第7回 ChatGPTなどの生成AIは子供たちの教育にどう活用されているか?日本や米国の事例を紹介

 文部科学省は7月4日、小・中学校や高校における生成AI(ChatGPTやBing Chat、Bardなど)の取り扱いについて暫定的なガイドラインを発表した[1]

 それによれば、生成AIの教育利用の方向性として「生成AIがどのような仕組みで動いているかという理解」や「生成AIを使いこなすための力を意識的に育てていく姿勢」などを打ち出している。

 その一方で、「生成AIには個人情報の流出や著作権侵害のリスク、偽情報の拡散、批判的思考力や創造性、学習意欲への影響など様々な懸念も指摘されている」として適切な注意も喚起している。

 これらのリスクや懸念に十分な対策を講じられる学校で、まずは試験的に取り組むことが適当であるとしている。

  • 具体的な活用事例としては:
  • 「教師が⽣成AIが⽣成する誤りを含む回答を教材として使⽤し、その性質や限界等を⽣徒に気付かせること」
  • 「グループの考えをまとめたり、アイデアを出す活動の途中段階で、⽣徒同⼠で⼀定の議論やまとめをした上で、⾜りない視点を⾒つけ議論を深める⽬的で活⽤させること」
  • 「英会話の相⼿として活⽤したり、より⾃然な英語表現への改善や⼀⼈⼀⼈の興味関⼼に応じた単語リストや例⽂リストの作成に活⽤させること、外国⼈児童⽣徒等の⽇本語学習のために活⽤させること」

などを挙げている。

  • 一方、不適切な活用事例としては:
  • 「⽣成AI⾃体の性質やメリット・デメリットに関する学習を⼗分に⾏っていないなど、情報モラルを含む情報活⽤能⼒が⼗分育成されて いない段階において、⾃由に使わせること」
  • 「(夏休みの読書感想文など)各種コンクールの作品やレポート・⼩論⽂などについて、⽣成AIによる⽣成物をそのまま⾃⼰の成果物として応募・提出すること」
  • 「定期考査や⼩テストなどで⼦供達に使わせること」

などを挙げている。

日本の小学生の1割以上はChatGPTを利用していると見られる

 こうした中、既に子供や親達の間では生成AIの利用が始まっている。

 教育サービス大手のベネッセコーポレーションは今年6月、全国の小学3年生から6年生とその保護者1032組に「ChatGPTの利用に関する意識」を知るためのアンケート調査を実施した。

 それによれば、調査対象となった子供たちの約2割が「ChatGPTを知っている」と回答(図1)。「知っている」と答えたうちの約7割が「(ChatGPTを)使っている」と回答した(図2)。つまり全体の14パーセント程度はChatGPTを使ったことがあると見られる。

 これら子供たちの回答は、保護者が子供に質問する形式で聴取している。

図1 お子様はChatGPTについて知っていますか(有効回答数N=1032人)
出典:ベネッセ「ChatGPTの利用に関する意識調査」(以下、同じ)

https://blog.benesse.ne.jp/bh/ja/news/education/2023/07/13_5991.html

図2 お子様はChatGPTをどのくらい使っていますか(N=205人)

 使ったことのある子供たちの約8割は「(ChatGPTを)たくさん使いたい」「少し使ってみたい」など、その利用に肯定的。逆に「使いたくない」など否定的な意見は全体の約1割に止まった(図3)。

 一方、保護者では6割が肯定的、約3割が否定的な意見だった。

 またChatGPTの用途については、親子共に「好きなことについて調べる」「学習での疑問解決」などが上位に挙がった。

 さらに、ChatGPTを使うときに注意すべきこととしては、やはり親子共に「正しい情報かどうかを確かめる」「個人情報は入力しない」「ChatGPTが書いた文章をそのまま使わない」などが9割前後を占めた。

 これらの調査結果を受けて、ベネッセでは生成AIを活用して小学生の夏休みの自由研究を支援する無料サービスを開始している[2]。パソコンやスマホから自分の興味があることなどを伝えると、生成AIが研究テーマや調べ方についてアドバイスしてくれるという。

図3 (子供に対し)ChatGPTを今後どのくらい使ってみたいですか(N=205人)

米国ではChatGPTの利用禁止から利用推奨へと一転するケースも

 一方、ChatGPT(OpenAI)を生み出した米国ではどうだろうか?

