Monthly_Flat-rate_Service_Recycle_and_Reuse.pdf

[4] 家電サブスクに加えて、それら家電が調和するような空間に物件をリノベーションするサービスもあり。生活導線上に家電を収まりよく配置していくことで、快適さを提供する。こちらのサービスでは賃貸物件管理もパナソニックグループが行う。

[5] 東洋経済 “パナソニック「賃貸向け」家電サブスク開始のワケ”(2023/03/16)
https://toyokeizai.net/articles/-/654632

[6] Business Insider “月額家具のサブスクライフが「SDGsごり推し戦略」。22億円調達と社名変更でイメージ刷新”(Mar. 22, 2022)
https://www.businessinsider.jp/post-251951

[7] 同上