研究員がひも解く未来

研究員コラム

メーカービジネスがシフトする〜「モノ売り」から「ライフスタイル提案」へ

不名誉なランキング

1位 ジューサー、ミキサー
2位 ホットプレート
3位 たこ焼き器
4位 ホームベーカリー
5位 フードプロセッサー
6位 コーヒーメーカー、エスプレッソメーカー

上記は、買ったけど使っていないキッチン家電ランキング[1]である。思い当たるモノばかりではないだろうか。買う前はどれも魅力的であり、ついついその家電があるワンランク上の生活を妄想するが、買った後に実際に使用するのはせいぜい数回程度、というパターンも多いはず。1位のジューサーに至ってはもうランキングから外して殿堂入りさせてもいいのではないか(私も過去にジューサー2機を死蔵させている)。しぼりたての野菜ジュースで一日をスタートする生活は芸能人以外には不可能なようだ。

ところが、この嬉しくないランキングのレギュラーメンバーでもあるジューサー、ホームベーカリー、コーヒーメーカーなどを使った新しいサービスが登場した。パナソニックが2021年6月に始めたfoodable(フーダブル)だ。

マシン+食材をD2Cサブスクで提供

foodableは最新のキッチン家電と食材をセット提供するD2C(Direct to Consumer)型のサブスクだ。例えばホームベーカリーのコースでは、新品のホームベーカリーが利用でき7種類から選べるパンミックス(粉)が毎月1袋届く。同様に、スムージーのコースならタンブラーミキサー+冷凍スムージーキット、といった具合に全9コースを各々3,980円/月で提供する[2]

図表1 パナソニックのfoodable ホームベーカリーのコース
出所:パナソニック

このサービスには特筆すべきポイントが2つあり、いずれも今後のメーカービジネスの新しい支流に発展していく可能性があるためハイライトしたい。

① 「家電販売」から「ライフスタイル提案」へ

foodableが重視しているのは「ライフスタイルの提案」だと考えられる。つまり、焼きたてパンのある生活、オーガニックスムージーで始まる一日(石田純一以外の人にもできる!)などだ。

生活者と直接つながるD2C型のサブスクはライフスタイル提案に適している。ライフスタイルに合わせて企画した商品の価値を伝えながら提供する、しかも直接(D2C)かつ継続的(サブスク)にだ。foodableは家電と食材をセットで継続提供することで生活者の新しいライフスタイルを支援する。これは家電メーカーの伝統的ビジネスである製品売り切りモデルとは大きく異なる。公式にすると(しなくてもいいのですが)こういう感じだろうか。

(マシン+食品)×D2C型サブスク = ライフスタイル提案

② 他社との協業による価値づくり

パナソニックは機器メーカーなので当然ながら自社で食品開発などはしない。foodableは、食品を扱う企業との協業によってサービスを実現させた。例えば、ホームベーカリーコースの専用パンミックスは日清製粉が開発し提供している。スムージーコースの冷凍スムージーキットは楽天ファームが、コーヒーのコースの豆なら京都にある創業70年のキョーワズ珈琲が提供する。提案したいライフスタイルに合わせて様々なパートナー企業と組んでいるのだ。

また、冒頭ふれたように、家電は使わなくなってしまう可能性があるが、foodableはその要因にもしっかり対処している。例えば、ホームベーカリーを使わなくなってしまう大きな要因の1つが「材料の計量の手間」だ。foodableでは必要な粉をあらかじめミックスして1回分を個装する仕様にしたことで、利用者の計量の手間を省いた。サービス化の中で利用者のペインポイントも解消している。

マシン+食材のライフスタイル提案サービスは他にも

パナソニックは2019年に一足早く、同種のサービスとしてコーヒー焙煎のD2Cサブスク「ザ・ロースト」を始めている。利用者は焙煎器(!)を購入し、毎月送られてくる生豆(!)を自宅で焙煎して楽しむ(!!)という攻めたサービスだ。ここでも生豆は専門商社・石光商事との提携により調達しており、foodableと同じくライフスタイル提案型のサービスだ。パナソニックが伝統的なメーカービジネスとは異なる新たな可能性を模索していることがうかがえる。

パナソニック以外でも、デロンギの「ミーオ!デロンギ」は、デロンギのコーヒーマシンと、イタリアの老舗ロースター・ムセッティ社のコーヒー豆をセットで提供している。

図表2 デロンギの「ミーオ!デロンギ」
出所:デロンギ

キリンが提供する家庭用本格生ビールサーバー「ホームタップ」も、極上ビールがある暮らしを提案するサービスだ。ビールサーバー・ビール共に自社製品のため他社との協業こそないが、2021年は目標加入者数を前倒しで達成するなど、提案するライフスタイルが市場に受け入れられている。

図表3 キリンの「ホームタップ」
出所:キリン

シフトするメーカービジネス、次にくるのは?

前回コラム「大企業がD2Cを目指すワケ」でとりあげたように、メーカーは生活者とのダイレクトな関係を志向し始めている。それに伴い、メーカービジネスもまた、生活者に伴走するようなサービスに移行していくのも必然だろう。

その上で、次に何がくるか?冒頭のランキングは使っていない「キッチン家電」のものだが、対象を「家電」に広げた調査[3]では、美容家電が2位にくる(ちなみにここでもジューサーの首位は揺るがない。やはり殿堂入りだろう)。美容家電や健康家電そのもののサブスクはすでに多く存在する。美容家電・健康家電+○○で新しい価値を提案していく、次のチャンスはこのあたりではないか。

KDDI総合研究所コアリサーチャー 沖賢太郎

◼️関連コラム
大企業がD2Cを目指すワケ
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/582

◼️関連レポート
マスプロダクトがヒットしない時代のD2C (Direct to Consumer)
https://rp.kddi-research.jp/article/RA2019015
マスプロダクトが売れない時代のD2C – part2 - 〜国内D2Cビジネスや既存企業のD2C転換への示唆
https://rp.kddi-research.jp/article/RA2021015

◼️脚注、参考文献
[1] マイボイスコムによる調査(出所:DIME(2021.04.16))https://dime.jp/genre/1120093/
[2] 最低利用期間あり
[3] リクルート住まいカンパニーによる調査(出所:スーモジャーナル(2017.01.25))
  https://suumo.jp/journal/2017/01/25/126858/