撤退や停滞が多い「実店舗を伴うサブスク」
このコラムのサブスクトレンドシリーズでは、サブスクの潮流変化にスポットを当ててきた。今回と次回は少し趣向を変えて、恒常的に存在するサブスクの課題に注目してみようと思う。変化するものもあれば、しないものもある。両方をおさえることでサブスクマスター(?)に近づける気がする。
今回取り上げたいのは「実店舗を伴うサブスクの課題」だ。該当するサブスクサービスを図表1にまとめた。タイプ1、2ともに撤退や停滞が目立つ。
タイプ1の「回数券型サブスク」は、異なる提供主体の店舗を横断的に利用できるものだ(図表1)。飲食店を対象にしたサブスクなら、サブスクプラットフォーマーが一軒一軒の飲食店等を募ってサブスクサービスとして提供する。今回はこのタイプ1をメインの題材として、何が難所となっているのかを考えたい。
なお、タイプ2の「○○放題型飲食店サブスク」は、一社提供による○○放題サービスだ。このタイプのサブスクは、そもそも価値を提供し利益を出すことを目指しておらず、宣伝という意味合いが強かった。様々なメディアで話題になるので、仮に赤字だったとしても、宣伝効果が期待できた。赤字分は宣伝広告費と考えれば成立するため、一時はこの種のサブスクがたくさん登場した。しかし、サブスクブームも落ち着いた今、そのような宣伝効果はもう期待できない。それもあってか、近年このタイプのサブスクはめっきり減った。
実店舗を伴うサブスクの共通課題は2つ
サブスクとは、ユーザーとの継続的かつ直接的な関係性の中で価値を提供し続けるサービスである。タイプ1のサブスクは、異なる提供主体の施設を横断的に利用可能とすることで、①継続的に価値を提供する、利用者の側からいえば「いろいろな施設を使えて楽しい」「どんどん新しい施設を使ってみたい」、そう思えるようなサービスでなければ続かない。さらに、そういう利用者の意向を満たし続けるには、②新たな施設を取り込み続けていくことが必要である。このことが、実店舗を伴うサブスクの存在意義であり、同時に課題となっている。
この2つを順番に説明していこう。
①継続的な価値提供
1つ目の課題は、実店舗を伴うサブスクでどのようにユーザーにとっての「継続的な価値」を作っていくかだ。
ユーザー視点で考えれば、何が難所となるのかわかりやすいかもしれない。これらサブスクは基本的に「前払い」であるため、利用者は、元を取るためにサービスの対象店舗にがんばって通い続けることになる。別の選択肢を選びたい時もあるだろうが、すでに払っているお金を考え、対象の店舗を目指す。だんだんと、疲れてくるし、しょっちゅう同じような場所に通う固定的な毎日にもなってくる。そして飽きる。やめる。
いかにユーザーへの「継続的価値」を設計していくか
では、サービス提供側にはどういう対策が考えらえるか。サブスクの本質に立ち返って考えよう。サブスクとは「ユーザーに継続的に価値を提供し続ける」サービスであった。いかにして継続的な価値提供をしていくか、平たく言えば、いかに飽きないサービスにしていくか、が肝となる。事例としてテイクアウトサブスクのポットラックの取り組みがシンプルでわかりやすい。
ポットラックは選択肢を増やして継続的価値を追求
ポットラックは提携飲食店を増やし、ユーザーが様々な飲食店のテイクアウトを楽しめるようにしている。こうしてユーザーの「飽き」を回避し、継続的な価値提供につなげているのだ。1種類の店舗で提供できる価値には、バラエティという観点で限界がある。だから、様々な店舗を横断的に利用してもらい多様な価値を体験してもらう。この種のサブスクの真骨頂だろう。図表3のように、多種多様な飲食店の食事を選べたら楽しいしワクワク感もある。
②新たな施設を取り込み続けていくこと
しかし、ここで出てくるのが2つ目の課題「新たな施設を取り込み続けていくこと」だ。前述のポットラックのような施策が可能なエリアは、ユーザー1人の生活動線上にいくつも飲食店があるような飲食店の密集地に限定される。実際にポットラックの主要エリアも新宿、渋谷、恵比寿といった飲食店の密集地であり、それ以外の地域での提携店は少なくなる(図表4)。
多くの飲食店と提携してサービスのラインナップを拡充することは、日本全国ではできない。商圏が限られるのだ。特定エリア向けのサービスとしてはとても素晴らしい。一方で、物理的な場所に依存する以上、マス向けサービスとして拡大していくことは難しい側面がある。
サブスクの向き不向きは(やっぱり)ある
よく「サブスクに向かない商材はない」と聞く。あらゆるものがサブスク化できる、という意味だ。しかし、今回取り上げたように、実店舗を伴うサブスクには恒常的に課題がつきまとう。これを踏まえれば、あらゆるものがサブスク化できないわけではないが、向き不向きはあると言えないだろうか。また提供主体の規模によっても向き不向きはありそうだ。たとえば、今回紹介したような商圏が限られるような場合は、事業拡大が難しいサブスクであり、大企業が取り組むには向いていない。
普遍的に存在する課題に着目することで見えてくることもある。次回は、サブスクについて回る「卒業」問題にスポットを当てようと思う。
KDDI総合研究所コアリサーチャー 沖賢太郎
関連コラム
サブスクトレンド2023 〜 超レッドオーシャンでの加入者促進策〜NETFLIXの施策は「順番」に意味がある(2023-09-29)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4832
サブスクトレンド2023 〜「所有しない」価値観だけではない、家具家電サブスクを押し広げるもう1つの理由(2023-09-22)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4808
サブスクトレンド2023 〜車メーカーがソフトウェアサブスクで稼ぐ時代(2023-08-24)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4787