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Title: シンガポールの第2位総合事業者StarHubのHubbing戦略
Updated: 2007/10/17
Category: 市場分析
Areas: シンガポール

シンガポールの第2位総合事業者StarHubのHubbing戦略

1998年設立のStarHubは、旧来事業者Singapore Telecom(以下「SingTel」)に対抗するシンガポールの第2位キャリアである。携帯専業のMobileOneと違って、SingTel同様総合性を持つ。
ただし、第2位キャリアといっても、歴史的に蓄えた潤沢な資金力を背景に対外進出で成功してきたSingTelとは、売上等で依然大きな開きがある。しかし、StarHubは着実に力をつけており、同社はそれには” Hubbing ”と銘打たれたマーケティング戦略が一定の効果をもたらしてきたとし、年次報告書等に紹介されている。
StarHubの2006年度年次報告書の表題は、” Hubbing is The STAR ”となっており、同社がHubbingを戦略の中心に据えていることがわかる。Hubbingという言葉を含めこの表題は社名にかけたものと思われるが、Hubとはもともとコシキ(車輪の中心)のことである。
一つ一つのサービスをスポーク(Spoke)とすれば、それらを複数接合して販売することでより効果を上げることを意味する。特に、Hubbingでは同社の柱となった携帯電話の販売増を狙っているように見受けられる。
StarHubはCATV事業者でもあることから、自社サービスとしての放送をHubbingに含めてきたことは大きな特徴といえる。
同年次報告書には具体的な数字は示されていないが、Hubbingでは毎月の加入料に大きな割引(significant subscription discount)があり、顧客の維持拡大に寄与していると強調されている。
StarHubは、Hubbingの効果として以下を具体的に例示している。
○ 最重要サービスとしてのモバイルへの寄与
⇒ より多くのサービスに加入する顧客ほど、モバイルARPUが高くなる。
○ コア顧客数の増加率が最大化
⇒ より多くのサービスに加入する顧客(コア顧客)ほど、顧客数の増加率が大きくなる。
○ 会社業績の中長期的上昇
⇒ 2001年度と2006年度の業績を比較すると大きく成長。2005年度に単黒化達成。
○ 株主利益への貢献
⇒ 経営安定化を背景に減資を実施、株主に現金を還元。
今後、世界的にベースとしてのインフラ自体が統合網であるNGNに置き換わっていくなか、通信事業者にとってStarHubのHubbingのようなサービスの統合的提供は基本的に重要である。各種サービスのなかでもユーザを惹きつける一つのポイントは番組や映画などの動画コンテンツであろう。その際、多彩なニーズ(ロングテール部分)に応じることで差別化を図るため、アーカイブを含むニッチコンテンツのケアーは重要である。固定系アクセスインフラが不十分な各国のNCCにとって、StarHubのようにCATV網を放送コンテンツごと取り込むことは貴重な選択肢となるだろう。
なお、今後の見極めが必要なものも含め、その他のアプリケーションサービス(例:検索、コミュニティー、取引、セカンドライフ)も同様に重要であるが、これらがレガシーサービスとともに課金システム等のサポートを得て提供される場(=プラットフォーム)の造り込みの部分でも競合事業者との差別化は肝要となる。
また、ICTビジネスが急激に展開していくなか、CSR(企業の社会的責任)の見地からビジネス展開がもたらしうる社会的な負の側面には配慮する必要がある。事業戦略の策定実行に際して、一定のブレーキ感覚は常に備えておく必要があるだろう。

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