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Title: シンガポールが港湾向けモバイルWiMAXサービスを立ち上げ
Updated: 2008/05/14
Category: 市場分析
Areas: シンガポール

シンガポールが港湾向けモバイルWiMAXサービスを立ち上げ

本稿では、モバイルWiMAXのアプリケーションの一例として、シンガポールの港湾向けサービスである「WISEPORT 」について紹介する。WISEPORT は、UWIUreless-broadband-access for USEUaUPORTUの大文字部分で、政府が2007年9月に打ち上げた港湾向けITプログラム「Infocomm@SeaPort Programme」の導入プロジェクトの一環である。
導入プロジェクトにはWISEPORTのほか、車両積み替え線表・作業の最適化のための情報通信活用トライアル、バンカー(船舶燃料であるC重油)のサプライチェーンにおける労働集約プロセスの自動化、などがある。
Infocomm@SeaPort Programmeは、シンガポール海事港湾庁(Maritime and Port Authority of Singapore、以下「MPA」)とシンガポール情報通信開発庁(Infocomm Development Authority of Singapore、以下「IDA」)の協同プログラムで、両庁は共同で1200万S$(約8.7億円)の予算を割り当てた。
Infocomm@SeaPort Programmeは、IDAにとっては、同庁のiN2015 Masterplanの構成部分でもある。
WISEPORTは事業者QMax Communications Pte Ltd.の協力を得て2008年3月6日に提供開始され、当初1年間はトライアル年と位置づけられている。IDAのホームページのニュースリリース(2008.3.6)は、サービスとして「世界初」と記述している。
MPA会長(Chairman)のPeter Ong氏が2008年3月6日に行なった歓迎式辞によれば、WISEPORTのメリットとして、次の3点が挙げられている。
【運営・ビジネスプロセスの向上】
・インターネットとの接続、広帯域通信が、港湾内で活動する船舶を追跡する企業を支援する。
・停泊中船舶と陸上代理店との間のコミュニケーションが円滑化する。
・各種ドキュメント交換が迅速化する。
【人的コミュニケーションの向上】
船舶乗組員とその家族、友人との通信が向上する。電子メール、ウェブカメラ、ブログ等の手段が有効。
【新たな可能性】
これまで高い衛星通信料金によって妨げられてきた潜在的ビジネスチャンスが解き放たれる。電子航行図(Electronic Navigational Chart: ENC)の通信を介したアップデート等々。
QMaxによれば、当初の海事関連顧客500社(法人のみ)には、月次加入料金が1年間無料となるキャンペーンが張られており、同社はサービス開始時(2008年3月6日)にすでに250の顧客が存在するとしている。トライアル期間終了時のターゲット法人数500の半分がすでに達成されていることになる。
具体的顧客としては、Shell、APL、Global Marine Transportation、Tropical Marine Science Institute(TMSI)等があらたに利用への関心を示している。
MPA長官(Chief Executive)のTay Lim Heng氏によれば、WISEPORTのターゲット顧客には、ネットワークカバレッジ内の陸上コンシューマ(海事関係者)、クルーズ船の乗客、東南アジア地域のフェリーや客船等の外国船も含まれる。
携帯電話サービスを提供している事業者がモバイルWiMAXサービスで成功するには、携帯電話との差別化、市場における相互補完の視点は重要だろう。一般的には、モバイルWiMAXは、高速IPデータ通信、モジュール系、中高速移動体向きと考えられる。
WISEPORTのような船舶関連の通信は、障害物の少ない場(基地局を高台に置く大ゾーン)でのモジュール系データ通信がメインであり、モバイルWiMAX向きアプリケーションと言えるだろう。
港湾通信は一種の業務用無線であるが、広く「業務用無線」の観点から、画像や映像、音響を高品質に伝えることのできるモバイルWiMAXを陸上系フリートマネジメントに適用するなら、これまでの低品質音声主体のタクシー無線より優位に立てる可能性もあるだろう。また、空港電話の高度化サービスにもなり得るのではないだろうか。
なお、モバイル通信における優位性については、料金プラン、アプリケーション、コンテンツもさることながら、グローバルローミングにおける利便性、採用技術方式の中長期的優位性の部分も大きいと考えられる。その一方で、どのような技術方式にも長短が伴うものである。
よって、日々新たな研究開発が進むなか、事業者は中長期的視点に立ち、十分な顧客ベースの蓄積・確保、新たなターゲット市場の獲得を念頭に、採用技術方式、ネットワークの展開地域・規模に関して的確かつ柔軟に行動することが肝要であろう。

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