研究員がひも解く未来

研究員コラム

暮らしを豊かにするタイム“コントロール”マシン

仕事や子育てに追われ、もっと時間が欲しい、と思うことが日々ある。そんな時にドラえもんのひみつ道具のタイムマシンや、ハーマイオニーのタイムターナーがあればと思う。タイムターナーがあれば、同時間に複数の授業に出席できる。時空を超えて移動をする夢のタイムマシンの実現は難しいが、タイム“コントロール”マシンのようなサービスやモノはすでにある。これらを活用することで、過去や未来に行くことはできなくても、自分に与えられた時間を効率的に使う工夫はできる。

ニューノーマルなライフスタイルでは自ら時間管理が必要

コロナ禍で、否が応でも私たちは時間の過ごし方を変えなければならなくなった。在宅勤務という働き方が広がり、通勤にかける時間を減らした。一方で、電車の到着時間に合わせ行動していたものを自分で管理しなければならなくなった。通勤時間という決められた時間の中で、勉強や情報収集をしていた人もいるだろう。私自身、電車で過ごす時間は家族の時間でも仕事の時間でもない、自分だけの時間と捉え、家ではなかなかできない勉強や読書、暇つぶしの時間としていた。決められた時間(タイムプレッシャー)の中で、強制的、効率的に行っていたものを、自らの裁量で時間を管理(行動を管理)する必要が出てきた。

時計メーカーのセイコーホールディングス株式会社は、2017年から毎年、6月10日の「時の記念日」に合わせ、生活者の時間についての意識や実態を探る調査「セイコー時間白書」を公開している。直近の調査(2021年5月)では、コロナ禍で自分の時間(仕事や学校、家事をするオフィシャルな時間以外のオフタイム)が増えた一方、学生の半数以上が、「何もしない時間が増えた」と答えており、時間の使い方を持て余しているという結果が出た。また、在宅勤務をするリモートワーカーでは、仕事に集中しすぎて気が付いたら日が暮れていた経験がある人が40.4%にも上り、前年より5%以上増えたという(図表1)。在宅勤務ではオンとオフのメリハリがつきにくく、オーバーワークに陥ることが懸念される。

【図表1】仕事に集中しすぎて気が付いたら日が暮れていた経験
(出典)セイコー時間白書2021
https://www.seiko.co.jp/timewhitepaper/2021/detail.html

注目される時間管理法「ポモドーロ」

ポモドーロと言えば、イタリア語で「トマト」という意味だが、時間管理のポモドーロ法は、考案したイタリア人のフランチェスコ・シリロが使っていたトマト型のキッチンタイマーに由来しているという。このテクニックは、①すべきことをリスト化し、これから行うタスクを選ぶ②作業時間としてタイマーを25分(1ポモドーロ)にセットする③タイマーが鳴るまでタスクに集中して作業する④タイマーが鳴ったらリストにチェック(終了の印)をつける⑤少し休憩する(5分程度)⑥4つチェックをつけたところで20分の休憩をとる、という6つのステップで構成されている(参照:https://francescocirillo.com/ )。25分と決められた時間で作業を終えようと集中するため、作業が捗るというものである。ポモドーロ法は新しいものではないが、在宅勤務や自主学習の時間が増えたことで、なかなか自宅では集中力が続かないことの対処法として、注目が集まっている。作業に集中できるだけでなく、時間内でできる作業量や勉強量の感覚が身につくため、必要な時間を正確に見積ることができるようになるという。自分では半日もあれば終わるだろうと見積もっていた業務が、実際は丸1日費やしてしまったということも少なくなるというのだ。

ポモドーロを実践するためのタイマーやアプリなども多く出回っている。アプリの場合、集中するつもりがついついスマホを見てしまうということもあり、物理的なタイマーの方が人気のようだ。ポモドーロタイマーや勉強タイマーと呼ばれるものは、キッチンタイマーと違いアラーム音量の調整や無音にする機能が備えられているものが一般的で、光や振動で時間を知らせるものもあり、集中力を妨げにくく、自宅以外の塾や図書館など静かな環境でも使いやすい工夫がされている。

