もう海外ブランドは選ばない、中国消費者たちの国産ブランド回帰
~国産ブランドの爆発的集客策~

 中国消費者は従来海外ブランドを好んでいた。国産ブランドは技術の遅れや品質の低さ、マーケティング手段の制限などで「安かろう悪かろう」のイメージが強かったからだ。ここでいう「国産ブランド」は、中国の企業によって製造され、その商標や製品名を所有していることを意味する。しかし、近年、海外ブランドの購入をやめて国産ブランドを選び始めた中国消費者が増えてきた。要因には、品質向上や販売チャンネルの多様化、発信力の強化、経済不況に伴う低価格志向、そして米中対立による愛国心の高揚が挙げられる。それに伴い、国産ブランド間の競争も激しくなっている。

 勝負のカギはオンライン販売への取り組みだ。特に、ライブコマースは国産品のブランディングに成功の道を開いている。

食・衣・住・移動にまつわる様々な分野で国産ブランドが市場を勝ち取っている

 Starbucks、adidas、Nike、ZARA、H&M、無印良品、Apple…中国で大人気だった海外ブランドの商品は売れなくなっている。消費者の支持を勝ち得たのは国産ブランドだ。

 飲食では、国産ブランドのLuckinCoffeeが2021年に店舗数でStarbucksを上回り[1]、2022年の売上は前年比で67%も増加した[2]。米上場廃止[3]などの苦境を乗り越えながら、創業5年で中国最大のコーヒーチェーンになっている(図表1)。一方で、Starbucksは今年第1四半期の売上が前年同期比で3割減少し、衰退傾向にある。

図表1 (左)LuckinCoffeeを楽しんでいる若者の様子 出所:SNS「小紅書(Red)」「@CooolKey」(右)LuckinCoffeeの店舗数がStarbucksを抜いてトップへ 出所:WeChat購読アカウント「網易数読」

 アパレルでは、スポーツウェア大手のadidasが2022年売上で前年比の半減、Nikeが2023年第3四半期売上で前期比の8%減となった[4]。対して、国産ブランドのANTA、Li-Ning、Xtepのいずれも売上を伸ばしている。

 インテリアでは、無印良品が2018年から既存店の売上を落とし、2019年純利益で約3分の1減となった[5]。人気を奪ったのはMINISOやNetEase Strict Selectionなどの国産ブランドだ。

 EV、携帯電話、コスメも国産ブランドの市場シェアが拡大しつつある。世界市場で存在感を高めている中国製EVは国内市場のシェアが81%になった[6]。携帯電話ブランドのトップ20のうち、2013年時点では海外ブランドのシェアは50%超を占めていたが、2021年に国産ブランドに追い抜かれている[7]。国産コスメの市場シェアも2020年に約46%に向上した[8]

要因には、消費者の志向に応えた品質・デザインの向上がある

 国産ブランドはもはや「安かろう悪かろう」のイメージではなくなっている。McKinseyの調査[9]によると、消費者の49%が「国産ブランドが海外ブランドより品質が良い」と認識している。Aurora Mobileの調査[10]でも、消費の主力を担う若い世代[11]は国産志向が高く、最大の理由に「質がより高い(61%)」を挙げている。

 国産ブランドは消費者の志向に応えた品質の向上に努めている。LuckinCoffeeは2021年に113種もの新商品をリリースし、迅速な商品開発で若者の好みの変化を捉える[12]。EV車のBYDは電池制御で技術の優位性を誇り、NIOは自動交換バッテリーでサービスの利便性を高める[13]。コスメでさえ原材料から機能に至るまで革新を重視し、2021年に業界全体の特許出願数が9445件に上った[14]

 また、デザインにおいて、多くの国産ブランドは中国伝統文化の要素を取り入れた「国潮国風」で若者の心を掴んでいるのだ(図表2)。NielsenIQの調査[15]によると、Z世代の70%が商品の外観を重視し、71%が「国潮国風」を好むという。

図表2(左)洛神賦アイシャドウパレット出所:コスメブランド「Florasis」の公式HP
(右) 甲骨文字がプリントされたシャツ出所:SNS「小紅書(Red)」「@中国李寧」

 

オンライン販売への取り組みの違いはマーケティングの勝敗を分けている

 Starbucks とLuckinCoffee の比較で、具体的な取り組みの違いを見ていこう。コーヒーショップを居心地のよい「第三の場」としたStarbucksは店舗運営に重点を置く。対して、LuckinCoffeeはオンライン注文の利便性にフォーカスする。客がモバイルアプリでオーダーや支払いを済ませてから、店頭または配達で商品を受け取る。こうした点での高い利便性は忙しいサラリーマンやタイムパフォーマンスの意識が高いZ世代に受けがよい。また、小型店舗による運営コストの低減と高い回転率による在庫ロスの抑制は低価格を実現させた。このモデルでLuckinCoffeeは市場シェアを大きく伸ばした。2019年からStarbucksもテイクアウト専門店をローンチしたが、手遅れだった[16]

