研究員がひも解く未来

研究員コラム

AI旅行プランナーが導く、家族の新たな体験

新緑の季節を迎えて、外出するのに適した季節になってきた。我が家では、妻が、購入したミラーレス一眼のカメラで写真を撮りたいという気持ちを抑えきれずにいる。小学4年生の娘も、あり余るエネルギーを発散するために外で遊びたがっている。そうした中、妻と娘に促されて6月に旅行することにした。自然豊かな風景などを写真に収め、子供が存分に遊べる場所を探すことにした。私自身も、これまで行ったことがない穴場のスポットを訪れたいと思い、旅行先を探してみることにした。

今回、訪れたことがない場所で家族3人が満足のいく新鮮な体験を得るために、4つのサービスを試して旅行プランを立てた(図表1)。数ある旅行プラン作成サービスの中でも、新たな旅行先を選定し具体的な行程を計画するために、生成AIを活用したサービスを利用した。本コラムでは、実際に旅行プランを作成した過程を振り返りながら、各サービスの効果的な使い方や生成AIを活用した計画がもたらす旅行の変化などを紹介する。

図表1:旅行プラン作成のために試行した4つのサービスの概要
出典:各社情報を元に筆者が作成

生成AIと旅行先・宿泊先を決める

家族3人の都合を確認し、6月第1週の週末に1泊2日で関東近郊への旅行を計画することにした。自宅の最寄り駅から公共交通機関を利用し、写真撮影に適した場所で子供が思い切り身体を動かして遊べる場所を訪れることにした。

まず生成AIを活用したチャットサービス「SABOROT」に旅行先の候補を尋ねてみた。SABOROTには、旅行先を提案する機能がある。SABOROTのWebサイトの「旅行先(国内)の選定」ページで、「旅行の時期」(6月)、「旅行の日数」(1泊2日)、エリア(関東)、旅行の目的(子供を喜ばせる、映える撮影スポットに行く)などの条件を指定した。そうすると、旅行先の候補として、「埼玉県・秩父」「栃木県・日光」「神奈川県・箱根」「千葉県・鴨川」「茨城県・大洗」の5地域が提案された(図表2)。

図表2: SABOROTによる旅行先の提案
出典:筆者がSABOROTで試行

そのうち、よく知らない秩父と行ったことがない大洗の2地域に候補を絞り、両者の雨天の場合の過ごし方についてもSABOROTにチャットで聞いてみた。その結果、秩父には、「秩父ミューズパーク」という屋内でも楽しめる場所があることが分かり、晴天・雨天のいずれの場合でも充実して過ごせそうな秩父を旅行先に決めた。

旅行先を決めたので、次に宿泊先も探すことにした。SABOROTに候補を聞いたところ、「秩父温泉 花月園」「ホテルおおたか」「秩父高原ロッジ」「コンフォートホテル秩父」の4か所が提案された。これらの宿泊先をWebで調べてみると、いずれも実在しないことが分かった。

そこで、旅行プランニング・予約サービス「NAVITIME Travel」にも宿泊先の候補を尋ねてみた。NAVITIME TravelのWebサイトの「ホテルの選択」ページで、目的地・エリア、チェックイン・チェックアウトの日、部屋数、大人・子供の人数を指定した結果、「いこいの村ヘリテイジ美の山」「ナチュラルファームシティ農園ホテル」などの複数の宿泊先が提案された。それらの中から、星の鑑賞会のツアーにも参加できる「いこいの村ヘリテイジ美の山」を宿泊先に決めた。

生成AIと旅行プランを作成する

宿泊先も決まったので、旅行プランを具体的に検討することにした。SABOROTにプランの提案を依頼したところ、1日目に三峰神社を参った後、長瀞でライン下りを体験し、2日目に秩父ミューズパークで遊ぶというプランが提示された。このプランでは、おおまかなスケジュールは把握できたが、利用する交通機関やルートが不明であった。