おいしさは時間を超えて

在宅勤務で時間いっぱいまで仕事に没頭していると、なかなか夕飯作りまで頭が回らない。そのような時、冷凍食品は頼りになる。冷凍食品といえば、少し前まで、お弁当のちょっとしたおかずや麺類・チャーハンなど簡単な食事といったものが多く、餃子などの一部メニューを除き夕飯として食卓に出すことに、私自身少し抵抗があった。しかし、最近では、パンデミックにより外食が減ったことで、冷凍食品の需要が高まり、各社が新商品を投入し、その種類が格段に増えた。また、近年、急速冷凍・瞬間冷凍などの技術が進化したため、味も冷凍食品とは思えないほど本格的なものが増えている。

セブン-イレブンやローソンなどのコンビニチェーンでは、オリジナルの冷凍食品が順調な推移を続けているという(参照:食品産業新聞社)。また、無印良品は、2018年から冷凍食品の発売を開始しているが、昨年からアイテム数を大幅に拡充し、ミールキットやカット野菜まで取り扱っている(写真1)。「レンジでチンするだけだと、手を抜いているようで罪悪感がある」という社員の声を聞いてミールキットをラインアップに入れたといい(参照:日経クロストレンド)、無印良品は食に関しても“感じ良い暮らし”を提案している。

【写真1】無印良品の冷凍食品ミールキット
出典:無印良品ネットストア
https://www.muji.com/jp/ja/store

一方、古くから冷凍食品を扱う企業への注目も高まっている。イオンと提携し、2016年に上陸したフランスの冷凍食品専門スーパーマーケット「Picard(ピカール)」。前身の氷製造の創業から数えると100年以上の歴史をもつPicardは、地元フランスで国民食と言われるくらい普及しているが、日本でもコロナ禍で知名度を上げつつある。見た目に鮮やかで、本格的なフランス料理が味わえることに加え、ヨーロッパの厳しい基準を満たす化学合成肥料や農薬を使っていない商品も扱っている。家で作る料理ではなかなか出せないレストランのような味つけがされており、おうちごはんのレパートリーが広がるということで人気を集めている。

もともと価格が安定していることや手軽に食べられる等のメリットがあった冷凍食品だが、ここ数年でさらにその魅力を増した。野菜や魚などの旬な時期にとれたものや、おいしく料理したものをその瞬間に閉じ込め、自分の好きなタイミングで食べることができる。もはや冷凍食品は間に合わせや手抜きの食事ではなくなっている。おいしく手の込んだものを手間も時間もかけずに食べられる、手「間」抜きの食事に変わりつつある。また、賞味期限が長く、小分けにして食べられるため、食品ロスを減らせる利点があることも冷凍食品の大きな魅力の1つになっている。

コロナという未知の不便が生み出した暮らしの知恵

1日の時間は皆平等で、どうしたって増やすことは不可能だ。限りある時間を充実させるには、オンの時間の効率や生産性を上げ、オフの時間を贅沢に好きなことに使いたい。ポモドーロは1つの例だが、オンとオフのメリハリをつける工夫になるし、冷凍食品については、オンの効率性もオフの家族で過ごす時間の豊かさも満たしてくれる。

前述のセイコーの時間白書では、コロナ禍で時間の過ごし方が変わったことで、時間の価値を改めて見つめ直す人が増えているという。コロナ以前より、国のワークライフバランスや働き方改革の推進もあり、仕事と生活の両方を充実させる生き方が模索されていた。しかし、実際のところ働き方や働く時間、ライフスタイルが大きく変わるまでには至っていなかった。パンデミックにより奇しくも大きくライフスタイルが変化したことで、自分の時間が増え、仕事と生活の両方を充実させる生き方に現実味が帯びてきている。

未知なる災いを克服するのは、最新技術ばかりではない。すでに存在する技術の組み合わせや、日々の暮らしの中にもそのきっかけが潜んでいる。コロナ禍というこれまでにない制約の中に生まれたタイム“コントロール”マシンを取り入れながら、自律的に時間管理をすることで、少しでも仕事と生活の両方を充実させていきたい。

KDDI総合研究所アナリスト 畑中梨沙