 オンライン販売(EC)が重要となる理由は2つある。まず、共働き世代が多い市場で、購入方法の利便性が一層求められる。次に、経済不安定の中では低価格性も望まれる。ECでは、閲覧・購買データに基づいた需要予測により、在庫ロスの削減が可能になり、低価格化に貢献している。

ライブコマースは国産品のブランディングに成功の道を開いている

 ECをさらに進化させたのはECとライブ配信を組み合わせたライブコマースだ。国産ブランドがライブコマースを活用することでブランディングに成功している動向を特筆したい。

 コスメの「Florasis」は創業3年で業界トップに躍進した。引き金はライブコマースで名を馳せたトップインフルエンサー「@李佳琦」との提携だった。2020年にFlorasisの商品は「@李佳琦」のライブ配信で77回も紹介されたことで、EC「Taobao」での取引高は前年の10億元(約206億円[17])から約3倍の28億元(約577億円)まで拡大している[18]

 倒産寸前の老舗もライブコマースでリブランディングを実現している。洗剤ブランドの「活力28」は1990年代後半から、海外勢や新興勢の台頭で苦戦を強いられた。転機が訪れたのはライブコマースの活用だ。2020年に「活力28」は「@李佳琦」のライブ配信で30万個の商品を30秒で完売し、翌年の2021年には20億元(約412億円)の売上も達成した[19]。今年、「活力28」は買収の失敗によりまた倒産危機に陥ったが、工場幹部らの3人がライブ配信を開始し、一晩で500万元(約1億円)超の売上も記録した。

図表3 「活力28」の工場幹部がライブ配信で視聴者と交流する様子
出所:SNS「抖音(Douyin)」で「@九派新聞」が配信した動画のスクリーンショット

 ライブコマースを使えば成功すると想像するかもしれないが、そうでもない。

 まず、高い集客効果を果たせるライブコマースの活用術には2つの条件を備える必要がある。1つ目は、気軽に楽しめるエンタメコンテンツの提供だ。「@李佳琦」は商品の利用シーンや美容知識、化粧のコツなどを視聴者へ共有する。「@活力28」は、年長の幹部が視聴者の協力を得ながら配信方法を不器用に学んでいる様子や、贈られたバーチャルプレゼントに対して「誰がレンガを投げ込んだの?」と驚く「笑いの裏に涙を誘う」話で注目を浴びた。さらに、2022年の「11.11(独身の日)セール」で7億元(約144億円)もの売上を達成した「@董宇輝」は商品にまつわる英語表現や人生の哲学を教えながら、農産物や本を売るスタイルで人気を博している。2つ目の条件は、購買意欲を促すトリガーの提供だ。ライブコマースは機能上で6つの直感センサー(人々が直感的な買い物を決定する時に感応するセンサー)に働きかけることにより、コンバージョン率を向上させていると筆者は考える[20](図表4)。業界関係者[21]によると、従来EC のコンバージョン率は3-5%に留まるが、ライブコマースでは20%に至るという。

図表4 ライブコマースにおける購買意欲を促す直感センサー
出所:小林(2019)[22]が提唱した直感センサーに基づいて筆者が分析・作成

 また、ライブコマース活用の注意点として、配信スタイルとブランドのミスマッチを取り上げたい。ライブコマースを配信するインフルエンサーのうち、「@董宇輝」に代表される「知識コンテンツ」もあれば、「@瘋狂小楊哥」のようなコメディアンや俗っぽいギャグで注目を浴びるものもあり、多様化が進んでいる。Yves Saint Laurentは、日次で1億元(約21億円)超の売上を誇る「@瘋狂小楊哥」のライブコマースを起用したものの、結果的にブランドイメージの毀損を招くこととなった。失敗の原因はハイエンドブランドYves Saint Laurentの商品を乱暴にテストしたからだ。「ブランドへの好感を失った、もう使わない」との不満の声が相次いだ(図表5)。ライブコマースの販促効果を狙っている一方で、配信コンテンツがブランドイメージに与える影響への理解不足は戒めになるだろう。

図表5 髪を乱し凶暴な顔での商品紹介を批判する投稿
出所:SNS「小紅書(Red)」「@還是算了吧」

中国市場でモノを売るために必要な4P(Product、Price、Place、Promotion)は一変した

 中国市場では、海外製というだけでモノが売れる時代ではなくなった。競争を勝ち抜くために、商品のデザイン性や迅速な新品開発(Product)、低価格性(Price)、販売チャンネルの利便性(Place)が求められている。そして、販促(Promotion)には発信コンテンツのエンタティメント性だけでなく、購買意欲を掻き立てる直感センサーへの働きかけも重要だ。同時に、Yves Saint Laurentの失敗例が示唆したように、発信コンテンツの効果を鵜吞みにするリスクも警戒しなければならない。

 海外ブランドにとって、モメンタム回復には今の中国に合わせたマーケティング戦略(4P)の練り直しが必要だ。特に、後手に回っているEC(Place)やライブコマース(Place、Promotion)への注力が挽回の肝となるだろう。

KDDI総合研究所コアリサーチャー 劉亜菲

◼️関連コラム
サブスクトレンド2023番外編 〜実店舗を伴うサブスクの共通課題(2023-1-11)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4966

