サブスクトレンド2023
〜車メーカーがソフトウェアサブスクで稼ぐ時代

車サブスクが減り、車の「機能」サブスクが増えている

車サブスクのサービスが減っている。購入せずに月額制で車に乗れるあの車サブスクだ。図表1に、車サブスクから撤退した主な車メーカーをリストアップしてみた。

図表1 車サブスクから撤退した主な車メーカー
出所:各種ソースを基に筆者作成

撤退理由としてGMは「コストが想定以上にかさんだ」と言及していた[1]。他のメーカーは撤退理由を明らかにしていないが、収益性が低いビジネスは続かないというビジネスの原則から察するに、まあ「そういうこと」なのかもしれない。

一方で、車メーカーによる車の「機能」サブスクの提供が増えている。

注)各サブスクの提供状況や価格は国によって異なる
図表2 車の「機能」サブスクの提供に注力し始めた車メーカー
出所:各種ソースを基に筆者作成

ほかにも、トヨタが2022年1月に開始した車の機能アップグレードサービス「KINTO FACTORY」では、ブレーキ制御のソフトウェアアップグレードなどを販売している。現在は単品販売の形式だが、将来的にはサブスクでの提供を目指している[2]

車分野のサブスクは「車サブスク」から「機能サブスク」へ軸足が移りつつあるようだ。そして、図表2を見てわかるように、機能サブスクの多くはソフトウェアによるものだ。

ソフトサブスク増加の背景は車自体のソフト化

なぜ車分野でソフトサブスクが増えているかといえば、背景にあるのは車自体のソフト化だろう。車の開発ではハードウェアからソフトウェアに比重が移りつつある。この傾向は以前からあるものだが、近年の自動運転化やEV化がそれに拍車をかけている。車メーカー各社はソフトウェアエンジニアの採用を増強しており、トヨタは近年「ソフトウェア・ファースト」を掲げるに至っている。

ソフトが車の核になっていくなら、車にまつわる様々な制御がソフトで可能になる。そうなれば、それらをサブスクによってサービスとして提供しようという発想に行き着いても不思議ではない。

車メーカーがソフトサブスクで稼ぎ始めた

車メーカーはすでにソフトサブスクで稼いでおり、将来展望もスケールがでかい。

GMは2021年、OnStar(車両へのリモートアクセス、車両自己診断、事故自動検知など)を含むサブスク売上が20億ドルを超えた。同社はこの数字が2030年末までに250億ドルに増加すると予想している[3]。ここ10年の同社の総売上は1,400億ドル前後で横ばい推移を続けている。粗い皮算用だが、仮に2030年の売上も同水準だとすれば、売上に占めるサブスク比率は約1%(2021年)から約18%(2030年)になる。なお、250億ドルという規模は、NETFLIXの2020年の売上(249億ドル)と同レベルだ。動画領域のテックジャイアントと同じ売上をサブスクで叩き出そうというのだ。

また、米新興EVメーカーのリヴィアンは「車両1台が寿命を終えるまでにもたらすソフトサブスクの収益は15,500ドル」と試算する[4]。その内訳は、自動運転ソフトが10,000ドル、その他のソフトサブスクが5,500ドル。後者はインフォテインメント、インターネット接続、自己診断機能などだ。

図表3リヴィアンのEVピックアップトラック
出所:ウィキメディア・コモンズ

さらにアグレッシブな予想もある。モルガン・スタンレーによれば「テスラはいずれ、ソフトサブスク収入が車両販売収入を超える可能性がある」という[5]。テスラは他社に先駆け自動運転ソフトのサブスクの提供を始めている。自動車産業全体が完全自動運転を目指していることを考えれば、同社のソフトサブスク収入の比率が高まっていくのは間違いなさそうだ。

