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Title: Singapore Telecomの海外進出状況について
Updated: 2007/08/15
Category: 市場分析
Areas: アジア 太平洋

Singapore Telecomの海外進出状況について

2007年6月28日、Singapore Telecom(以下「SingTel」)はパキスタンの携帯電話事業者であるWarid Telecomと戦略的提携を締結し、Warid Telecomの株式30%を7.58億US$(925億円)で取得すると発表した。Warid Telecomへの出資に伴い、SingTelはアジア・太平洋の8地域で携帯電話事業に関与することになるが、グループ傘下の携帯電話加入者は1億3000万人となる。シンガポール及び豪州では電気通信市場も成熟期を迎え、携帯電話事業の競争が激化しているため、今後ともSingTelのアジア携帯電話市場への進出は継続するものと想定される。
(1)SingTelの海外投資状況
2007年3月末の海外投資先は20以上の国・地域にまたがっている。主要な海外投資先は豪州のSingTel Optusの他は、AIS(タイ)、Bhart(i インド)、Globe Telecom(比)、PBT(バングラデッシュ)、Telkomsel(インドネシア)といった、アジアの携帯電話会社である。
(2)SingTelグループの財務状況
2007年度(2006/4~2007/3)のグループ全体の売上は前年比0.1%増の131.51億S$(1兆573億円)で横這いであった。一方、純利益は前年比-9.2%の37.79億S$(3038億円)に減少している。
グループ全体の売上に占めるSingTel及びSigTel Optusの構成比率は32%:68%であるが、利益ベースでみると海外アソシエーツ(overseas associates)と呼んでいる海外携帯電話事業者(特にインドネシアTelkomsel及びインドBharti Airtel)からの貢献が目立っており、EBITDAベースではグループ全体の39%を稼ぎ出していることとなる。
SingTelの海外携帯事業5社への累積投資額は54.47億S $(4379億円)であり、これにOptus買収の117億US$(1兆4276億円)及びWarid Telecomへの7.58億US$(925億円)の出資を加えると、その総額は単純積み上げでも、海外携帯事業に、日本円換算で約2兆円相当を投資したことになる。
このような積極的な海外投資のおかげで、今や、海外アソシエーツはSingTelグループ全体のEBITDAに多いに貢献しているが、インドやインドネシアの携帯電話普及率の低さを踏まえると、今後ともこの傾向は継続・拡大するものと予想される。
(3)SingTelの今後の海外投資
今後とも、グループ全体の更なる収益拡大を目指すのであれば、パキスタンに続き、アジア携帯電話市場への投資を継続する必要があるが、アジアの場合、各国の政情不安や通信規制の見直し等も将来のリスク要因に入れる必要がある。残されたアジア市場はどこであろうか? ベトナムのVNPT傘下の携帯電話事業者であるMobiFone及びVinaPhoneの民営化は2008年後半に予定されている。成熟市場の欧州をベースとするVodafoneもその投資先をアフリカ・アジア諸国へシフトさせており、「オイルマネー」を背景にしたアラブ諸国の通信キャリアもアジア市場への参入を画策している。
今年4月にグループCEOに昇格したMs. Chua Sock KoongはFinancial Reportの中で「これまでの海外投資戦略はアジア中心であったが、他地域の電気通信市場の進展も見ながら、これからは中央アジアや中近東にも目を向ける必要がある」としているが、中央アジアや中近東の携帯電話事業で、アジアのような成功が期待できるとの保証はない。
携帯電話先進国の携帯電話市場はどこも成熟期に近づきつつある。そのような状況の中で、SingTelが海外投資対象を携帯電話事業に特化していくのか、それともFMCをも睨んでいるのか、同社の今後の海外戦略の「次の一手」に注目する必要がある。

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