サブスクトレンド2023 ~中国の「悦己消費」ムーブメント、自分の喜びのためのサブスクサービス(2023-11-01)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4903

サブスクトレンド2023 ~親にも子どもにも両方良しの子育てサブスク~(2023-10-23)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4869

◼️関連論文
劉亜菲(2022)「ライブコマースによって変容する消費行動:中国ライブコマースの成功要因と日本に適用する際の対応策」日本マーケティング学会 ワーキングペーパー
https://www.j-mac.or.jp/wp/dtl.php?wp_id=122

◼️参考文献
[1]黄可楽(2022)「瑞幸复活,但它的対手早就不是星巴克」WeChat購読アカウント「網易数読」https://mp.weixin.qq.com/s/VMMrqCCXGJMejvZvCcddpg

[2]謝九(2023)「為什么国内喝星巴克的人越来越少了?」『三聯生活週刊』https://www.lifeweek.com.cn/article/193450

[3] 2020年4月に、LuckinCoffeeは2019年の売上高の大半が幹部らによって水増しされていたと発表した。これが株価の急落を招き、中国の証券当局と米証券取引委員会は調査に着手した。同年6月には米ナスダックが同社の上場廃止を決定した。出所:Reuters (2020)「中国ラッキンコーヒー、不正会計問題巡りSECに和解金1.8億ドル」https://jp.reuters.com/article/idUSKBN28R004/

[4] 郭楨(2023)「从財務報表看2022年阿迪达斯和耐克在中国銷售退潮」「新華財経」https://f3.cnfin.com/group1/M00/0A/0D/rB02iWRJ4oeASUSmAAYqXcLa7oE348.pdf

[5]蘇晚水(2021)「打不過名創優品,無印良品還輸給了1688」WeChat購読アカウント「網易数読」https://mp.weixin.qq.com/s/mJzNAm8wl1H0kLsBXlzAtw

[6] Team Counterpoint (2023)“One in Four Cars Sold in China in 2022 Was an EV With BYD Powering Country’s Outperformance” https://www.counterpointresearch.com/insights/china-ev-sales-2022/

[7] 沢沛達(Daniel Zipser)、許達仁(Daniel Hui)、周嘉、張悦(2022)「2023麦肯錫中国消費者報告:靭性時代」McKinsey&Company, https://www.mckinsey.com.cn/wp-content/uploads/2022/12/20221208_China-consumer-report-CN.pdf

[8]前瞻産業研究院(2023)『2022年国潮発展藍皮書』https://mp.weixin.qq.com/s/OXYF8wfD9dtHC0aI1xEQUw

[9] 同注7

[10] Aurora Mobile(2021)「2021新青年国貨消費研究報告」https://36kr.com/p/1420479967624838

[11]「90後(1990年代生まれ)」「00後(2000年代生まれ)」の世代を指す。2020年にその人口数が3億を超えている。

[12] 同注1

[13] 薬文江・佐伯真也(2023)「中国EVの実力、特許分析で鮮明 電池制御や交換など軸にコロナ禍でも出願倍増」https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00485/011000016/

[14] iiMediaResearch(2023)「2023年中国国潮美粧消費趨勢洞察報告」https://mp.weixin.qq.com/s/dnqP0Z0D5brI4nw4u2wx6w

[15]NielsenIQ&哔哩哔哩洞察 (2021)「2021年Z世代食品飲料消費洞察報告」https://www.199it.com/archives/1299506.html

[16] 吴筱「星巴克开了全球首家“啡快”概念店,离瑞幸自提店不到20米」https://36kr.com/p/1724011593729

[17] 1元=20.60円で換算(2023年11月末TTM)、以下同

[18] 齐敏倩(2021)「李佳琦捧紅的花西子,凭啥这么貴?」『澎湃新聞』https://m.thepaper.cn/baijiahao_12618054

[19] 叶曼至(2023)「“野性消费”让活力28重生:老国貨品牌沉浮73年,62歳员工決定延遅退休」WeChat購読アカウント「時代週報」https://mp.weixin.qq.com/s/1fE66H1LmnkgZEI0tNJcgA

[20] 二つの条件の詳細について、筆者が執筆した論文「ライブコマースによって変容する消費行動:中国ライブコマースの成功要因と日本に適用する際の対応策」(日本マーケティング学会 ワーキングペーパー2022年5月https://www.j-mac.or.jp/wp/dtl.php?wp_id=122)をご参照ください。

[21] 徐冰倩・廖静娜(2019)「直播電商転換率最高可达100%,蘑菇街家紡珠宝类主播崛起」『南方都市報』https://page.om.qq.com/page/OS7lMANilfd-BDHGYzYdi1Ng0

[22] 小林伸一郎(2019)「消費者が『ピンとくる』6 つの直感センサー:買いたくなるを引き出すために:パルス消費を捉えるヒント(3)」ThinkwithGoogle, https://www.thinkwithgoogle.com/intl/ja-jp/marketing-strategies/app-and-mobile/shoppersurvey2019-3/