スケジュールの詳細を詰めるため、旅行プランニング・予約サービス「NAVITIME Travel」を用いることにした。晴天と雨天の各々の場合で、NAVITIME Travelにプランの作成を依頼したところ、鉄道のルートや乗車・降車時刻、立ち寄りスポットの滞在時間も盛り込まれた具体的なプランが提案された(図表3)。

一方、旅行プランニングサービス「AVA Travel」も試してみたが、プランは作成できるものの、具体的な交通機関を指定できないため、詳細なプラン作成には向いていないことが分かった。JTBの予約サイトも試したが、旅行プランの作成には、旅行先までのJR・新幹線または飛行機の利用が条件であった。今回の旅行では、それらの交通機関を利用しないため、プランを作成できなかった。

図表3:NAVITIME Travelを用いて作成した旅行プランの一部
出典:筆者がNAVITIME Travelで試行

最終的に、SABOROTとNAVITIME Travelを用いて作成したプランに沿って秩父に旅行することを妻と娘に確認した。予約が埋まらないうちにNAVITIME Travelと連携したJTBの予約サイトを通じて宿泊先を手配した。

生成AIで実現した満足のいく旅行体験

実際に旅行した結果、訪れたことがない場所で家族3人が満足のいく新鮮な体験を得るという当初の目的を達成できた。娘は、秩父ミューズパーク内のフィールドアスレチック「フォレストアドベンチャー・秩父」で高所のコースに果敢にチャレンジした。妻は、宿泊先の室内から雲海という初めての被写体をカメラに収めた。私自身も、美の山公園の展望台をいつかまた訪れて、「春の大曲線」だけでなく違う季節の星空も眺めてみたいと感じた。

図表4:いこいの村ヘリテイジ美の山から撮影した雲海
出典:筆者の妻が撮影

今回の旅行プラン作成には、結果として、SABOROTとNAVITIME Travelという旅行プランを提案する2つのサービスとJTBの旅行ツアー・宿泊先予約サイトを利用した。その一方で、今回試した4つのサービスごとに特徴があり、効果を発揮する場面に違いがあることが分かった(図表5)。検討の段階や目的、状況に応じて、これらのサービスを適切に組み合わせることで、より充実した満足のいく旅行プランを作成できる。

図表5:4つのサービスの特徴を比較した星取り表
出典:筆者が作成

今回、生成AIを用いることで、定型コースではなく、独自の旅行プランを自分自身で立てることができた。その際に、NAVITIME Travelでは、効率的な観光ルートや所要時間の見通しも確認できた。これまでは、旅行サイトで既存のパッケージツアーを予約するか、旅行会社に相談して個別プランを組むことが多かった。けれども、今回の旅行では、定番コースにはない意外な魅力に気づくことができた。

一方で、今回、SABOROTを利用して旅行先を決める際、「子供を喜ばせる」「映える撮影スポットに行く」を旅行の目的に指定したが、各項目で設定できる選択肢が限られていた。もう少し選択肢が広がると計画を立てやすくなるように思えた。提案される宿泊先や立ち寄りスポットの精度も、さらに向上するとありがたい。

遠い場所に限らず気軽に行ける近場にも、まだ気づいていないその土地の魅力がたくさんあるだろう。今後も、生成AIで計画した旅行によって、これまで見過ごしていた地域の魅力を発見し、日常を離れた新たな体験を積み重ねていきたい。

KDDI総合研究所コアリサーチャー 田中実

◼️関連コラム
ぼっちでグループワークをやってみた(2024-03-11)
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https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/4368

◼️参考文献
[1]SABOROTニュースリリース(2024/2/27)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000135626.html

[2]ナビタイムジャパンニュースリリース(2024/3/29)
https://corporate.navitime.co.jp/topics/pr/202403/29_5725.html

[3]AVA Intelligenceニュースリリース(2024/4/18)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000023.000047676.html