アップルにソニー~メーカーがサブスクを目指すことは珍しくない

実は、モノを作って売っているメーカーがサブスクを目指すケースは意外と多い。その大きな理由の1つは「経営の安定化」だ。販売数によって業績が上下する物販事業よりも、継続収入が期待できるサブスク事業の方が売上と利益は安定する。メーカーによるサブスクシフトの事例として有名なのがアップルとソニーだ。

元来ハードの企業であるアップルは、近年サービスシフトを加速している。同社のサービス事業の中核になっているのは音楽・動画配信やゲームなどソフトのサブスクだ。2022年度には売上に占めるサービス事業の比率は約20%に、粗利益(gross margin)における同比率は約33%になっている。2023年4〜6月期には、有料サブスクの加入件数が10億を突破した[6]。デバイス販売で伸び悩む局面があったとしても、毎月10億件からのサブスク収入がアップルの経営を下支えする。

同じくソニーも近年リカーリング(継続課金≒サブスク)ビジネスへの転換を標榜している。同社の場合、ゲームや音楽・動画配信などをサブスクで提供している。また、そもそもソニーグループを長年支えているのは実は金融事業の生保事業(サブスク)だ。2014年にモバイル事業が2,000億円超の赤字を出したときも、金融事業がそれを相殺するくらいに稼ぎ、ソニーグループを支えた。サブスクは経営を安定化させるのだ。

そして、サブスクの威力を熟知するこの両者は奇しくもEV参入も目指している。

車ビジネス全体が変わっていく

車メーカーがハード(車両)だけでなくソフト(サブスク)で稼ぐ時代に向かっている。そうなると車のビジネスも変わりそうだ。

例えば車の売り方。車両販売後にサブスクによってユーザーから継続的に収益を得られるなら、車両販売価格を安くできる可能性がある。ハードを普及させた後で、ソフトで稼ぐという、様々な業界でおなじみのパターンだ。

また、ドライバーや利用シーンに合わせて車の機能をソフトで変更することも可能になる。免許を取りたての子供が運転するようになったから、ドライビングアシスト機能のグレードを上げる、といったように。また、旅行期間だけドライビングアシスト機能を利用するなど、サブスクの期間も細かく設定できるようになるかもしれない。保険会社が1day保険などを提供し始めたのと同じような感じだ。これらの契約のためにユーザーはディーラーに足を運ぶ必要はなく、スマホから簡単に設定できるようになるだろう。車メーカーとしてもスマホをユーザー接点として今以上に活用できるようになる。

世の中のサブスクにはブームで終わるものも少なくない。しかし、車のソフト化をふまえれば、今のソフトサブスクは一過性のものではなく、車ビジネスの基盤の一つになっていくかもしれない。

KDDI総合研究所コアリサーチャー 沖賢太郎

◼️関連コラム
サブスクトレンド2023 〜世界の通信キャリアが志向し始めた「サブスクポータル」ポジション(2023-07-14)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4734

◼️参考文献
[1] Wall Street Journal “Cadillac Cancels $1,800-a-Month Car-Subscription Service”(Nov. 2, 2018)
https://www.wsj.com/articles/cadillac-cancels-1-800-a-month-car-subscription-service-1541174837

[2] トヨタ自動車 ”新サービス「KINTO FACTORY」を本日より開始”(2022年01月28日)
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/36815792.html

[3] https://www.theverge.com/2022/7/13/23206999/car-subscription-nightmare-heated-seats-remote-start

[4] リヴィアン財務報告書(October 1, 2021)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1874178/000119312521289903/d157488ds1.htm

[5] https://electrek.co/2021/07/20/tesla-tsla-could-make-more-money-from-software-subscription-than-hardware/#:~:text=Morgan%20Stanley%20believes%20Tesla%20%28TSLA%29%20could%20end%20up,%2410%20a%20month%20for%20its%20%E2%80%9Cpremium%20connectivity%E2%80%9D%20features.

[6]Apple “Apple reports third quarter results”(August 3, 2023)
https://www.apple.com/newsroom/2023/08/apple-reports-third-quarter-results/