研究員がひも解く未来

研究員コラム

サブスクトレンド2023 番外編
〜サブスクの卒業問題を考える

サブスクの「卒業」問題

前回に引き続き、特定サブスクにおいて常に存在する課題を考える。今回はサブスクの「卒業」だ。ここで言う「卒業」とは、ユーザーがサービスを解約して旅立っていくことだが、ユーザーの不満による解約ではないところが普通の解約と異なる(図表1)。

たとえば、キュレーションサブスクの卒業。目利きである専門家が選んだ商品が毎月届くキュレーションサブスクでは、ユーザーはサブスクを利用しているうちにだんだんと自分の好みがわかってくる。そしてサブスクを卒業して、自分自身で選んで好みの商品を好きな場所で好きな時に買うようになる。

また、商材の性質上、ある時点までは必要だが、そこを過ぎると完全に不要となるサブスクもある。たとえば離乳食のサブスク。離乳食が必要な時期を過ぎれば、ユーザーは全員卒業していく。後述するマッチングアプリなどもそうだろう(この場合、卒業者がしばらくして復活するケースもあるだろうが)。

今回は、このような「卒業」への対策を紹介する。

図表1 サブスク特有の卒業(解約)
出所:筆者作成

キュレーションを超えた体験価値の提供を

日本酒サブスクの「SAKE LIFE」は、ユーザーの好みに合わせて日本酒を定期的にお届けするサービスであった。日本酒に馴染みのない若い人たちに日本酒の美味しさを伝えることをコンセプトにしたサービスで、実際の利用者も20〜30代[1]と狙い通りの層に届いていた。しかしSAKE LIFEでは「卒業」してしまう人が多かったため、サービスの継続が難しくなり終了となった。解約した人たちは「自分の好みがわかってきた」、「自分で選ぶ自信がついた」[2]といった感謝の言葉を残していたことから、不満があっての解約ではない。目が利くようになり、満足して解約する。まさに卒業だ。キュレーションがユーザーを育てると卒業してしまうのはジレンマだ。

そこで紹介したいのが、同じく日本酒サブスクの「fukunomo」だ。福島の地酒とおつまみセットで提供する(6,600円/月〜)。日本酒とそれに合うおつまみを組み合わせて提供している点がこれまでの日本酒サブスクとは異なる。さらに利用者は、オンラインでの酒蔵見学や蔵元とのオンライン飲み会にも参加できる。キュレーションを超えた体験価値だ。このような取り組みが奏功してか、サービスの平均継続率は95%となっている[3]。さらに、体験価値向上のためにリアルな酒蔵ツアーを検討中だという。昼間に蔵元見学、夜は参加が集まり地元銘酒を飲み交わす、など[4]。大規模に展開できるものではないが体験価値としてはとても良いのではないだろうか。

図表2 地酒とおつまみのサブスク「fukunomo」
出所:fukunomo

卒業した人を味方につけて新たな集客を

マッチングサービスではカップルが成立すればそのカップルは卒業していく。目的が達成された時点で必ず解約に至るという点で離乳食サブスクと同じだ。

マッチングアプリの「ペアーズ」は日本・韓国・台湾でサービスを展開しており、累積ユーザー数は2,000万人を超える[5]。ペアーズでは、恋人ができた上での解約者を卒会者と呼ぶ。ペアーズは卒会者コミュニティーを運営しており、交流会を開いたりペアーズのプロモーションに参加してもらったりしている。卒会者が自身の成功体験とともにサービスの価値を伝えることで、新たな集客につなげている、つまり(元)顧客が顧客を呼ぶサイクルを実現しているのだ[6]

図表3 ペアーズの卒会者によるプロモーションの一例
出所:ペアーズ

やむをえない卒業からの「復活」を目指す

ヤッホーブルーイングは、主力商品の「よなよなエール」や「水曜日のネコ」などのクラフトビールの定期便(4,180円/月〜)を提供している。ここでも商品特有の卒業がある。妊娠をきっかけに解約するユーザーが多くいたのだ。

そこで同社は2023年3月、卒乳したタイミングのお客さんがまた戻ってきてくれるように、「卒乳してビール飲めるねセット」を無料プレゼントとして用意した。よなよなエール2本と卒乳証書1枚のセットであり、希望者は特設サイトから誰でも応募できる。これまでのユーザーの復活を歓迎すると同時に、新たなファン層を迎え入れようという施策だ。

反響も大きかった。応募開始から間もなく、用意した5,000セットに対して25,000超の応募があり、急遽4,000セットを追加することになった[7]

図表4 ヤッホーブルーイングの「卒乳してビール飲めるねセット」
出所:ヤッホーブルーイング

工夫によって進化しているサブスクが今も支持されている

サブスクは顧客に継続的に価値を提供するビジネスだ。サービスの価値を磨き続け、解約を防ぐことは、サブスクビジネスの「基本のき」である。しかしサービスによっては、今回取り上げたような「卒業」が発生するものもある。ということで、その対策を取り上げてきた。

様々な分野に広がったサブスクだからこそ、分野によってサービスが抱える課題もいろいろだ。その中でも、活路を見出すための企業による工夫には感服だ。サブスクブームが終わりサービスの淘汰があったが、このように進化を続けているサービスがあることは見逃せない。進化しているから生き残っている、支持され続けている、と言った方が正しいかもしれない。

KDDI総合研究所コアリサーチャー 沖賢太郎

◼️関連コラム
サブスクトレンド2023番外編 〜実店舗を伴うサブスクの共通課題(2023-1-11)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4966

サブスクトレンド2023 ~中国の「悦己消費」ムーブメント、自分の喜びのためのサブスクサービス(2023-11-01)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4903

サブスクトレンド2023 ~親にも子どもにも両方良しの子育てサブスク~(2023-10-23)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4869

◼️参考文献
[1] SAKETIMES(2017.02.23)
https://jp.sake-times.com/special/interview/yamamotoikoma_vision2017

[2] 日経クロストレンド(2018年10月10日)
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00055/00011/

[3] fukunomo
https://f-life.store/lp?u=fukunomo_f_sake

[4] 日経新聞(2023年6月15日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODB132J10T10C23A6000000/

[5] Eureka(2022.08.05)
https://eure.jp/press/20220805/

[6] 「サブスクリプションで売上の壁を越える方法」(西井敏恭・著)

[7] IT media(2023年03月31日)
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2303/31/news072_3.html