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研究員コラム

世界で増える「10代に向けたビジネス書」〜正解がない時代の道しるべ

10代に向けたビジネス書が増えている

最近、書店のビジネス書コーナーに、主に10代の若い人たちと、その年代の子を持つ親世代に向けて書かれたビジネス書が目に付くようになった(ここでいう「ビジネス書」とは、自己啓発本も含む広義の「ビジネス書」だ)。

・吉野源三郎、羽賀翔一「漫画 君たちはどう生きるのか」(2017/8/24)
・ヤニス・バルファキス「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話」 (2019/3/6)
・森岡毅「苦しかった時の話をしようか」 (2019/4/11)
・孫泰蔵「冒険の書 AI時代のアンラーニング」 (2023/2/16)
・古賀史健「さみしい夜にはペンを持て」 (2023/7/18)
・スコット・ハーショヴィッツ「父が息子に語る 壮大かつ圧倒的に面白い哲学の書」 (2023/11/29)
・山崎元「経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて」 (2024/2/15)

本のタイトルから明確にわかるものもあるが、親から子に向けて書かれたものが多い。著者である親が感じる、現代における懸念や課題を、それらへの向き合い方と共に子の世代にシェアしている。

学校では教わらない本質的なこと

このような本がよく売れているのはなぜだろうか?その答えを考えるために、実際に本に書かれている内容に少しふれていきたい。これらの本に共通して書かれていることは、学校では教わらないが本質的なことだ。以下に、本の概要をいくつか紹介する。

・「苦しかった時の話をしようか」(森岡毅)
著者は、元ユニバーサルスタジオジャパンのチーフマーケティングオフィサーで、現株式会社刀の代表であるマーケターの森岡毅氏。将来「何がしたいのか、よくわからない」という、ご自身の娘さん(当時大学生)に向けて書かれた本だ。資本主義の過酷な性質を踏まえたキャリア論であり、これから社会に出る若者たちを応援する内容。

・「冒険の書 AI時代のアンラーニング」(孫泰蔵)
先端テクノロジー分野で活躍する実業家・孫泰蔵氏による教育論。同氏の見解によれば、既存の教育システムは、それが作られた過去の特定の時代においては合理性と必然性があったが、現代社会には馴染まず、さらには子供たちの可能性を封じてしまうリスクが大きい。AIの驚異的な発達スピードを現場で見続ける同氏が提案するのは継続的なアンラーン(すでに持っている知識や価値観を捨てて、刷新していくこと)。

・「さみしい夜にはペンを持て」(古賀史健)
古賀史健氏は「嫌われる勇気」などで知られる著名ライター。書くことによる「自分との対話」のススメや、言葉の持つ力を説き、苦しい状況の中にあっても日記による内省を通じて希望を探していく童話仕立ての物語。

これらの本を通じて得られるのは、各々の専門家がそれぞれの経験の中で体得した、これからを生きる上でガイドとなってくれる知見だ。どれも大事であると同時に学校では教わらない。

ではなぜ今、10代の若い人たちに向けてそのような知見を伝えようとする本が増えているのか?それは現代が、情報に溢れていて、変化が速く何が正解かわからない時代だからだろう。大人であっても迷うことやわからないことが多くなっているのではないだろうか。このような局面で重要になるのは、小手先のテクニックや目先にある正解じみたものよりも、本質的なことだ。どんな時代にあっても、これからの世代の人たちが道に迷わないように「道しるべ」を用意したい、書き手にはそんな親心(大人心)があるのではないだろうか。少なくとも上記の3冊の内容からはそれを感じる。そして読み手側の親(大人)たちも、その「道しるべ」を子供たちに贈りたい。これが、この種の本が増えていて市場でも受け止められている理由だと考える。

「13歳」本も増えている

10代を想定読者とした本が増えていることは、別のアングルからもわかる。例えば、「13歳からの○○」のようなタイトルの本も増えている。「13歳からの経営の教科書」、「13歳からの地政学」、「13歳から鍛える具体と抽象」など。国立国会図書館のデータベースで「13歳」とつく本(マンガを除く)を発売年ごとに集計すると、その増加傾向がわかる(図表1)。ちなみに「14歳」、「15歳」などのタイトルの本も同様に増加傾向にあるが、最も発行数が多いのが「13歳」本だ。小学生から中学生への転換期にあたるこの年齢に向けた本が多いことはうなずける。

図表1 タイトルに「13歳」とつく本の出版数が増えている
出所:国立国会図書館データベースを基に筆者作成

海外でも「○○ for teens」本が増加中

10代に向けたビジネス書が増えているのは海外でも同様だ。米アマゾンで「business teens」で検索すると、「Money Skills for Teens」、「Engineering for Teens」、「Investment Guide for Teens」といった本が700冊以上ヒットする。これを発売年ごとに集計すると図表2のようになり、やはり増えていることがわかる。

図表2 米国でも10代向けビジネス書の出版が増えている
出所:米Amazonのデータを基に筆者作成

正解がない時代の道しるべ

世界で増える10代に向けたビジネス書。不確実で変化が早いこの時流が続くのであれば(たぶん続く)、このような本はさらに増えていくのではないか。さらには、書籍以外の分野、例えば動画コンテンツや教育コンテンツなどに波及していってもおかしくない。いずれにせよ、まずは公教育とは別のところから大きな変化が出てくるのではないだろうか。ただし、そうなるとまた情報の氾濫につながり、「道しるべ乱立」のような本末転倒なことにもなりかねないが、そうなった時の対処法はまたその時に論じたい。

KDDI総合研究所コアリサーチャー 沖賢太郎