 米国の教育省(U.S. Dept. of Education)は「生成AIの教育への活用」について、日本の文科省が出したような一律の指針は打ち出していない。元々、同国の教育制度は連邦政府(中央政府)ではなく、州政府をはじめ地方の行政機関によって運営されており、教育内容やそれに関する規制なども地方によってかなり異なる。

 ChatGPTが注目を集め始めた今年初めから、米国では子供たちが宿題の作文やクイズ(小問題)などをChatGPTにやらせて、それを提出する不正利用が目立ち始めた。これを受け東海岸のニューヨーク市や西海岸のシアトル市などでは、公立の小中学校や高校などで校内のパソコンやインターネットからChatGPTを利用することを禁止した。

 ただし子供たちが自宅のパソコンや手持ちのスマホなどからChatGPTを使うことまで禁止することはなかった(禁止しようとしても、物理的に不可能だろう)。

 当時、ニューヨーク市の教育局は「ChatGPTを使えば様々な疑問に対する回答を素早く容易に得られるかもしれないが、他方で学業や人生で成功するための批判的な思考や問題解決などの能力育成を阻害する恐れがある。また(ChatGPTから出力される)コンテンツの安全性や正確性に対する懸念もある」とする見解を公にした。

 しかし、それからしばらくして今年5月、ニューヨーク市では校内におけるChatGPTの利用禁止措置を撤回した。

 「この画期的テクノロジーについて学び、探求することを奨励する」とするコメントを出すなど、一転してChatGPTを積極的に活用する方向性を打ち出した。

正解の代わりにヒントを教える

 一方、西海岸にあるシリコンバレーの一角パロアルト市や東海岸ニュージャージー州ニューアーク市の小中学校などではオンライン教育団体「カーン・アカデミー(Khan Academy)」が開発した「Khanmigo」と呼ばれるチャットボット(対話型AI)を子供たちの教育支援用に試験導入している(図4)。

 子供たちが数学やコンピュータ・サイエンス、作文など様々な教科で質問すると、Khanmigoはそれらの問題を解くためのアドバイスなどを返してくる。しかし子供が正解を求めても「自分で考えることが重要」として、ヒントや正解への筋道だけを返してくるという(図5)。

 また子供とチャットボットの一連の会話は60日間に渡って保存されており、教師や親がそれらの内容をチェックできるという(図6)。

 ただ、実際に教室で子供たちにKhanmigoを使わせてみたところ、本来ヒントを返すべきところなのに正解を返してしまうケースも見受けられるなど、今後の改良も必要とされているようだ[3]

 そもそも自宅での自習用ならともかく、教師のいる教室でKhanmigoのような対話型AIを導入する必要性はあるのかという疑問も聞かれるが、「子供たちが自分のペースで学ぶには、こうしたチャットボットが効果的だ」との意見もある。いずれにせよ、今はあくまで試験的に導入して、その結果を見てから最終的な決定を下す計画と見られる。

 その際、問題になりそうなのが導入費用だ。カーン・アカデミーは非営利団体だが、こうした対話型AIには相当の開発費がかかるため、全ての学校に無料で提供するというわけにはいかないようだ。仮に親の所得水準が高い地域の学校だけで利用可能となってしまうと、この種のツールが教育格差を助長する事にもなりかねないとする懸念も聞かれる。

 

図4 子供たちの自習用に開発された対話型AI「Khanmigo」
出典:https://www.khanacademy.org/khan-labs (以下、同じ)
図5 子供が正解を求めても、正解の代わりにヒントや筋道等を教える。
図6 子供とチャットボットの会話記録は60日間保存され、教師や親がチェックできる

KDDI総合研究所リサーチフェロー 小林 雅一

◼️関連コラム
第6回 日本企業のChatGPT利用率は7パーセント、軽率な利用には危険性も(2023-6-21)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4683

第5回 グーグルやBingなどの検索エンジンは対話型AIの導入でどう生まれ変わるか(2023-5-22)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4368

第4回 ChatGPTなど生成AIは私達の仕事や雇用をどう変えるか(2023-4-10)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/1276

◼️参考文献
[1] https://www.mext.go.jp/content/20230704-mxt_shuukyo02-000003278_003.pdf

[2] https://benesse.jp/contents/jiyukenkyuouen/#content01

[3] “In Classrooms, Teachers Put A.I. Tutoring Bots to the Test,” Natasha Singer, The New York Times, June 26, 2023